前任はポンコツ、慈悲はない
「マスター、人望ないですね」
「そう…みたいね…」
無機質なサポーターの声になんとか返事を返す。
部下を失った。
強そうだったのに。
ちょっと理不尽すぎませんかねえ…。
これなら一からスタートの方が精神衛生上マシだったかもしれない。
確かに、俺の外見は見たところ前世のままだ。
特に翼や角などが生えているわけではない。
鏡があるわけではないから不正確だが、おそらく顔もそのままだろう。
人間に侵略されているという情報もあったし、理解できなくはないが…。
これからどうしよう…。
いや、もともと何もない状態からスタートすると思ってたんだ。
謁見の間にいる、ということはここは城か何かなのだろう。
拠点があるだけいいじゃないか。
もしかしたら協力してくれる勢力もあるかもしれないし。
「サポーターってちょっと呼びにくいな。名前は?」
「私はサポーター、個別名称はありません」
「じゃあ、イリアで」
「了承しました。今後はイリアと名乗ります」
見た目から思い浮かんだ名前を付ける。
適当ではあったが、思ったよりしっくりくるな。
そこでふと、イリアとは反対側に台座に乗った水晶玉のようなものがあることに気づいた。
「これは?」
「それはダンジョンコアです。ダンジョンの中枢であり、コンソールであり、最終防衛目標です」
「これを使って何ができる?」
「ダンジョンの創造、魔物の創造、ダンジョン内の把握などです。それらはDPを消費します」
「DP?」
「ダンジョンポイント、と呼ばれます。DPはダンジョンコアの影響範囲下で生物が死ぬことで取得されます」
なるほど、つまりダンジョン内で人間が死ねばDPが貯まり、それを消費してダンジョンの増設や魔物を創造すると。
馴染みやすいシステムで安心した。
ダンファンも似たような感じだったのだ。
「ダンジョン内の把握、というのは?」
「ダンジョンコアを用いてダンジョン内の構造や生物の場所などを確認、編集することができます」
「なるほど、まあつまりこのダンジョンコアを用いてダンジョンや防衛に関するいろいろな操作をする、と」
こうやってコンソールのようなものがあるのは正直ありがたい。
もし『魔力を用いて云々~』とかだったら実際にダンジョンに手を付けるまでにかなり時間がかかってしまいそうだ。
「でも、なんでこんなところにダンジョンコアがあるんだろう。大事だろうからてっきりもっと隠しておくのかと思ってけど…。あ、別に壊されても再度生成できるとか?」
「いえ、ダンジョンコアの破壊はダンジョンマスターの死を意味します」
「…なんでそんなに大事なものがこんな開けっぴろげに置いてあるんですかねえ」
「攻めてきた人間の前で正々堂々と、って感じじゃないですか? 知りませんけど」
「なんじゃそりゃ…。ってちょっと待てよ、それって俺の前にも他のダンジョンマスターがいたってこと?」
「はい。前魔王が死亡し、その後釜としてマスターが据えられたようですね」
「あーなるほど。それならさっきのあいつらの態度もまあ納得できなくはない、か」
きっとさぞ人望の篤い魔王だったのだろう。
なんで死んだのかはわからないが…ダンジョンコアがこうして残されている以上直接的な死因なのかも。
そしてダンジョンコアが破壊されたらダンジョンマスターは死ぬが、逆はその限りではない、と。
「でもなんで前魔王が死んだって知ってるんだ? 俺と同タイミングでこの世界に来たのかと思ってたけど」
「私はダンジョンコアと同期し、その情報を読み取ることができるよう設計されていますので。ただし、実際に操作することは権限を与えられなければ不可能ですが」
「なるほどな、じゃあ前魔王の死因もわかるのか?」
もし死因がわかるならそれは知っておくべきだろう。
人間側に何かされて死亡したのなら対策する必要がある。
「腹上死です」
「え?」
「腹上死です。創造したサキュバスに搾り取られすぎたようですね」
「ポンコツじゃねえか」
なんてこった。
対策しようがねえ。
サキュバスかあ…ちょっといいなあなんて思ってしまうのが悲しい。
「ほどほどにしてくださいね」
「え、なに君、心も読めたりすんの?」
「いえ、顔にそう書いてありましたので」
恐ろしく有能なサポーターである。
ま、まままあ?
