表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
部屋と宇宙ノミと私  作者: しいたけ零
4/11

(4)猫と集会と私

 そして、新たなる侵略が始まった。


©§º*(ピロポン)』 改め、地球は…… 虫のノミ的なminiたちにとって、まさに天国であった。


 共存共栄をモットーとして、病気の予防に気をつけ、思いっきり跳びはねるのは新BIG(ピロビン)的な人間たちが寝静まった夜中に行ったのが、功を奏したのである。


 それも当然。

 なにしろ、万が一、思念(テレパシー)に気づかれる可能性も考え、重要な集会や会議は猫の毛皮の上で行う、といった念の入れようなのだから。


「このまま共存共栄を続けていければ……」


 miniたちのリーダー・¤*≅¶(パンチラ)は、今やすっかりお気に入りとなった数珠土産(ずずみや)ハルミの匂いがしみついた半纏の中で安逸をむさぼりつつ、そう願った。


 しかし、そうは問屋がおろさない。


 事が起こったのは、ある晴れた日の、猫たちの集会に便乗したminiたちの集会であった。


¤*≅¶(パンチラ)よ、我々の数はすでに全地球上に100億。いつになったら、この地球上から人間どもを駆逐するのかね?」


 偉そうに思念(テレパシー)を放ったのは、¤*≅¶(パンチラ)の片腕であったはずの研究員、©*@«(ピンハネ)である。

 ¤*≅¶(パンチラ)はダラダラしすぎて重たくなった身体を必死で宙返りさせつつ、厳命した。


「共存共栄。それ意外は認めぬ。この星の人間どもはBIGや我々に比べて遥かに愚かだが、火も使えれば掃除機も持っているのだ!」


「ふっ……サボり過ぎで脳の働きが低下するのは、人間だけではないようだな!」 引き締まった体躯でキレのある宙返りを披露し、¤*≅¶(パンチラ)を嘲る研究員。


 注目が己に集まっていることを確認しつつ、高らかに思念(テレパシー)を迸らせる。


「我々の目的は、コソコソと生きることなどではない! 人間どもを駆逐し、この大地を永遠の汚部屋(らくえん)とし、夜だろうと昼だろうと思いっきり跳躍することだ!

 我々を虐げた『≡<*£(マタンキ)』のBIGどもを、見返してやることだ!」


 普段なら、かような煽動に約0.1mmの脳の1割分たりとも貸すminiはいなかっただろう。

 昼夜問わず跳躍できずとも、集会が猫の毛皮の上だろうとも、その暮らしは前の星(マタンキ)に居たときよりも遥かにラクであったからだ。

 何も敢えて闘争を選ばずとも…… と、ほぼ全員が思いかけたその時。


 無言の猫脚(ねこキック)が、彼らの上に降ってきた。

 そう。猫の上でしか集会を開けぬことの問題点。その1つが、これである。

 猫の突発的な毛繕い行動により、死者が出てしまうことが、ままあるのだ。

 そして問題点その2は、ノミ避けの首輪をしている猫が近くにいる場合、miniたちのイライラが増し、議論が攻撃的になってしまうこと。


 ……今回も、また。


¤*≅¶(パンチラ)!」 「リーダぁぁぁっ!」 「¤*≅¶(パンチラ)さまっ!」


 犠牲になったのはなんと、彼らをこの星にまで導いた偉大なるリーダー、¤*≅¶(パンチラ)であった。


 片腕であった研究員©*@«(ピンハネ)は、ちっぽけな脳のごく一部でニヤリとほくそ笑みつつ、悲痛そのもの思念(テレパシー)を上げた。


「ぅぉおおおっ、なんということか……ッ!」


 一際高く跳びはね、アクロバティックに悲しみを表現し、彼は全miniの脳に熱烈に呼び掛けたのだった。


「諸兄方々……! われわれのリーダーがやられたのだ! これでも、現状に甘えてコソコソと生き、共存共栄を唱えながら易々と殺されるのかね?

 人類は危険だ! きっと、われわれをスルーする振りをしながらネコに毛繕いを教えたに違いない!」


 そんなことがあるはずはないのは百も承知な©*@«(ピンハネ)だったが、それを聞いたminiたちには動揺と不安が走った。


 もう一押し。©*@«(ピンハネ)は、脳のごく一部で再びほくそ笑むと、緊迫した思念(テレパシー)を振り撒いた。


「そのうちヤツらがBIGのものを超える掃除機を作れば、われわれはやはり、おしまいではないか……!」


「そうだ」 「その通りだ」 という思念(テレパシー)が、あちこちからポツポツと漏れてくる。それは次第に大きなざわめきとなって、miniたちの脳を覆いつくした。


 ダメ押しの一撃。

 ©*@«(ピンハネ)は、芸術的で力強い跳躍(パフォーマンス)を披露する。


「最大の防御は攻撃、狩られる前に狩るのだ! どうかね、尊敬する仲間たちよ!」


 もはやminiたちの脳は、その過激な意見に同意する者たちの思念(テレパシー)で一杯であった。

 中には反論を試みた者もいたろうが、その声はあまりに小さすぎて、ごく近くの者の脳にさえ届かない。


 皆が、強烈な思念(テレパシー)を迸らせながら跳びはねる。


「「「地球を我らの手に!!」」」


「「「人間などデカイだけの虫ケラだ!!」」」


 沸き上がる思念(テレパシー)のうねりの中で、©*@«(ピンハネ)もまた、ひたすら無心に、続けざまの宙返りを披露した。


 そうしないと思わず、会心の哄笑を仲間たちの脳内に響かせてしまいそうだからだ。


 不安と怒り、そして仲間意識でもって群衆を支配(コントロール)するのは、かくもたやすい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >猫の突発的な毛繕い行動により、死者が出てしまう 慎重なのか間抜けなのかわからない感じにクスリときます^^ しかし、増えていそうで以外と増えていない気もしますね。これで果たして人類に勝てる…
[良い点] 確かに、初心を忘れたマニフェスト詐欺の政治家を、彷彿とさせるパンチラでしたが、平和に越したことはないですよね。 良きリーダーだったのに逝ってしまわれるとは……。 でもって、ピンハネて(笑…
[良い点] これは微細までよく練られた骨太の作品ですよ。 数珠土産ハルミに騙されてはいけない。 楽しませてもらっています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