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無限ループって怖いよね

勇者視点です

 一体何時間戦えばいいのだろうか。

 もう何度その問答を心の中で繰り返したのかもわからない。


 思えば最初から誤算だらけだった。

 元々、この魔王城の戦力はそこまで高くない、そう聞いていたのだ。


『気にしなければいけないのは六魔将と魔王本人だけ。それ以外にも敵はいるが、さしたる障害ではない』


 そう言っていた将軍の元に飛んで帰り、澄ました顔をぶん殴ってやりたい。

 ファイアドラゴンやリッチーが障害じゃない?

 笑わせてくれる。

 そのどちらも勇者であるこの俺が本気で戦ってようやく勝てるほどの難敵だ。

 しかもファイアドラゴンは二体だぞ?

 ふざけるなよ。

 ヒーラーであるレイナがいなければ今頃パーティーは全滅していただろう。


(まあ、勇者であるこのケイト様は別だが)


 …いや、問題はそこじゃない。

 実際、ファイアドラゴンに限ってはわりと早い段階で倒すことができたのだ。


 『聖女』レイナ

 『大剣士』ジョア

 『シーフ』ケビン

 『神弓』ガリル

 そして、この俺『勇者』ケイト


 そうそうたるメンバーだ。

 俺の国のどこを探してもこれ以上のパーティーはいないだろう。

 しかし、だ。

 そんな最高のメンバーと共に戦闘状態に入って既に二日が経過している。

 だとういうのに未だにリッチーを倒すことができていない。

 

「なあ、やっぱこいつおかしいって——」


 自分の隣で大きな剣を構える仲間、大剣士のジョアがそう呟く。

 全く同意見だ。

 この大きな部屋、ホールと言っても過言ではない部屋に足を踏み入れた瞬間、ファイアドラゴンが襲い掛かってきた。

 驚いたし、不覚ながら傷も負った。

 だが、傷なら魔法で治すことができる。

 しかもこのパーティーのヒーラーは『王女』であり『聖女』でもあるレイナだ。

 死ななければ部位欠損すら治すことができるその奇跡があれば、多少の時間はかかったものの、この勇者の敵ではなった。


 だが、最後に残ったリッチーは違った。 

 こいつは何かおかしい、そう確信する。


 なぜならそのリッチーは攻撃をしてこないのだ。 

 ひたすらガードに徹し、傷ができれば回復し。

 しかし、横を抜いて次の部屋に行こうとすると即死級の魔法を放ってくる。


「そんなこと言ったってしょうがねえだろ…やることは変わんねえ、力技で押し通る。合わせろよ」


 腰から魔力回復ポーションを引き抜いてがぶ飲みする。

 残り少なくなっていた魔力が回復するのを感じると同時に気持ちが昂る。


 その後も状況は変わらなかった。

 パーティ全員で大技、大魔法を放つがリッチーの体力を削りきるには叶わず、即時に回復される。

 逆に言えば、横をすり抜けて部屋を出ようとしなければこちらに被害は出ない。

 これではまるで千日手だ。

 体力は回復するものの、長引きすぎた戦闘ですでにパーティーメンバーの気力は限界に達している。

 かくいう勇者自身も本音を言えば今すぐ国に帰ってベッドにもぐりこみたい気持ちでいっぱいだった。 


 しかし、ファイアドラゴンという大戦力を削りきったのだ。

 ここで引く、という選択肢は取れない。

 それに魔王討伐の報酬にも目が眩んでいる。

 莫大な金銀財宝に名誉。

 国へ帰れば一生遊んで暮らせるかもしれない。

 きっと女だって自分から抱いてくれと言って押し寄せるはずだ。

 

 だが、それもこれも全て魔王を討伐すればの話。

 むしろ今ここで負け帰れば国中から白い目で見られるかもしれない。

 『王女』との婚約もなくなるかもしれない。

 

(俺は王になる器だ。こんなところで負けるはずがねえ)


 いつまでもくたばらない、かといって攻撃もしてこない粘り強いだけの雑魚にこれだけ時間を取られている。

 その事実にひどく苛立ちが募る。

 なんとか敵の体力を削りきろうと大技を放つ準備をして——


「ああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」


 だが、唐突にリッチーの行動が変化した。

 顔の横を凄まじい速さで通り過ぎた魔法がシーフのケビンの全身を焼く。

 

「ケビン!!」


 まずい、そう感じたがもう既に大技をキャンセルできる段階ではない。

 両手に掲げた聖剣から光が迸る。

 そして、敵はそれを横に移動して避けた。


「——?!」


 驚きに目を見開く。

 そう、敵が避けたのだ。

 障壁を張るのではなく、避けた。

 今までになかったパターンである。


 チャンスだ。

 そう確信して後ろを振り返れば、全身を燃やされていたケビンがレイナの回復魔法で復帰しているところだった。


「おい! 今ならいけるかもしれねえ! 全員で押し切るぞ!」


 行動パターンの変化。

 それは対モンスター戦において稀に見られる現象だ。

 そして、その変化は相手の手持ちが少なくなっていることを意味する場合が多い。


 そして、持久戦となっていた頭を攻勢へ切り替える。

 敵はその攻撃を悉く避ける。

 しかし、避けられるだけならば話は簡単だ。

 避けきれないほどの弾幕を形成すればいい。

 物量で圧してしまえばいい。


 敵からも攻撃が飛んでくるが大した問題ではない。

 即死級の魔術は飛んできていないし、何より多少攻撃を食らっても『聖女』レイナの魔法ですぐに復帰できる。

 きっと敵のリッチーの魔力が枯渇しかけているのだ。

 そう考えると納得がいく。

 大体、いくら守りに徹したとはいえ二日間もこのメンバー相手にソロで耐えていたことの方が異常だ。


 その後も攻勢を続けた。

 集中し過ぎていてどれだけ時間が経ったかはわからない。 

 だが、ついに。

 ついに敵のリッチーが身を翻して逃げ出した。


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