第2話 やっと手に入れた 前編
「「「かんぱーい!!!」」」
「いよいよ優勝候補が浮き彫りになってきましたなぁ。」
「最後に勝つのはうちですよ!!」
「いやいや、うちですよ!」
おじさん達が優勝するのはうち (の推しチーム)だ、と各々言っている。
先程ラグビーの試合が終わり、予約してあった秩父宮ラグビー場近くの居酒屋へ来ている。
ポイント制、勝ち点形式の様なシステムで試合が行われていて、勝てば良い、という単純なものではない。
何点差でポイント追加、トライの回数でボーナスポイント追加等複雑な為、私はほとんど把握出来ない。
だが、後数試合しかない、という状況な為優勝争いするであろうチームがいくつか絞り込まれてきている。
私が推しているチームは現在5位で残りの数試合で充分優勝争い出来る位置にある。
今日のメンツは亮さんと出会ったスポーツバーで仲良くなったおじさん達4人と数少ない女子観戦仲間の翠ちゃんだ。
因みにここに私の体型をディスってくるバーの常連、高山さんはいない。
彼は誰に対してもちょい辛辣な為、同世代のおじさん達と一緒に観戦をしない。
本人曰く「一人で観るのが気楽だ」との事らしいが、すごく簡単に言うと他のおじさん達に好かれていない。
なので、こういったアフターマッチ、ラグビー界での試合後の打ち上げの様なものをそう呼ぶのだけど、にもほぼいない、というか声をかけられていないだろう。
いない方が気楽なので全く構わないが、やはり悪口ばかり言う人は年取っても他人に嫌われるという反面教師になるな、と思った。
「しずかちゃん、ちゃんと食べてる?あまり食べてないでしょ、もっと食べな。」
あまり箸が進んでいないのを見かねて、スキンヘッドだが柔和な顔した橋本のおっちゃんに声をかけられた。
「しずかちゃんこの後彼氏と会うんですって。」
「翠ちゃん!」
食べてない理由を簡単にバラされてしまった。
「なんだって!どこの選手だい?!」
「選手じゃないですよ!」
何言い出すんだ。
「ライコーの藤本がしずかちゃんタイプだって言ってたよなぁ?」
白髪がかなり多く恰幅の良い鈴木のおっちゃんがみんなに確認する。
「「「言ってたなぁ。」」」
「いや、既婚者からタイプ言われても。」
「「「「そりゃそうだ!」」」」
わはははは、とおじさん達は笑うが、実はちょっと笑えない。
実際ライコーというチームの藤本選手にナンパされた事があるからだ。
翠ちゃんには話した事があるので、彼女は愛想笑いしている。
誘われて即既婚者だと判明したので丁重にお断りさせてもらった。日本代表にも選ばれた事のある選手だ。来年のワールドカップにも代表で出るかは微妙だが、ラグビーに注目が集まるタイミングで何かの記事でも出てしまったら大変だ。それ以前に不倫はダメだろう。
亮さんには言ってない。というか、言ったらすごく怒りそうなので絶対黙っておこうと決めている。翠ちゃんに口止めしておかなければ・・・
「そうか~しずかちゃんは可愛いんだから彼氏出来て当たり前だよなぁ。うちの息子の嫁に、と思ってたのになぁ。」
「いや、伊藤のおっちゃんの息子さんだと姐さん女房ですよ?」
伊藤のおっちゃんの息子さんは25~6歳だった記憶。かなり年上になる。
「男は女房が年上くらいが良いんだぞ。」
「尻に敷かれる方が家庭は平和だな。」
「そういうものなんです?」
「「「そういうものだよ。」」」
おっちゃん達の家庭論は昭和的なので失礼ながらあまり役に立たないと思っている。
「変なやつだったらおじさんが撃退してやるから言いなさいよ?」
「三井のおっちゃんまで~。」
三井のおっちゃんも他3人と同じく60歳前後で白髪がかなり多い。だが、3人に比べて体型を維持している為、ダンディでオーラのあるおじ様だ。
「みんな、翠ちゃんもだけど、しずかちゃんがかわいいんだよ。変な男に捕まらない様にって。」
「「「そうだぞ~」」」
亮さんは、変な男じゃないはず・・・・
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『今から行くね。』
そうメールし、電車を待つ。17時頃から飲んでいた為2時間程でお開きになった。おじさん達はスポーツバーへはしごするそうだ。翠ちゃんは「食べ過ぎた」とかで帰宅した。
(やっぱりもうちょっと食べたかった・・・)
この後彼に会う・・・つまり何をされるかわかっている為いっぱい食べてお腹ぽっこりさせて行くわけにはいかなかった。でも、もう少し食べても大丈夫だったかもしれない。
(う~・・・もう、え、エッチするのかぁ。早過ぎない?いや、大人なら普通なのか)
両手で顔を抑えて俯き考える。
(いや!また只のお泊りだけかもしれないし!!うん!)
