You-夏の終わり
初投稿なので文章もまだまだかもしれませんが、評価・感想お待ちしております!
思い返してみればつまらない夏休みだったと思う。
今は山の中。車の後部座席の右側の窓から外の景色を見渡せば四方八方、緑が見える。ショージキ、この景色も見飽きた。
これでここに来るのも十七回目。森の中では俺の乗っている車のエンジン音だけが響いている。なんだか森《独特の静寂》を壊しているようで気味悪い。
八月二十七日。毎年この日に俺の家族は新潟にある実家に里帰りすることになっている。俺の家族は両親と……生意気な妹というごくごく普通の家族構成だ。
俺はたいして《高校二年生の夏の思い出》というものも無い。あったといえば野球部の練習試合の代打で二塁打を打った……ぐらい。高校二年でレギュラーになっているやつもいる。しかし、俺には突出した才能もなければ小さいころから野球児でもない。
まぁ好きでやっているからそこまで思いつめてはいないが……。できるなら憧れている甲子園の打席に一度は立ってみたいと思っている。
三週間前には友達から『彼女ができたことの報告』のメールが届いた。二週間前には別の友達から『ハワイ旅行が当たったことの報告』のメールが届いた。
『童貞の卒業報告』のメールも届いた。まぁ無視したが。
みんなそれぞれ《夏の思い出》を作ったのだろう。なんだか自分だけマラソンで周回遅れになっている気分だ。
ああ、遅れているさ!
「もうすぐ着くよ、ユウ」
「もっと優しく言えないのかよ」
隣から冷めた声で俺に話しかけてきた奴は俺の妹の智美だ。小学四年生でもうファンクラブ(五人ほどの)ができていやがる。未だに童貞の兄と比べれば異性からのウケは《月とアメーバ》並みに違う。
「言えない」
「そうですかい、お・じょ・う・さ・ま」
俺が放った皮肉を聞いた智美はそっぽ向いて窓の外を眺めだした。
しばらくすると畑が見えてきた。あたり一面に広がる若葉色。はじめた見た者は歓喜するだろう。しかし、俺は見慣れているのでなんとも感じない。俺の意識はPSPのモンハンの方に向いていた。
はぁ……。レギュラーにもなっていない俺が練習休んでまで行くような所なのだろうか、ここは?
答えはノーだ。
車を降りた俺は実家の家に向かった。俺と知美の距離は五十メートル程離れている。
実家の家はとても豪華な屋敷で俺の住むマンションに比べたら……大分輝いて見える。ちゃっかり、日本庭園もあったり……。
「なぁ、智美」
「何?」
相変わらず智美は《よってくるなオーラ》を放っている。
「俺、いつものとこに行ってくる。一緒に行かないか?」
いつも、俺は智美と一緒に《いつもの場所》に行くのだ。それは一種のテーゼだったりする。しかし、今日は違った。
「一人で行けば……? お母さんには私が言っておく。ユウがいない方が楽だから」
「そっ」
そういえば一週間前から、妹に元気がない。何かあったのだろうか? こんな妹だが心配してしまう。妹を大切にしない兄がどこにいるのだろうか?
