第22話 不協和音 中編
「ふぁ~~~~・・・良く寝た。ん?」
ソファにいたはずなのに、ベッドにしっかり入っているので着衣を確認した。
あ、ちゃんと着てたか。さすがに2回も寝込みは襲わなかったのかな。
と安心した所で、
「おはよ・・・・」
不機嫌な声が頭上から聞こえた。
「おはよ~、ベッドに運んでくれたの?ありがとう。」
顔を上げ、不機嫌な声の主に挨拶をする。
「キスしてるのに、途中で寝る?」
変わらずの不機嫌に、こちらもむっとしてしまった。
「私、仕事で疲れてるから寝ちゃうかも、って言ったよ?」
「言ってたけどさ~・・・」
約束してなかったのに連れて来られて、前置きで寝るかも、とも言っておいたのに不機嫌になられても、と思いベッドからすり抜けた。
が、腕を掴まれてすり抜けられなかった。
「おはよう、のチューくらいあっても良いと思うんだけど?」
「・・・・・」
(女子かよ。)
「おはよ。チュッ」
半身はベッドから出てしまっていて、体勢的に彼のおでこにキスをした。
不満だったらしく、頭を両手で掴まれて朝から濃厚なキスをされた。
(・・・こんなキスするなら口ゆすがせて欲しかったなぁ。)
と情緒も何もない感想を持った所で、満足したらしい彼から解放された。
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顔を洗い、昨日の服に着替える。約束してなかったのだから着替えなんてない。
当然下着だってなかった。
途中で寄ったコンビニで、お泊りセットと共に下着も彼が買いそうになって、カゴから奪い取った。
エロ目的と普段使いの下着は彼に買って貰った事があるけど、こういう緊急での下着は何だか余計に生々しくて買わせたくなかった。
支度を終えてリビングへ戻ると機嫌は直った様だが、何か企んでいる顔に見えた。
「よし、朝ゴハン食べよっか。」
「・・・用意してくれてありがとう。」
用意してくれたトーストや目玉焼きを食べながら彼の顔を窺う。
・・・ただ、機嫌が良いだけかな?企んでる顔とか思って悪かったかな。
と、自分の性格の悪さを反省したが、しなくて良かった。
朝食を終え、二人でソファに座ったらびっくりする事を言い出した。
「うーん、今日どうしようか。しずかに昨日のお詫びしてもらおうかな、なんて。」
「お詫び・・・?」
昨日寝ちゃった事のお詫び?何でそんな事しなきゃいけないの?と上機嫌で言う彼の言葉に反抗心を浮かべながらも、『お詫び』の単語に聞き覚えがあった。
「ねぇ、お詫びと言えば、及川さんの件のお詫びだけど。」
昨年、及川さんに強制的に食事に誘われ、付き合う事にした時、彼は「お詫びするから!」と言っていた。
そう言えば一向にそのお詫びの気配がない。
「あー!そうだね!すっかり忘れてた。何が欲しい?」
正直、いつも奢ってもらっているのでお詫びも何も、とは思っていたが、最近ずっと心に引っ掛かっていた事を要求しようと思いついた。
「欲しい、とかじゃなくて外でデートしたいな。」
「え?」
「いつもお家デートだし、外デートしない?」
昨日の『お詫び』と言われて少しイラッとしていたが、そこを抑えて可愛くおねだりをしてみた。
膝の上に乗っている彼の手を両手で重ねて小首も傾げたりして。・・・これ可愛い仕草なのか?あまりそういう事してないから正しいのかわからない。
「例えば?」
反対の手を私の両手の上に重ねたから成功した?だけど表情があまり嬉しそうに見えない。
「すぐには思いつかないけど・・・」
聞かれるとは思わなかったので、私も答えを用意していなかった。
私の中での可愛い仕草も失敗したと思い、重ねた手の力が抜けた。
「ん~・・・外だとイチャイチャ出来ないから他の事にしない?」
