(4)猫と集会と私
そして、新たなる侵略が始まった。
『©§º*』 改め、地球は…… 虫のノミ的なminiたちにとって、まさに天国であった。
共存共栄をモットーとして、病気の予防に気をつけ、思いっきり跳びはねるのは新BIG的な人間たちが寝静まった夜中に行ったのが、功を奏したのである。
それも当然。
なにしろ、万が一、思念に気づかれる可能性も考え、重要な集会や会議は猫の毛皮の上で行う、といった念の入れようなのだから。
「このまま共存共栄を続けていければ……」
miniたちのリーダー・¤*≅¶は、今やすっかりお気に入りとなった数珠土産ハルミの匂いがしみついた半纏の中で安逸をむさぼりつつ、そう願った。
しかし、そうは問屋がおろさない。
事が起こったのは、ある晴れた日の、猫たちの集会に便乗したminiたちの集会であった。
「¤*≅¶よ、我々の数はすでに全地球上に100億。いつになったら、この地球上から人間どもを駆逐するのかね?」
偉そうに思念を放ったのは、¤*≅¶の片腕であったはずの研究員、©*@«である。
¤*≅¶はダラダラしすぎて重たくなった身体を必死で宙返りさせつつ、厳命した。
「共存共栄。それ意外は認めぬ。この星の人間どもはBIGや我々に比べて遥かに愚かだが、火も使えれば掃除機も持っているのだ!」
「ふっ……サボり過ぎで脳の働きが低下するのは、人間だけではないようだな!」 引き締まった体躯でキレのある宙返りを披露し、¤*≅¶を嘲る研究員。
注目が己に集まっていることを確認しつつ、高らかに思念を迸らせる。
「我々の目的は、コソコソと生きることなどではない! 人間どもを駆逐し、この大地を永遠の汚部屋とし、夜だろうと昼だろうと思いっきり跳躍することだ!
我々を虐げた『≡<*£』のBIGどもを、見返してやることだ!」
普段なら、かような煽動に約0.1mmの脳の1割分たりとも貸すminiはいなかっただろう。
昼夜問わず跳躍できずとも、集会が猫の毛皮の上だろうとも、その暮らしは前の星に居たときよりも遥かにラクであったからだ。
何も敢えて闘争を選ばずとも…… と、ほぼ全員が思いかけたその時。
無言の猫脚が、彼らの上に降ってきた。
そう。猫の上でしか集会を開けぬことの問題点。その1つが、これである。
猫の突発的な毛繕い行動により、死者が出てしまうことが、ままあるのだ。
そして問題点その2は、ノミ避けの首輪をしている猫が近くにいる場合、miniたちのイライラが増し、議論が攻撃的になってしまうこと。
……今回も、また。
「¤*≅¶!」 「リーダぁぁぁっ!」 「¤*≅¶さまっ!」
犠牲になったのはなんと、彼らをこの星にまで導いた偉大なるリーダー、¤*≅¶であった。
片腕であった研究員©*@«は、ちっぽけな脳のごく一部でニヤリとほくそ笑みつつ、悲痛そのもの思念を上げた。
「ぅぉおおおっ、なんということか……ッ!」
一際高く跳びはね、アクロバティックに悲しみを表現し、彼は全miniの脳に熱烈に呼び掛けたのだった。
「諸兄方々……! われわれのリーダーがやられたのだ! これでも、現状に甘えてコソコソと生き、共存共栄を唱えながら易々と殺されるのかね?
人類は危険だ! きっと、われわれをスルーする振りをしながらネコに毛繕いを教えたに違いない!」
そんなことがあるはずはないのは百も承知な©*@«だったが、それを聞いたminiたちには動揺と不安が走った。
もう一押し。©*@«は、脳のごく一部で再びほくそ笑むと、緊迫した思念を振り撒いた。
「そのうちヤツらがBIGのものを超える掃除機を作れば、われわれはやはり、おしまいではないか……!」
「そうだ」 「その通りだ」 という思念が、あちこちからポツポツと漏れてくる。それは次第に大きなざわめきとなって、miniたちの脳を覆いつくした。
ダメ押しの一撃。
©*@«は、芸術的で力強い跳躍を披露する。
「最大の防御は攻撃、狩られる前に狩るのだ! どうかね、尊敬する仲間たちよ!」
もはやminiたちの脳は、その過激な意見に同意する者たちの思念で一杯であった。
中には反論を試みた者もいたろうが、その声はあまりに小さすぎて、ごく近くの者の脳にさえ届かない。
皆が、強烈な思念を迸らせながら跳びはねる。
「「「地球を我らの手に!!」」」
「「「人間などデカイだけの虫ケラだ!!」」」
沸き上がる思念のうねりの中で、©*@«もまた、ひたすら無心に、続けざまの宙返りを披露した。
そうしないと思わず、会心の哄笑を仲間たちの脳内に響かせてしまいそうだからだ。
不安と怒り、そして仲間意識でもって群衆を支配するのは、かくもたやすい。




