第18話 大晦日
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「もしもし?亮さんおはよ。お蕎麦何束食べる?」
『おはよ、うーん、2束くらいかな~』
「了解!お正月料理作りは午前中で終わりそうだから16時前に来ても良いよ。」
『まじで?やった!わかった、じゃぁ・・・15時頃着くように行く。』
「うん、待ってるね。・・・・・チュッ」
昨日の藤本さんの一件で何となく負い目があり、亮さんがしてくれた様に私も電話口でキスをした。
『え?!しず、』
ただ、恥ずかしいので彼の反応を待たずに切ってやったけど。
気持ちを切り替えて、実家に持っていくお正月料理を仕上げなくてはいけない。
早めに終わらせて、年越し蕎麦を買いに行く必要があるからだ。
例年駅ビルの入り口で、専門店が出張出店でお蕎麦とかき揚げを販売してくれている。
お昼はもう自分で作るの面倒なので買い物ついでに外へ行く予定だ。
「おーっす、しずかぁ。この前ありがとね~、今度絶倫彼氏連れておいでよ。」
「はん君!一昨日はお騒がせしました・・・」
女子忘年会をしたお店の店主、はん君こと半田君から駅に向かう途中で声を掛けられた。
彼もまた、兄繋がりのお友達だ。地元は狭い、と言うか地元の友達は大抵兄にどこかで繋がっている。
「いやいや、全然構わないけどめっちゃ長居したね。出てくる話がおもろかったわ~」
17時に集合して、そろそろ帰るか~となったのが23時も大分過ぎてからだった。
私が本命!とみんなの中で確定してからは、羨ましいわ~うちの旦那と来たら、とまた旦那の愚痴大会になった。
6時間も良くしゃべったな、と思う。
「お恥ずかしい・・・あのさ、いち君には内緒にしておいて?」
「うん?構わないけど内緒にする様な人なの?」
「全くもって違うけど、いち君絡んでくると上手く行くものも行かなくなると言うか・・・」
「あ~何となくわかるわ。りょう、かい!内緒にしておくよ。」
ピシッと敬礼ポーズをしてくれた。
「ありがと!良いお年を!」
「おー良いお年を~」
とお互い手をヒラヒラさせて反対方向へ歩いて行った。時間的に恐らく、これから彼はお店の仕込みだろう。
『今駐車場着いた』
15時過ぎに亮さんからメールが入った。15時頃と言っていたので本当に時間に正確だな、と思った。車だから時間読みにくいだろうに。
『ピンポーン』
インターホンのモニターで彼の姿を確認し、すぐに玄関へ向かう。
念の為ドアスコープから彼を見るとインターホンで応答しなかったからか、あれ?と言う表情をしている。
クスっとし、すぐに鍵を開けた。
「いらっしゃい!」
あ、キャメルのコートじゃないな~とは思ったけど、これ、X‘masにエストネーションで亮さんが試着したスエードのライダースだ。黒いからドアスコープじゃ気付けなかった。
そうだそうだ、あれ買ったって言ってたもんね。
「亮さん、それエストネーションで買ったライダースだよね?良く似合ってるよ、恰好良い。」
「え?あ、ああ、ありがとう。・・・お邪魔します。」
いつもは着ている物を褒めると照れるか、俺は?と聞いてくるのに歯切れが悪い。
しかも表情も硬いのでどうしたのだろう?首を傾げた。
「抱き締めても良い?」
「えっ?う、うん・・・」
そう言うとすぐに強く抱きしめられた。
いつもは私の同意無しにしてくるのに、わざわざ確認をしてきてどうしたのだろうと、また内心で首を傾げた。
すーーーーーーー・・・
ちょっ・・・・と待って!匂い嗅いでる?!
「りょ、りょ、りょ、亮さん?匂い嗅がないで?」
「・・・ケチ。」
相変わらず靴を履いたまましてきたけど、キスじゃなくて匂い嗅いでくるとは想定外だった。
何でだよ、と言ってくるかと思ったのであっさり引き下がってくれた事に安堵と戸惑いを感じた。
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(良かった、怒ってないみたいだ。)
仕事納めの日、しずかを怒らせた。多分泣いてもいた。
「泣いてません。」
と言われ、理由を追求出来なかったけど、俺が怒らせて泣かせたのは確実だ。
理由も大体察しが付く。
「頭が痛い。」と言って居酒屋へ行くのは中止した。
軽く夕食を取り、「家まで送る。」と伝えたら、「断る。」と聞こえた気がした。
いや、途中で言うのを止めてたから憶測だけど、あれはショックでかかった。
夕食時だけじゃなく、帰りの車内でも会話がなかった。
しずかが寝ちゃったからだ。
たいした時間かからない事もあり、いつもならおしゃべりをする。
その時間がすごく好きだったのに、初めて無音・・・ラジオは付けてたから正確には無音では無いが、会話がなかった事態が俺を焦らせた。
しずかの家に着いた時、心配半分、下心半分で、
「俺、泊まって看病するよ!」
と言いかけた。
だが、しずかがすごく冷たい目をしている様に見えてその言葉を引っ込めた。
取り繕い、「お大事に!」
と車を走らせ少しした所で、ふっと気付いてしまったんだ。
(しずか頭痛薬飲んでなかったよな・・・!)
