第21話 不協和音 前編
実家にそれほどいなかったので、待ち合わせの時間よりかなり早く銀座に着きそうだった。
一度自宅へ戻り、しずかを泊める為に部屋を軽く掃除しておく事にした。
この前掃除したばっかりだけど、ベッド周りを、特に。
19時過ぎに終わるなら銀座で飯かな。
うーん、外で食事したくないんだよなぁ。
あんまりしずかを他の男の目にさらしたくない。
銀座で食べたい、と言うなら仕方ないけど、何とか家で夕飯食べる様誘導してみよう。
と、一度家を出て近所のスーパーへ軽く買い出しをした。
俺の作る物何でもおいしい、おいしい、って食べてくれるんだよなぁ。
俺の、だけじゃなく、おいしい物を食べてる時の顔が幸せそうで本当に可愛い。
それをこっそり眺めてる男がいるのも知っている。
だから余計に外で食事したくない。
今まで彼女に干渉する事なかった筈なのに、しずかに対しては独占欲が強く働いてしまう。
だから本当はラグビーや、今週は春高バレー?バレーボールもかよ!
と聞いた時は思い、行かせたくなかったのだが、さすがにそれは彼氏の領分を超えている。
毎日俺の近くにいてくれないかなぁ、なんて思う所を我慢してスポーツ観戦に行かせている。
一緒に行くとラグビー選手に嫉妬する小さい俺(体格も中身も)を見せてしまいそうなので、一緒には行かない。
最初こそ誘われていたが、何度も断る俺を見て最近では誘われる事はなくなった。
春高バレーは誘われたけど、(高校生見て何が楽しいんだ?)と思い断った。
昨日の朝までは一緒にいたけど、今日、泊まりだから、今日・明日か。ここを逃したら来週末まで会えなくなる。
しずかはそこわかってるんだろうか。
だから今日、会おうとしてるのを。
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19時過ぎに終わる、と聞いていたのでほんの少し前に彼女の会社のブランドの店舗へ行った。
「しずか。」
「いらっ・・・亮さん?!」
「もうすぐ終わると思って迎えに来たよ。」
腕時計を見たらもう間もなく19時になる所だった。
「いや、ここに迎えに来られても困る。店員は裏口から出なきゃいけないんだから。」
「え?そうなんだ。」
「あと、まだ仕事中なので困ります。」
「お、おお・・・ごめん。」
確かに仕事中に彼女に来られたら、俺も困るわ。浮かれ過ぎたと思い、反省しながらしずかに言われた通り、正面玄関へ向かう。
19時を10分程過ぎた辺りでしずかが正面玄関へ来た。
従業員出口を経由すると遠回りになるんだろう、意外と時間かかるんだな。
「お疲れ!さっきごめん!」
「良いよ、迎えに来てくれてありがとう。」
「夕飯どうする?銀座で食べる?」
「疲れてるから亮さん家の近くが良い。」
お、銀座チョイスしなかったか。
なら、手料理提案してみようかな。
「そお?じゃぁ駐車場行こっか。」
「うん。」
差し出した俺の手を握り二人で駐車場へ向かった。
「俺が作る、って手もあるけど。」
交差点を右折しながら提案してみる。
「亮さんの手料理。」
悩む様子もなく、俺の手料理を選択してくれた事に少し驚いた。
「あ、そ、そお?じゃぁ俺が作るね。」
誘導した様なものだが、俺の手料理をほぼ即答してくれた事がめちゃめちゃ嬉しくてどもってしまった。
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「俺夕飯準備しておくから、しずか風呂先入ったら?」
「え?良いの?助かる。」
「全然構わないよ。後、あれ。」
そう言ってソファ前のローテーブルの紙袋に目線を送る。
掃除の後、目立つ様にテーブルの上へ置いておいた物だ。
「せっかく買ったのに、使ってないよ?」