とりあえずいろいろと落ち着くまではね?
まだそんなことしませんけど?
「あ、待てよ。よく考えたら前魔王の遺したDPとかも使えたりするのか?!」
「はい、前魔王が残したDPも利用可能です」
なんてこった。
ポンコツなんて言ってすまんかった。
こんな立派な城があるんだ、さぞかし貯めこんでたに違いない。
「ならまずはこの城の防備を確認したい」
「では、ダンジョンコアに触れ目を閉じてください」
イリアに従ってみると、脳裏に城の3Dモデルとメニューが表示された。
それはそれは禍々しい立派な城である。
これが今いる魔王城の全景なのだろう。
メニューは上から編集、創造とある。
馴染みのある日本語ではない、おそらくこの世界の文字だろう。
なぜ読めるのかは知らないが読めるんだからそれでいいじゃないか。
ありがとう神様。
試しに編集、と念じてみる。
すると城の全景がズームされ、内部の様子が少し透けて見えた。
ただ、それ以上文字で何か表示されることはない。
だが、感覚で理解した。
おそらくこの状態でダンジョンマスターである自分が直感的に好き放題いじれるようだ。
なんともハイテクなことである。
「ご理解頂けたでしょうか」
「ああ、わりかしいい感じだ。創造ってのは?」
「ダンジョン自体の編集もそうですが、DPを消費することでマスターの指定するものをダンジョンコアの影響範囲内で創造することができます」
「待てよ、それってこの世界に存在しないもの…例えば俺の前世の世界にあったようなものでも創造できるのか?」
「はい。ただし無機物、生物に関わらず実際に存在しているものに限ります。伝説上の武器を創造、というような内容は難しいのでお気を付けください。また、創造対象のレアリティによって消費DPは異なります」
なにそれすごい。
それなら銃とか作っちゃえばわりとあっさりなんとかなっちゃうんじゃないか?
え、待ってイージーじゃん。
「試しに何か創られてみてはいかがでしょう?」
「そうだな、ちょっと気になるものもあるし…」
創造を選択する。
なるほど、創造したいものの名前やイメージがあれば創ることができるようだ。
それじゃ、まずはM4アサルトライフルを…
――――
M4
消費DP:12,000
DP:23
――――
「ねえ待って? 今DP23しかないみたいなんだけど」
「はい、二日前に前魔王が死亡する前にほぼ使い切っていたようですね」
なんやて…。
くそ、てっきり初期状態でDPがある程度あるのかと期待していたがそうもいかないようだ。
まあそれは仕方ないと割り切ろう。
てか前魔王死んだの一昨日だったんか。
「ちなみにDPの利用履歴なんかもわかるものなのか?」
「マスターであれば確認できるはずです」
履歴、と念じてみる。
期間の指定があった。
とりあえず一週間くらいでいいか。
――――
食料品:5,000DP
すごい枕:300DP
両手剣(鉄):5DP
食料品:1,000DP
食料品:300DP
ファイアドラゴン:30,000DP
ファイアドラゴン:30,000DP
リッチー:24,000DP
サキュバスクイーン:18,000DP
サキュバスクイーン:18,000DP
スライムローション:80DP
精力の秘薬:800DP
スライムベッド(キングサイズ):1,200DP
――――
「んんんんんんん?」
待って待っておかしくない?
いや食料品のコストが異常なこととか最後にいっぱい強そうなモンスター創ってることとかいろいろツッコミどころはあるよ?
でも待って最後の方のサキュバスってこれ、え?
「どうやら敵勢力を撃退しきれないと絶望した前魔王が最期に全てのDPを使い切ってはっちゃけたようですね」
「ポンコツじゃねえか」