嫌な汗が出始める。
(え、う、嘘だったの?思い出せ思い出せ!薬飲んでただろ!・・・・・飲んでないわ・・・)
どう思い出してもそんな場面はなく、信号待ちでガクリとハンドルに項垂れた。
頭が痛くもないのに薬を飲む必要はない。そしてそれを俺に見咎められる可能性もあったのに飲まなかった、と言う事はばれても良い嘘だと思っていたのだろう。
自宅へ戻ってから、電話をするかどうか迷った。
頭が痛い、と言い張っているのなら多分電話には出てくれないだろう。
翌日も、朝から大掃除をすると言っていたので、電話を躊躇った。
『掃除するって言ってたのに、邪魔!』とか思われそうで怖かった。
いつも気にせず電話していたのに、あれ、いつもどうしてたっけ、と電話のタイミングがわからなくなり、1日を無駄に過ごした。
なので、夜しずかから電話がかかってきた時は慌てた。
慌てすぎて椅子に足を引っかけた。結構痛い。
きっと俺が謝らなきゃいけないのに
「可愛くない態度取ってごめんね・・・」
なんて、言わせてしまった。
俺も約束を破ろうとした事を謝ったら、電話の向こうで声が詰まっている様に思えた。
許して貰えたのだろうか・・・・・
「X‘masの時の写真を送って。」
と言われ、電話を切った後即送った。
切り際『愛してる』の一言でも言えれば良かったが、言葉だと薄っぺらく思い、キスの音だけさせる。好きなんだよ、と言う気持ちちゃんと伝わったかな・・・
イルミネーションを背に自撮りしてる時、ほっぺにキスをして、「ここ外だよ!」と真っ赤な顔で怒ってたなぁと思い出しながらその後も写真を送り続ける。
この時はめちゃめちゃラブラブだった。
夜もすごい盛り上がった。
・・・やっぱり25日の朝からだよな、ちょっと状況変わってきたの。
「今日25日なんだけど?」は今考えると脅しみたいなもんだ。
そりゃ忘れてたしずかは受け入れるしかないよな。
「しずか。」
「ん?」
リビングまで進んだ彼女を呼び止める。
「好きだよ。」
「えっ・・・」
「もう一度抱き締めたい。」
「え、う、うん。」
『私も好き。』とは言ってくれなかったか、と思いつつも再度しずかを抱き締めた。
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「笑ってはいけない、を見たいのでお風呂早めに入っても良い?」
「え、ずるい。なら私も早く入る。」
フっと彼が笑ったので『なら一緒に入る?』と言われるかと身構えた。
「じゃぁ早めに出てくるよ。」
意外にも真っ当な返答をして来てびっくりしている。
「え、まだ時間あるしゆっくり入って大丈夫だよ?」
「ありがと。」
一瞬躊躇した後、こめかみにキスを落とされお風呂場へ行った。
・・・様子がおかしい。
「しずか、あのさ。」
「うん?」
廊下まで進んだはずの彼が立ち止まり、ソファに座っていた私に声を掛ける。
上体を彼に向け、続きの言葉を待った。
「俺とセッ・・・エッチするの嫌?」
いつもストレートな言い方をしていたのに、わざわざ言い換えたのは何でだろう。
「えっ・・・い、嫌じゃないよ。」
真剣な表情に戸惑い、私も正直な気持ちを伝える。
行為自体は私も嫌じゃないんだよ・・・・だから困ってるんであって。
「良かった・・・!しずかが嫌なら無理強いはしない。俺そう決めたから。」
「・・・・・」
心底安堵した様に息を吐き、破顔の後再び真剣な表情になった。
根本はそこじゃないんだけどな、と思ったけどこの時ちゃんと話し合うべきだった。
少しの煩わしさを感じて私が話し合いを放棄した。
だから彼は勘違いしたままでいる。
男女のすれ違い、しばらく続きます。




