携帯
お久しぶりです。
リハビリがてら投稿しました。
「ここの電話ボックス無くなっちゃうんだ」
懐かしい声が聞こえる。ポツンと置かれた寂れた箱。携帯が必需品となっているこのご時世に、携帯を持たず公衆電話を使っている人を彼女以外知らない。
「携帯って必要なのかな?」
中二の夏休み。連絡もなしに家に来た美咲が、俺のベッドに寝転がりながらそんな疑問を投げかけてくる。
「まあ、便利だしな」
「面倒じゃない?すぐ返信しないと駄目とかさ」
美咲はしかめっ面で、俺の携帯の画面を見つめる。親からそろそろ携帯を持ったらと言われたらしい。
「面倒だけど、すぐ慣れるよ」
「……そうなのかな」
う~んと唸っていた美咲はベッドから起き上がる。
「決めた。私、携帯なんていらない」
「……また、思い切ったことを。携帯ないと色々不便だぞ」
「携帯を触る時間を他の有意義な時間に使う。外には公衆電話もあるし、いざとなったら祐希に頼るから」
そう言ってニッと笑う。
「……結局、俺が巻き込まれるんだな」
「まあまあ、幼馴染でしょ」
ベッドに寝転がった美咲はまた笑った。
「ここの電話ボックス無くなっちゃうんだ」
その声を聞き、俺は顔を向ける。
「このご時世、携帯持ってないのなんてお前くらいだからな」
美咲は頬を膨らませる。
「久しぶりに会った彼女への第一声がそれ?」
「そのまま返すよ」
美咲は高校を卒業した後、色々な場所が見たいと言って旅に出た。相変わらず携帯は持っていないので連絡はほとんどない。でも、携帯越しではなくこうして顔を合わせた方がずっと幸せな時間だと、彼女の笑顔を見て思った。