第23話 不協和音 後編
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追ってくるかもな、とは思ったが恵比寿の駅ビルに入ってしまえば見つからないだろう、とカフェ内のテーブルでカップをそっと両手で包み、少しぼーっとしている。
注文したカフェラテは、碌に口を付けていない為、どんどんぬるくなっていく。
着信があった事は気付いていた。でも出たくなかった。
(何をしゃべれと・・・)
また喉の奥がキュウ、となりじわっと目が潤む。
(ここお店でーす。人いまーす。)
自分でそう言い聞かせて席を立つ。
(グリーン車乗っちゃおう。)
油断したらすぐに泣いてしまいそうだったのでグリーン車に乗る事にした。
目の前に立つ人は当然おらず、午後前の時間のグリーン車は空いていて隣に人も来ないだろう。
我ながら感情的な行動だったと反省している。移り変わりの激しい窓の外の景色を見ながら先程の自分の行動を思い出した。
(あの人途中でノリノリだったな・・・)
普通に『帰る』と言ったら絶対、『何でだよ。』『家まで(車で)送る。』とか言うだろうと思っていた。一人で帰る方法がアレしか思いつかなかった。
『嫌い』とまで言うのに、何で私と付き合ってるんだろう・・・?
ああ・・・エッチ出来るからか。深く考えるまでもなく、答えが出た。
そりゃそうだよね、彼女いればそういうお店行かなくて良いんだから。
あれだけ体力あるなら、彼女は常にいたんだろうな。
大事にはされているのかもって思ってたけど、はん君が言ってたみたいに『体目当てならどうとでも優しく接する事が出来る』て言うのは、こういう事だったのかもしれない。
別れる・・・?そこまでは思っていないのが自分でも腹立たしい。
ずっと奢ってもらえてラッキー!位どこかで考えていたのかもしれない。打算的な女で汚いな、と思う。
でも時間を大事にする人じゃなかったら即別れていたかもしれない。
私は外でもデートしたい、ただ、それだけなのに。
お家デート=エッチが普通なのかな。私の考え方がおかしいのかな。男女で付き合ってたらアレは避けられないわけだけど・・・
私も亮さんとするのは嫌いじゃない。むしろ・・・好きだし・・・だからもやもやするんであって。
ならやっぱり我慢しなきゃいけないのかな・・・
お家デートだけって事を。
何かもう考えるの面倒くさい・・・寝よ・・・
********************
「・・・良くないのにもう良い、とか言うの俺嫌いなんだけど。」
「!!!」
しずかが黙った。口がさらに尖る。
しまった、俺この前夢でしずかに大嫌いて言われてすごい苦しくなったじゃないか。それをリアルに俺がしずかに言ってどうすんだ。
「いや、あの、嫌いって言うのはさ、」
「トイレ!!」
顔を隠してトイレへ行ったから泣いていたかもしれない。
「あ~あ、やっちゃった・・・」
肘が乗っている膝に体重がかかる程、頭を項垂れた。
(外デートねえ・・・)
近所のレストラン連れてったら、そこの従業員がしずかに欲情してるの、トイレ待ちで聞こえたから外連れまわしたくない。
しずかの事チラチラ見てくる男も多い事に、しずかは気付いてないし。
(だから、外でデートしたくない。何て格好悪くて言えるかよ。)
ただ、泣かせたままなのはダメだ。トイレにいるしずかに声掛けるか、と思った所で
バタン!!
と、勢い良く扉が開いた。
目を座らせたしずかがこっちへ向かってくる。
(あ、目赤い。やっぱり泣いたんだ)
「しずかさっき、ごめ、んん?!」
何も言わず、ソファに座っている俺の上に跨ってキスをしてきた。
「んん?プハっ。どーした?」
しずかは無言で荒々しいキスを続ける。
パーカーをめくられ、俺のパンツのベルトに手がかけられた。
(えっ?!)
しずかも自分のニットを胸の上までまくっている。
(あ~仲直りのセッ、エッチて事か。なら俺も・・・)
しずかを抱きかかえソファへ押し倒した。
********************
「はぁはぁはぁ・・・しずかから求めてくれて嬉しいよ。」
「・・・」
俺の腕に抱き収めたしずかも息を整えている。
「汗結構掻いたから、シャワー浴びてくるね。しずかも後で入って来ても良いよ。」
X‘masの朝も一緒に入ったし、もう一緒に風呂入ってくれるかな、と思いつつおでこにキスをしてバスルームへ向かった。
(あ~やばい、かわいい。何だよもーあんなこと出来るのか~)
バスルーム内なのでニヤニヤを我慢しなかった。
『バタン!!!』
ん?玄関扉の音か?
