(2)素晴らしい星と私
数年の間、やることはたくさんあった。惑星上の各家庭のminiたちへの連絡、安全な移住方法の開発、そして移住先の選定……。
「ここから約25万光年ほど彼方の別の銀河に、我々の生存に適した星を発見、『©§º*』 と名付けました」
研究員からもたらされた知らせを、リーダー・¤*≅¶は喜びをもって聞いた。
その星は、極周辺を除けば、水・酸素・気温、全て、miniたちの生存に最適な値を保っているらしい。
しかも、その星の生き物には、毛が豊富なものが多いという。……もっともツルッパゲな哺乳類でさえ、一部の毛はモフモフなのである!
「素晴らしい! もっと、情報を集めるのだ……!」
意気揚々と、さらに詳しい調査を進めたminiたちだったが、次にもたらされた報告は、芳しくないものであった。
その星にはすでに、知的生命体が生態系のトップに君臨しているのだという。
「例のもっともツルッパゲな哺乳類がそれにあたるようですが……なんと、彼らの大きさは、我々の1万倍以上……!」
「それでは、BIGと同じだ。勝てないでないか!」
「いや、落ち着いてください。逆にいえば、小さいことは利点です」 研究員はリーダー・¤*≅¶を諭した。
「気づかれぬよう、侵入すれば良いのです。幸い、彼らの知能は低めだ。その証拠に、これをご覧ください」
……研究員の理知的な瞳が、間近から¤*≅¶の瞳を捉える。すると、ふたりの脳内には、同じ映像が再生されたのだった……
――― そこは、その星のとある島国のとある街角。
ひとりの少女が、泣きながら走り去っていた。真っ直ぐな黒髪は艶やかで、miniたちには住みにくそうである。
「これは新BIG的には可愛い部類のようです」 と研究員が説明した。
「今、幼馴染みの♂にフられたところですな」
「それは気の毒だな」
「しかし、幼馴染み♂の心の声に注意してみてください」
言われた通りに、研究員の瞳の奥を覗き込み、意識を集中させる¤*≅¶。やがて 「おお……」 と呟いた。
「これは、最後まで落ち着いて聞けば良かったのだな」
「その通りです。一時の感情に支配され、堪え性なく嫌なことから逃げ出してしまう。
それが彼らの本性なのですから、知能も発達しようがありませんよ」
「ふむ。これまであらゆる苦労に堪え、辛酸を舐めつつも発展してきた我々に敵うはずもない、ということか」
「その通り。やつらは、危険に対しても鈍感で、危機がその身に迫るまで動こうとはしません」
「なるほど」 研究員の解説に、¤*≅¶は大いにうなずいた。
「こっそりと移住し、間借りするだけならば、やつらに気づかれぬまま繁栄を謳歌できる可能性は大いにあるのだな」
こうして、移住の計画は着々と進められた。
目指すは遥かな銀河の彼方、惑星『©§º*』。
最初の拠点は、とある島国のとある街の、知能が低そうな少女の家庭とその周辺、と定められたのである。