表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
部屋と宇宙ノミと私  作者: しいたけ零
6/11

(6)幼馴染みとカイカイと私

「ひぃあっ……!?」


 数珠土産(ずずみや)ハルミは煎餅布団から飛び起きた。


 それは、早春のある日のこと。

 寝転びつつモバイルゲームに勤しんでいたところ、急に、なんとも言えない刺激が複数同時に襲ってきたのだ。

 頭、腕、ワキの下、背中、恥ずかしくて言えないところ……


「痛いッ…… じゃなくて、痒い……!?」


 最初チクッと痛かった気がしたが、その次にやってきたのは猛烈な痒みであった。


「あ"ぁぁぁ……!カユイカユイカユイカユイ!!」


 ボリボリと全身を掻くが痒みは一向に治まらず、たまらなくなった数珠土産(ずずみや)は、自室の外に駆け出した。トイレ・風呂以外の用事では、実に一年ぶりである。


 引きこもりの女子高生を外に引っ張り出した……それは、miniたちが人類に対してなした唯一の善行であったかもしれぬ。

 もっとも、ただこれだけでは善行とは言えまい。

 しかし、世の中、特に1~2次元の世界にはたまにあるのだ。『神は見ていた!』 とかつい思ってしまいそうになる、ナイスグッドなタイミングというものが。


 この場合もまさに、それであった。


「きゃ……!」 


 どん、と誰かにぶつかって少女漫画の主人公のごとき悲鳴をあげ、その誰かに少女漫画のごとく抱きかかえられる、数珠土産(ずずみや)ハルミ。


「大丈夫か……?」


「え……和樹(かず)ちゃん……?」


 彼女をガッチリとホールドしたまま爽やかな気遣いを見せた少年は、なんと、一年ほど前に彼女をフった幼馴染みであった。

 その後、引きこもり、汚部屋の住人となった娘を心配したハルミの母親から相談され、こうしてハルミの部屋の前までやってきたところだったのだ。


「………………」


 和樹(かずき)は彼女のニオう(アロマ)半纏姿を上から下まで眺め、もう一度問い直したのだった。


「ハルちゃん……アタマ、大丈夫か?」


 数珠土産(ずずみや)ハルミは狂ったように全身をかきむしりながら、思った。


 ……今度引きこもったら、もう二度と出てこないぞ、と。



 .:º*¿¤*§º*ゝ.:



「ふん……」


 ©*@«(ピンハネ)は、0.1mmの大きさの脳のほぼ全部で、盛大にアンチを表明した。

 その高い知能で、女子高生をホールドしている少年のことを覚えていた彼にとっては、実に面白くない展開だ。リア充爆発しろ。


 ――― 先日の一斉繁殖時、彼はどの女性にもアピールできなかった。研究ばかりして生きてきたため、女性の扱い方が分からずモタモタしているうちに取り残されたのである。

 (なのに、己よりはるかに頭の悪そうな人間どもが(つがい)になりかけておるとは……)

 全くもって、気に喰わぬ。 ―――


 しかし、彼は不敵に笑ってみせた。

 どんな時にも素直になれぬ男、それが©*@«(ピンハネ)なのだ。


「ふっ。ホールドしてるならちょうど良い」


 そして、無駄に強烈な思念(テレパシー)で号令を掛けた。


銀河(パンツ)1部隊、2部隊! 人間♂へ向かって、跳躍! 攻撃せよ!」


「「……了解……!」」


 司令を受けた部隊の動きは、素早かった。さすがはリーダー直属の軍、といったところだろうか。


 たちどころに少年に取りついて、腕や脚はもちろん、その髪の毛、ワキの下、背中、イケないところにまで潜り込み、チュウチュウと血を吸い始めたのだ……!


「いたたっ……あ、あ"ぁぁぁ……!カユイカユイカユイカユイ!!」


 襲撃は成功した。


「あ"ぁぁぁぁ……! なんだ、これ……!」


 少年は少女をホールドした手を離し、全身をボリボリボリボリと掻きむしる。


和樹(かず)ちゃん……? まさか、和樹(かず)ちゃんも……?」


 びっくりしている少女の手を掴み、彼は一心に駆け出した。


「何はともあれ、病院に行こう……!」


 和樹(かずき)は血を吸われ赤く腫れ上がった痕を見てこれはただ事では無いと察したのである。




「ふっ…… ついに、人間に勝った……!」


 走る少女の頭の上でほくそ笑む、©*@«(ピンハネ)

 人類のリア充になりかけカップルを苦しめることができ、かなり、満足したのであった。



 ――― 彼は、まだ知らなかったのだ。

 人間とは、意外としぶとい生き物である、ということを。 ―――



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ©*@«ピンハネ頑張れ(野太い声) (∩´∀`)∩~♪ ←すっかり応援する側が変わってしまった魚類ww
[良い点] くっそ笑いました! でも、この笑いを上手くいい表せる語彙がありませんでした(汗) なんていうんですか? テンポと空気感がめっちゃ良い……
[良い点] わーわー、いいぞピンハネ、もっとやれ! リア充に痒みを――もとい、滅びを~! ……あ、こっちに来たら暗殺技で根絶やしにするのでそのつもりで(ニヤリ)。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