ニヤニヤを抑えつつ、髪を拭きながらリビングへ戻るとしずかの姿がなかった。
(あれ?トイレか?)
扉の鍵はかかっていなかった。
「しずか?」
ガチャ・・・いない。
(寝室、もいない・・・まさか・・・帰ったのか?!)
玄関扉の音は気のせいではなかった様だった。
当然、靴も玄関に置いてあったコートもなかった。
困惑と焦燥感を抱えリビングヘ戻ると、スマホがチカチカしている事にようやく気付いた。
『用事思い出したから帰ります。』
帰りますって・・・シャワーも浴びずにエロい匂いとエロい顔してたら変な男に捕まるかもしれないじゃないか!!
髪が濡れていたがそれどころじゃない。上半身裸だったので、慌てて上を着、玄関へ行く。
(っと、その前に電話・・・)
『トゥルルルルル・・・』
ちっやっぱり出ないか。
俺が風呂入って10分も経ってないけど、すぐ家を出たのならもう駅には着いてるよな。
俺が駅着く頃には電車乗られてしまうから・・・
あー!!もう!!あのセッ・・・エッチは何だったんだよ!怒ってるなら怒ってるって言ってくれよ!
とは言え、このまま放っておけるわけもなく。
「くそっ!面倒くさいな!」
と言いつつ駐車場へ行き、彼女の自宅へ向かう事にした。
いつもよりスピードを出していたからか、かなり早く彼女の家に着いた。
『ピンポーン』
出ない・・・居留守?!あり得る・・・
『ピンポーン』
出ないか・・・
電話・・・も出ない。
「はぁ・・・出直すか。」
階段を降り、マンションの敷地内から道路の方へ近づいた所で、建物の影からしずかが現れた。
********************
「えっ???」
「あっ!今帰って来たのか、車の方が速かったな。」
「何でここに?」
「お前が勝手に帰るし、電話も出ないからだろ。」
「・・・お前って言わないで。」
所有物じゃないんだから。
「まだ怒ってるの?てか何に怒ってるんだよ。」
わからないのかい!!と心の中で突っ込んだ。ちゃんと言わなきゃダメなやつだ。
「お詫びするって言ったくせに、聞き入れてくれないから。」
「だから何でも買ってあげるって。」
「物じゃない!!」
「しずか、通行人びっくりしてるから。」
彼がシーっと言う仕草をしている。
通じない!!
・・・これは私が折れないと終わらないやつだ。
「はぁ・・・わかった。そしたらアイス買って。」
全てが面倒くさくなり、彼のお望み通り、物で解決してあげようと思った。
「アイス?」
「そう、アイス。」
「そんなんで良いの?」
「いーからコンビニ行こ。」
「機嫌直してくれて良かったよ。」
(直ってないわよ・・・)
言ったら話が終わら無さそうだったので黙っていた。
「アイス食べたら帰ってね。」
私の部屋のソファでアイスを食べながら上機嫌の彼が寛いている。
今は一緒に居たくない。早く帰って欲しい。
「え?泊めてくれないの?」
「この後友達の家に行くから。」
「そうなの?」
「相談があるんだって。」
「あ、用事って本当だったんだ。てっきり嘘かと。」
ズキィ!! (嘘です!)
「友達の家まで送ろうか?」
「自転車で行くから平気。」
スラスラ出てくる嘘に自分でもびっくりしている。
「そか。帰り気を付けなよ。暗くなるの早いし。」
「うん・・・」
私を心配する言葉に少しだけ罪悪感が浮かぶ。
いつも見送っていたけど一緒にいたくなくて、準備するから玄関でバイバイさせてとお願いした。
「じゃぁまたね。」
キスされそうだったので思わず顔を背けてしまった。今は、したくない。
「あれ?まぁいいや、ちょっと早いけど、おやすみ。」
特に深く思わなかったのか、ほっぺにキスをして帰って行った。
リビングまで戻り、はた、と気付く。
(明日私仕事なのに泊まろうとしてた?自分は休みだからって?!)
彼にますますイラっとした。
しずかさんは考えを放棄するクセがあって、
亮さんは良い様に勘違いするクセがあります。