「えっ?・・・ねぇ、そのイチャイチャってまさかエッチの事指してない?」
「あ~・・・まぁ、それもある。」
「・・・」
聞いても無駄だった。この人の頭の中はソレしかないんだ、きっと。
「もういい。」
「え?」
「もういい、お詫びいらない。」
自分でも口が尖っているのはわかっている。納得はいっていない。
「もう良くないよね?その顔してるんだから。」
彼も私がこの仕草をする時は、どういう感情なのか知っている。
「お詫びが受け入れてもらえなかったのでもう良いです。」
だけど、そう簡単に仕草なんて変えられない。
「X‘masに外でデートしたじゃん。」
「あれは別の話し。」
「はぁ?・・・外デートってどこ行きたいの?」
「・・・今は思いつかない。」
とにかく、お家デート以外なら何でも良い。
「じゃぁ無理に外行く事ないだろ?欲しい物なら何でも買ってあげるって。」
「ないからいらないです。もういいです。」
この人は、お金というか、物で解決しようとする癖がある。
「・・・良くないのにもう良い、とか言うの俺嫌いなんだけど。」
「!!!」
喉の奥がキュウと締まり、涙が滲んだ気がした。何で私が責められなきゃいけないのか。
「いや、あの、嫌いって言うのはさ、」
「トイレ!!」
泣いてる姿なんて絶対見せない。卑怯だ。慌てて言い訳をしようとする彼から顔を隠してごまかす様にトイレへ逃げ込んだ。
(泣いちゃダメ泣いちゃダメ!深呼吸深呼吸!)
トイレで涙をボロボロ零しながら自分を落ち着かせようと必死だった。
(嫌いって言われた!)
私だって、亮さんの物で解決しようとする所大嫌い!!と言い返せれば良かった。
自分では強い女性だと思っていたのに、『嫌い』と言われただけでこんなにも脆くなる人間だとは思ってもみなかった。
自分が言い出したお詫びを聞き入れて貰えないなら、普通に外デートなんて尚更無理だ。
やっぱり私と付き合っているのはエッチだけが目的なんだ。
もう嫌だ。もう帰りたい。一人で帰りたい。
「・・・どーせエッチしたいだけなんでしょ。」
何かを吹っ切った様に、無理やり涙を引っ込めて、トイレから出た。
バタン!!
リビングの扉を強く開けたら強い音がしてしまった。おどおどしている彼がこちらを見ている。
私もその彼を真っすぐ見つめ、彼の元へ進む。
「しずかさっき、ごめ、んん?!」
ソファに座っている彼の上に跨ってキスをする。
「んん?プハっ。どーした?」
彼がしてくる激しいキスを真似ながらキスを繰り返した。
パーカーの裾をめくって、彼のパンツのベルトを外す。
私も自分のニットを胸の上までまくった。
こうすれば彼は絶対乗って来る。
案の定、体勢を変え、私をソファへ押し倒した。
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「はぁはぁはぁ・・・しずかから求めてくれて嬉しいよ。」
「・・・」
息を整え、私の肩を抱き抱えながら見当違いな事を言っている彼の言葉をぼんやりと聞いた。
「汗結構掻いたから、シャワー浴びてくるね。しずかも後で入って来ても良いよ。」
(・・・行くわけねーだろ)
X‘masの朝、一緒にお風呂に入った気がするがあれだって私は同意してない。
明るい所で裸何て見せたくないのに。
おでこにキスをして上機嫌な彼がバスルームへ行ったのを確認し、乱れた衣服を整える。
ものの数分で出てきてしまうので急いで荷物を抱え、コートも着ずに外へ出た。
何も言わずだとさすがに追ってきてしまいそうだったので、エレベーターの中でメッセージを送る。
(喉乾いた・・・駅前で何か買ってから電車乗ろう。)
とうとうしずかさんがキレた。




