(8)LOVEと戦闘と私
つまり、和樹は最初に数珠土産ハルミから告白されるずっと以前より、彼女のことが好きだったのだ。
しかし残念ながら、和樹は勉強ができなかった。
数珠土産に告白された高校二年生の頃は、彼女に追い付いて同じ大学に入れるレベルになることを夢見て必死に勉強中であり……
(ハルちゃんと堂々と並べる男になった時、俺の方から告白するんだ!)
と、心に決めていたのである。
そして、ガチ高二男子だった彼は、数珠土産の方から告白されても器用に方向転換など、もちろんできなかった。
結果として彼は、彼女を泣かせ走り去らせ、汚部屋の主に堕とす原因を作ってしまったのだった……!
「そう……じゃあ、今は?」
和樹のしどろもどろの解説を、脇の下をボリボリしながら聞いた数珠土産は、今度はおへそのあたりをポリポリしつつ、尋ねた。
「……私は引きこもって高校に行かなかったけど、和樹くんは行ったじゃない……!」
「それが問題じゃないんだ……!」
「やっぱり……!」 数珠土産の瞳が盛大に潤む。
「汚部屋の住人に成り下がった私なんか、誰も……っ!」
その場にしゃがみ込んでスネを掻きつつ、「死んでやる……死んでやる……」 と呟く数珠土産の肩を、和樹は優しく抱き締めた。
「ハルちゃん……俺……大学落ちたんだ…… だから、まだ、言えないよ……」
.:º*¿¤*§º*ゝ.:
(ああもう……っ!)
©*@«の約0.1mmの大きさの脳は今、ジレジレとした思いで占拠されている。
(大学とやらに落ちたなど、LOVEには関係ないだろうに……っ!)
そんなものがモテに関係あるならば、miniイチ優秀な頭脳を持つ研究員・©*@«は今頃ハーレムを築けているに違いない。
だが、miniのテレパシーは人間である和樹には伝わらなかった。
「俺……また頑張るから。来年は頑張って合格するから、待ってくれる?」
……次こそは、俺から言うから……!
苦しげに微笑する少年に、イライラが募って仕方がない©*@«である。
しかし、ハルミは満面の笑みでうなずいたのだった。
「決めた。私高校行く。……そして和樹ちゃんと同じ大学にする! 絶対受かろうね。約束だよ?」
「うん、約束だ! その時には、ちゃんと言うから……!」
(もーお前ら 『私たち付き合います』 でいーじゃん、それ!? ていうか 『1年遅れる』 発言はスルーかよっ!) という©*@«の心の叫びを伴いつつも、それなりに進行する、モダモダ恋愛。
場面最後は、2人の誓いで爽やかに締め括られるのだった。
「まずは……掃除だね!」
「よし、頑張ろう! 俺も手伝うよ!」
(ふぅ……まぁ、いいか……!)
一応は最後まで鑑賞した。その満足感と共に、©*@«は厳かに指令をくだす。
「まもなく敵の襲撃が予測される。総員、高機能卵殻スーツ装着。戦闘体制!」
.:º*¿¤*§º*ゝ.:
翌日、ノミ取りシャンプーと塗り薬でなんとか痒みを抑えた数珠土産と和樹は、汚部屋の掃除に取りかかった。
閉めきった窓を開け放ち、早春のやや冷たい空気を部屋に通す。
散乱するゴミをひたすら袋に詰め込む。
「これはゴミだろ!」 「違うの! パッケージにカリカリくんがついてるでしょ!」 「ゴミでいいだろ!」 「違うもん!」
というありがちなやりとりを経て、ようやっとカーペットが見える状態になったところで、掃除機をかけ、布団を干す。
「やっと、少しスッキリ……ん?」
和樹は、掃除機のダストボックスの中身に、目を疑った。
「どうしたの?」 とダストボックスを覗き込んだ数珠土産が、同じく絶句する。
ダストボックスの中では、無数のノミがピンピンと跳ねて、その生存を主張していたのだ。
この際どーでもいーが、ヤツらの特徴は他のノミにはない、派手なツンツン頭である。
「……………………」 「……………………」
長い沈黙の後、和樹はぽつり、と呟いたのだった。
「やっぱり新種かな、これ……?」