「あ~、そうだね。X‘masデート以来亮さん家来てなかったのか。」
ヒカエリの1階の店舗、ジルスチュアートの何だっけ?『ジルだけどジルじゃない』ってしずか言ってたけど、名前覚えられなかったな。
そこで買ったボディオイル達が使われずに紙袋に収まったままだった。
ガサガサと中を確認して、しずかが二つを手に取る。形状が違うからきっとボディオイルとボディミルクだろう。
「じゃぁ、お風呂入らせてもらうね。」
途中で寄ったコンビニで購入したお泊りセットと共に、バスルームへ向かった。
何でか、カゴから奪われたんだよな、自分で買うって。(約束してなかったのだから)俺が買うよ、と言っても『大丈夫』としか言われなかった。
(あ、そう言えばオイルとかの香り聞いてくれなかったな。どっちが良い?とか聞いてくれそうなのに。)
俺が選んだ香りをしずかが付ける、のが好きでしょう?と言われて購入したオイルだ。
まぁ、どっちも俺が選んでる香りだから聞いたりしないか。
と深く考えずしずかの着替えをバスルームへ持って行った。
風呂で念入りにマッサージしたらしく、ボディオイルの良い香りがリビングに戻って来たしずかから漂ってくる。
パブロフの犬じゃないんだから、嗅ぎなれた香りに誘惑されるが、まずは飯だ。
「良い匂いがする。」
テーブルに料理を運んでる俺に近寄り服の裾を掴んできたしずかは、鼻をスンスンして料理の匂いを嗅いでいる。その仕草が子犬みたいで可愛らしい。
「ブロッコリーとパンチェッタのペペロンチーノにしたよ。」
「ほあぁああ。食べたい!」
フハっ!何だその感想。
「シャンパン飲む?」
「うーん・・・じゃぁ少しだけ。」
少しだけ注いだシャンパンで乾杯をして、今日の仕事の話しを楽しそうにしているしずかを眺めていた。
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食事を終え、ソファへと場所を移動したしずかがテレビを見ている間に、俺もシャワーを浴びる。
この後の出来事に期待が膨らみ、いつもより早めに出た。
大した時間経っていなかったはずなのに、バスルームから戻ると、しずかがソファのひじ掛けに上体を預けてうとうとしている。
俺の目論見で貸したハーフパンツからしずかのもちっとした太ももが見えている。
横にドカっと座るとさすがに、
「う~ん・・・」
と聞こえたので熟睡はしていない様だ。
「しずか、うたた寝してると風邪引くし、俺に悪戯されるよ?」
「ん・・・・・」
スベスベ・ツヤツヤな肌の膝から太ももにかけて手をゆっくりと滑らせるが、反応が薄い。
さすがにこれ以上はマズいか、と腕を引っ張って抱き起したら、トロン・・・とした眼差しを俺にぶつけてきた。
「おはよ、しずか・・・」
「んぅ・・・」
今日もかわいいな、とキスを繰り返す。
しずかの頭を包んでいた手を、しずかが着ているスウェットの裾に手をかけた所で、
ゴンっ!!
と肩に頭突きされた。
「痛って・・・しずか、痛いって・・・あれ?」
俺が痛いと言う事はしずかも痛いはずなのに、しずかが寝息を立てている。
「えっ・・・まじ?この状況で寝る?」
そこそこなボリュームの声で話してるのに、起きる気配がない。
「しずか?」
「・・・・・」
まじか・・・
『疲れてるから寝ちゃうかも』
とは言われていた。
言われていたけど!
「はぁ・・・」
俺の胸に顔をうずめてスースーと寝息を立てているしずかを見下ろし、諦めてしずかを抱き抱えた。
25日の朝の事で気まずくなったから、寝込みは襲えない。
ベッドに下ろし、寝顔を見つめてまた盛大にため息をついた。
スポーツ観戦に『行かせている』なんてしずかさん本人聞いたら、おこなるで。




