第19話 明けましておめでとう
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「はい、年越し蕎麦お待たせ。」
「おお!美味そう、ありがとう。」
テレビ前のローテーブルに年越し蕎麦と、おかずを数種類置いた。
「いや、年越し蕎麦はおつゆ作っただけだから。」
お蕎麦もかき揚げも市販の物。私は濃縮つゆを調整しただけ。ああ、ネギを少しだけ添えたか。
「これは?」
「明日のお正月料理に出すフルーツサラダと生ハム。」
お蕎麦だけだと足りないかな?と思って、実家に持って行くお正月料理を少しだけ提供した。
「生ハムを作ったの?」
そう、実は生ハムは私の得意料理?だ。
「そうだよ。フルーツサラダも生ハムも、お蕎麦にはどうかと思うから、食べて苦手だったら無理しなくて良いからね。」
「いや、食べる!頂きます!!」
「ふふっ、頂きます。」
「うまっ・・・!正直フルーツサラダ?って思ったけどこれは美味いわ。あと、生ハム?塩加減が絶妙!」
「ふふっ、褒めてくれてありがとう。生ハム持って帰る?」
「え?!」
「肩ロース2本で作ったから大量過ぎて。甥っ子達にも渡すんだけど、亮さんも持って帰ってくれたら嬉しいな。」
甥っ子と兄が、私の作る生ハムが大好きで余分に作る様になった。今年は裏目に出て作り過ぎてしまった。
岩塩と砂糖をまぶして一晩冷蔵庫で寝かせた後、一度洗い流し氷で絞め、その後は酒精の高いウィスキーで2日に1回全体を霧吹きでかける。手間はかかるが工程自体は簡単で3~4週間で出来る。
市販の物よりしょっぱくなくて、食べた時まろやかな塩味がある。塩とウィスキーを変えると味も少し変わるので奥深く、極めるのが難しい。
「まじで?ありがたい。これと一緒にワイン開けるわ。」
「ああ、そうだね、それが良いよ。」
彼も気にってくれた様でとても嬉しい。
「フルーツサラダは何か、箸休め的な美味さがあるね?」
「リンゴとパインがね、口の中すっきりするでしょ?」
実際、味の濃いお正月料理の中で、家族でも箸休め的に食べられている。
フルーツサラダの中身は、じゃがいも・にんじん・きゅうり・はんぺん・チーズ・パイナップル・リンゴだ。それを全て1cm角位に切ってマヨネーズ・塩コショウで和える。
切る作業が途方も無く大変だ。
母親に半ば強引に『フルーツサラダ担当』を押し付けられ何年になるだろうか。
「うん、これも美味い。」
「良かったよ。これもいっぱい作ってあるから持ってって。」
「え、お正月のだろ?良いの?」
「うちは大量に作る家庭なので、みんなそれぞれ持ち帰るのよ。特に姪っ子がこれ好きで。」
「へぇ~」
料理の話しで盛り上がって良かった。何となく核心の話しはしづらい。
食事と片付けも終え、ソファでお互いの腕や太ももを密着させながら、既に始まっている『笑ってはいけない』を見続ける。
何となく甘えたくなって、彼の肩に頭を預けた。
それを合図に彼が動く。
「キス・・・するけど。」
何か断り入れる様になってきたな。同意無しで困る時は寝込みくらいなんだよな。
ただ、それをわざわざ言うのも煩わしい。
「・・・確認しなくて良いよ。」
「!!そ、そう?じゃぁ嫌な時は言ってね?」
「うん・・・んっ・・・」
テレビからは笑い声が聞こえているのに、私達はお互いの熱を絡め始めた。
(あ~、お風呂も入ってるし、この流れは最後までかな~)
あちこち触られているのに、頭がクリアでこの後を想像した。
「ストップ。」
そう言ったら本当にピタっと彼の動きが止まった。
一時停止ボタンみたい。
「え?ダメだった?」
「違う。電気・・・消して。テレビも。」
「ああ・・・そうだね。」
部屋が暗くなった所で彼がいつもの激しいキスをしてきた。