そんなわけないだろう。この場に亮がいたら絶対にツッコまれている。
(ほんとは先にシャワー入りたいけど、亮さん、何となく入らせてくれなさそう・・・)
駅に着く頃『改札にいるよ』とメールが入り、
『お手洗い行きたいからちょっと待っててね』
そう返信した。
シャワー浴びない場合に備えて全身用とデリケートゾーン用のデオドラントシートでくまなく体を拭いていく。
(気休めだけど・・・しないよりマシ!)
亮さんって、見た目黒髪をきちんと整えた商社マン的、爽やか系イケメンなんだけど、何となく腹黒っぽいというか、時々強引だったりするんだよなぁ・・・
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『今から行くね。』
ラグビーの試合後の飲み会を終えた彼女から連絡が入った。
神宮前から恵比寿までなのですぐ着くだろう。彼女が駅に着きそうなタイミングで家を出た。
改札にいる事を伝えたら『お手洗い行きたいからちょっと待っててね。』と帰ってきた。こういう所が律儀だな、と思う。
「お待たせ!!」
「お帰り。試合楽しかった?」
「うん!」
会話しながら手をしずかの手に絡めていく。付き合う前と違う、指を絡める、所謂恋人繋ぎだ。
「・・・・・」
「どうかした?」
「ううん、さらっと手つないでくるな。と思って。」
「うん。逃げない様に。」
「は?」
身長差が20cm以上ある為、自然としずかが自分を見上げる形となる。
こちらを見る顔には複雑な心情が入り混じってる様に見えた。
にこっと微笑んだのだが、何かを察知して静かになってしまった。
家に着くなり玄関でキスをした。
「んっ・・・亮さん?まず家あがろう・・よ。」
靴も脱がないままだったので咎められてしまった。
「そうだね・・・コート預かるよ。」
「ありがとう。」
「どういたしまして。お酒でも飲む?」
時刻は20時過ぎ。まだ寝るには早い時間だ。
コートを玄関横のラックにかけキッチンへ向かう。
「ううん。お水飲みたい。」
「言うと思った。はい。」
ミネラルウォーター入りのグラスを渡した。
ソファへ移動し、自分はビール、しずかは水の入ったグラスで乾杯をした。
「「お疲れ様」」
「あとどれくらい試合あるの?」
「んーとねぇ、来年の1月半ばかな?」
「ながっ!まだ2か月近くあるんだ?」
「そうだね、8月後半から大体スタートするから4~5か月?」
そんなものだよ、としずかは言うが彼女との時間がまだまだラグビーに取られる、と思った。
「ちなみに全部行くんだよね?」
「そうだね、都内近郊の試合は全部行くよ。最後の方は優勝チームの決定も兼ねてるからむしろこれからが本番!!」
ムフー!とでも聞こえそうなくらい得意げに言っている。
「俺の事忘れないでね?」
「えっ?忘れてないよ。今日だってちゃんと終わった後に、」
来たじゃない、とでも言い切る前に彼女に近づき、軽いキスをした。
一瞬驚いた表情をしたが、じっと見つめていた為目を閉じてくれた。
もう一度唇に触れた時、
「ふふ。」
としずかが笑った。
「ん?」
「ビールの香りのキスだな、って思って。」
「そうだね・・・・・」
先週も、今日もずっと我慢してたんだ。この後の時間としずかは俺が貰う、と思いながらキスを再開した。
ラグビーワールドカップ前の設定でございます。
後編は明日公開です(*´ω`*)




