(10)部屋と宇宙ノミと私
「これは一体、どういうことだ……っ!」
©*@«は呆然と呟いた。
つい数時間前までは、地球におけるminiたちの覇権を信じて疑わなかったというのに……
人間たちがバラ撒いた毒の霧は、予想以上に彼らを追い詰めた。
「……うう……」 「く、くるしい……」 「た、タスケテ……」
「ああ"……¤*≅¶ざま……!」
©*@«の目の前で繰り広げられる、地獄絵図。
「おのれ、おのれ、おのれ……っ!」
たまたま薬剤が届いていないカーペットの片隅に逃れ、©*@«はがっくりと両手をついた。
「人間とは、なんと悪辣なものを開発するのだ……っ!」
もといた惑星≡<*£のBIGどもは、確かに全身ツルッパゲで潜める場所もなく、なおかつminiたちから容赦なく居住空間を取り上げたが、殺そうとはしてこなかった。
移住する前に調べておけば、対処のしようもあっただろうが……
元いた星の常識に染まっていた彼は、考えもしなかったのだ。
生物が、食べるためでも生きるためでもなく、ただ殺すためだけに何かを開発することがある、とは……。
そして、起居を共にし、敵対しながらもいつの間にか感情移入していた相手が、容赦なく自分たちを殺戮しにかかる、とは……。
「くっ……人間とコンタクトを取る方法も、開発しておけば良かった……!」
きっと、甘チャンな元引きこもり女子高生・数珠土産のことである。
『殺さないで』 などと涙ながらに頼みこめば、結局は許すであろうことは明白だった。
「…………」
ふっ、とニヒルな笑みを脳内で浮かべる、©*@«。
彼はよく数珠土産や和樹のことを知っていたが、人間たちの方は彼らのことを全く、知らないのだ。
(居住権を得るには、いきなり敵対するのではなく、知ってもらう努力も必要だった、ということか……!)
やむを得まい。
©*@«は力を振りしぼって跳躍し、指令を出した。
「全 軍 撤 退 …… !」
.:º*¿¤*§º*ゝ.:
すっかり片付いて清潔になった部屋に入り、数珠土産ハルミは大きく安堵の息を吐いて和樹を振り返った。
「ノミ……いなくなったね」
「ああ……良かったな」
「これで安心して、受験勉強できるね……」
しばらくモジモジとしてから、上目遣いに和樹を見る、数珠土産。
「ねえ、今度一緒に勉強会とか、しない……?」
「あ、ああ……」 和樹は照れくさそうな顔をする。
本当は嬉しいのだが、まだまだ素直になれないお年頃、なのである。
「で、でもさ……付き合ってない男女が一つの部屋で勉強って…………」
「……何もないまま……一年も待てないょ……」
「えっ? ゴメン今良く聞こえなかった」
「……ばーか」
「えっ!?」
ひっそりと肩を寄せ、もはや勉強モードではなくなった二人。
……もう付き合ってます、でいーじゃんそれ。
.:º*¿¤*§º*ゝ.:
どこまでも広く、光と暗黒に満ちた宇宙空間を、砂粒のようにも見えるちっちゃヤツらが大跳躍していた。
「©*@«さま、これからどこに向かうのですか?」
部下の質問に、©*@«は遠い眼差しで答える。
「そうだな……まずは、≡<*£に還るか」
「ええ……カーペットの下でつつましく暮らすのが、我々には合っているのかもしれませんね……」
やはり、miniはminiでしかないのだ……と、部下が諦めの言葉を紡ごうとした時。
「なにを言う」 ©*@«が、思いっきり不思議そうな顔をした。
「≡<*£にてしばし休養後、再び地球に向かうぞ!」
「ええっ……!?」
まだ懲りてないのかコイツ。
脳内の一部でつっこむ部下に、©*@«は解説をする。
「つまりだな、我々がブラックホール・ホワイトホールを使って地球~≡<*£間を往復しても、地球時間でせいぜい……」
「1年半ってとこですよね」
「そうだ」
行きは数ヶ月だったが、帰りはホールの位置関係で少々時間がかかる。
「往復するだけで1年半以上の時が稼げる。つまり」
「つまり……?」
「我々はまた、イチからやり直せるのだ!」
人間は学習しない生き物だからな、とドヤる©*@«。
「We'll be back !」
なぜか英語で宣言し、「だぁーっはっはっはっはっ!」 と宇宙中に悪役笑いの思念を響かせながら、彼は0.1mmの脳ミソの片隅で、ちらりとこう考えたのだった。
――― 次に地球に戻った時には、アイツら大学かもな……。
THE END
~・~ Data File ~・~
『侵略者情報』
・地球基準で身長1~3mm
・派手なツンツン頭
・知能水準 高レベル
・会話はテレパシー
・跳ねる
・耐熱/耐寒/耐衝撃スーツ装着
・薬剤耐性 = 低 (本編終了時現在)
読んでくださりありがとうございます!
本編はこれにて終了、あと1話、コラボの経緯をご報告して完結です。
最後までお付き合いいただければ嬉しいです。宜しくお願い致しますm(_ _)m