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「しずかが嫌なら無理強いはしない。」
そう決めて、彼女に触れる時一々確認をしていた。
でも「確認しなくても良い。」と言ってくれて、行為自体も受け入れてくれた。
途中で何度か「嫌じゃないか?」と確認したら、「今は意味合いが変わってくるだろうが。」と怒られた。
あまりしない言い回しにきょとんとしていたら、しずか本人がそれを言った後、盛大に吹き出してしまっていたので、ああ、もう大丈夫だな、と思った。
そこからはいつも通りだった。
除夜の鐘が鳴り始め、気付いたら0時を過ぎていた。
「んっ・・・はぁはぁ・・・亮さん・・・明けましておめでとう。」
「はぁはぁはぁ・・・うん、しずか、明けましておめでとう。こんな格好でどうかと思うけど。」
お互い、息を整えつつも見つめ合い、新年の挨拶をする。
「そうだね、罰当たりかもね。」
おでこを合わせ、笑いながら抱き合った。
多分、きっと、俺達はもう大丈夫だ。
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「お雑煮まであるとは・・・!」
何だ、この充足した幸せな感じは。
翌朝、しずかはお雑煮を用意してくれていた。「簡単な物で申し訳ないけど」と言っていたが、とても「簡単な物」とは思えず充分過ぎる位だ。
「えーだって、亮さん泊まるなら用意せざるを得ないでしょうが。」
「何かその言い回し気に入ってる?」
「うん、ちょっと。」
ふふふ、と笑って焼いたお餅をお雑煮の鍋へ入れた。
「よし、ちょっとだけ煮込むから・・・亮さん。」
「うん?」
見るとしずかが正座している。
俺もつられて正座をした。
「明けましておめでとうございます。」
きちんと三つ指を揃えてきれいに頭を下げた。
「あ、明けましておめでとうございます。」
ぎこちなく頭を下げ、元に戻したらにこっと笑って、
「じゃぁ食べよ。」
と器にお雑煮を盛ってくれた。
ドキドキしてきた。
俺の彼女すげえ、と感動してしまった。
しずか、もしかしなくても育ちが良いぞ。
今までの事がすとんと腑に落ちた。
今まで付き合った彼女達とは良い意味で全然違うのはそういう事か。
なるほど、きちんと育てられたんだろうな。
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「実家まで送ってあげるよ。荷物すごいし。」
お正月料理とお年賀の荷物が嵩張って玄関に置かれている。
「あ、ほんと?助かる。タクシー呼ぼうと思ってたから。」
「む、何だよ、頼ってくれて良いのに。」
「何でそこでむくれるのかわからないけど、ありがとう。」
ぎゅっ、と後ろから抱きしめられたので、即許してしまった。
俺もちょろいな、と思う。
しずかは何だかご機嫌だ。
それを見て俺も気分が上がる。
「結局笑ってはいけない、見てなかったね」なんて笑いながら話してたら、同じ市内だと聞いていた通り、彼女の実家にすぐ着いた。
「ありがと、送ってくれて。」
「どーいたしまして、忘れ物ない?」
「うん、大丈夫・・・・」
さっきまで元気だったしずかの表情が曇った様に見えた。
「どうした?」
「え、何でもないよ?」
「そお?じゃぁまた連絡するから。」
「うん・・・」
「キスは・・・」
一応断りを入れたら、
「実家の前なので止めて下さい。」
とピシャリと止められた。
「だよな、そう思って聞いた。じゃあね!」
「気を付けて帰ってね。」
「ありがと、またね!」
すぐに角を曲がってしまったからしずかの表情が暗く見えたのは気のせいだと思い込んでしまった。
次話は明後日公開です。
少しお待ち下さい。(__)ペコリ




