(3)部屋と半纏と私
迫害され住む場所の無くなった惑星 『≡<*£』 より、遥か25万光年彼方の別の銀河の星 『©§º*』 へのコッソリ移住を決意した、虫のノミ的なminiたち……
それは、三ヶ月後、移住後の拠点となる島国時間ではとある春の日に決行された。
間もなくこの地は高温多湿な雨季を迎えるため、この時期がベスト、との判断…… というよりは、その日 『≡<*£』 では、たまたま人間的で全身ツルッパゲなBIGたちによる人工衛生打ち上げがあったからである。
移住方法は、次のようなものであった。
まず、移住希望者は各々、セ氏ー278度という絶対零度を超える低温から、+2500度の高温でも壊れない高機能スーツに身を包む。
スーツの素材には彼らが孵化した後に残った卵の殻を再利用したため、子供のお小遣いで買えるお手頃価格であったところもポイント高し。miniたちは跳びはねて、開発した研究員を称賛したという。
次に、人工衛生にコッソリ忍び込み、宇宙に脱出。その後は、あらんかぎりの力で大跳躍を繰り返し、近場のブラックホールに飛び込む。すると、一瞬にして新しい星 『©§º*』 最寄りのホワイトホールから出てこれるのである……!
このような方法、常識的な大きさの生命体なら確実に死んでいるところだろう。しかし、彼らはminiな上に高機能卵殻スーツで身を固めた、いわば 『宇宙のホコリ』 状態であったため、過酷な環境に耐えての移動が可能となったのであった。
こうして、彼らは見事、コッソリと新しい星への侵入を成功させた。
旅立ちより二ヶ月の時が経っており、時は折しも雨季真っ只中。
miniたちが降り立ったその部屋は……
想像を絶する汚部屋だった。
しめきった窓、まるで掃除をしていないに違いない毛足長めのカーペット、湿りきった敷きっぱなしの布団の端っこで昼寝する猫。
mini的にはどーでもいーが、散乱する菓子の袋と空き缶とティッシュペーパーと 『死にたい死にたい死にたい……』 だの 『呪 呪 呪 呪 ……』 『好き好き好き好き好き……』 だのと書かれているらしい、ぐちゃぐちゃに丸められたノートの切れ端。
「たどり着いた……」 「なんと……素晴らしい……新天地……」
感涙するminiたちの前には、猫と共に、ひとりの少女が寝転がっていた。
ボサボサの髪に洗ったことがなさそうな半纏。
顔立ちは、以前にminiのリーダー・¤*≅¶と彼の研究員が覗き見していた時のままの 『可愛い部類』 のようだが…… 血色が良くないせいか、あまり美味しそうに見えない。
目も、死んでいる。
そう、その少女・数珠土産ハルミは、高校2年生の冬に幼馴染みの少年にフラれて以来、恥ずかしさと失意から引きこもり、自暴自棄かつ自堕落な生活を送っていたのであった……。
「なんと……あわれな」 つい、同情心をそそられてしまう¤*≅¶。
「しかし、あの半纏なかなか住み心地が良さそうですね」
「ああ」 ¤*≅¶は小さく跳ねた。
リーダーといえどさすがに、宇宙空間で大跳躍を繰り返した後で宙返りする元気は残っていなかったのだ。
「よし、我々司令部はこの部屋を作戦本部とし、起居もここで行うものである! 皆は回復次第、好きな家庭やペットを選ぶが良い!」
「「「はい!」」」 ぐったりしながらも、新しい生活への期待に胸踊らせるminiたち。
「「「今後の作戦は?」」」
一斉に問われた¤*≅¶は、厳かに思念を発したのだった。
「共 存 共 栄 、 是 一 択 也 !」