や、シスコンだとかそういうなのではなくて。
まぁいいさ。妹は能天気だしそのうち元に戻るだろう。
そう思うと俺は《いつもの場所》へ向かった。
実家から二百メートル程の距離の小さな神社。周りには深緑の景色が。
俺の言う《いつもの場所》とは一種の避難場所といったところか。うちの実家の両親は話好きで、三、四時間はその話を延々と聞かされる。それもかったるい話を。そこで考えたのがここだ。ここなら空気もおいしい。
実家の両親の話も回避できてなおかつ、暇つぶしもできる。我ながら考えたものだ。ちなみにこういうことを実践したのは小学四年生の頃からだった。ちょうど智美と同い年だ。あのころは少し不安(親に怒られないか)があったが、今は鼻歌混じりだ。
「あれ? ユウくん?」
「綾香ちゃん?」
俺の目の前に現れた少女は佐藤綾香だ。この村に住んでいる高校二年生。俺とは小学四年生から知り合いだ。
相変わらず、その長い髪に大きな瞳。白い肌。俺の知っている女子の中ではぶっちぎりでナンバーワンだ。ただし、俺には到底、届かない存在だが……。
彼女と俺が出会ったきっかけ。それは俺がはじめてこの神社に来たときの事だ。
綾香はいじめられっ子でいつもいじめられてはこの神社で啜り泣きをしていた。しかし、大声では泣いてはいなかった。彼女なりのプライドというものがあったのだろうか。まぁ深く考えることもないが。
綾香がいつものようにいじめっ子にいじめられて神社で一人で泣いていた時のことだ。俺は初めてこの神社に来た。その時に俺は彼女と出会った。
泣いていた綾香に俺はポケモンのピカチュウの描いてあるハンカチを渡した。それで涙を拭った彼女の顔はとても可愛い。それから中学三年生の頃まで彼女とは里帰りする度に神社で彼女と会った。
綾香は智美の面倒も見てくれる優しいお姉さんだ。正直、兄の俺より心を開いていた。少なくとも。智美も彼女の事を慕っている。少なくとも俺よりは。
しかし、高校一年生の時は違った。綾香は吹奏楽部の演奏会があってここのは来れなかったのだ。ガッカリもしたが安心もした。彼女といるときは妙に気を使っている俺がいる。そんな気がした……。
今年も演奏会のある日(その事は電話で綾香から聞いた)なのに何故かここにいた。まぁ聞かないほうが良いだろう。深いワケがあるのだろう……。
「ひ、久しぶり」
やっぱり俺は彼女の前では気を使っているようだ。
「久しぶり! 元気だった?」
「ま、まぁ」
俺は彼女の事が好きなのか? イエスだ……。
「妹さんは?」
「あ、あの思春期娘ね……。あいつは一緒に行きたくないって言ってさ。まったく、わかんねーよウチの妹は」
少しは気が楽になったか、俺よ。というか、気になったのだが何故彼女は学生服のままなのか? 気になるっちゃ気になる……。まぁ深いワケでもあるのだろう……か? 聞かないでおこう。触らぬ神に祟り無しだ。
使い方が違う? や、俺にとって彼女は神よりも尊き人物だ。
「ユウくん、野球頑張っている?」
「ああ、頑張ってるよ。まぁ強制ギプスまではいかなくても……頑張っている。もし、俺が甲子園にレギュラーで行ったときには見に来てくれる?」
「……うん」
綾香は沈んだ顔だ。なにかあったのだろうか? やっぱ。
「ねぇ、死んだときにはどこに行けるのかな?」
「は?」
「ご、ごめんね……変なこと言って」
なんでこんな時にこんなことを綾香は言ったんだろうか? やっぱりなにかある。それを聞くことは簡単だ。しかし、俺がそのことを聞いたりして彼女が傷つかないかどうかが問題だ。大体、ネガティブなことを言っている点、とてもハッピーな事ではないだろう。この感じからすると親か誰かが死んだのだろう。そんなことを彼女に聞いたらどうなるか……。
でも慰めてあげることはできるかもしれない。
いいや、義務だ。
「綾香、なんか悲しそうだぞ。なにかあったのか?」
「うんん、なんにもナイ、ナイ。それより妹さん元気にしてる?」
あっさり流されてしまった。
「元気だよ。少なくとも俺よりかは……」
「よかった……」
「ホント……兄も大変だよ」
そういえば綾香は動物が好きだと言ってた。昔、両親に動物園に連れて行ってもらった事がきっかけらしい。特にカンガルーの赤ちゃんが可愛いと……。まぁどの動物も赤ちゃんの頃は可愛いだろう。普通。
「なぁ、今度時間あったら動物園行かない? 最近、二本足で立つアライグマのいるところ。カワイーよ、ホント」
「ごめんね、ユウくん。もうユウくんには会えないの」
「へ? なんで?」
あまりの唐突さ&衝撃で俺の頭の中は疑問詞で溢れかえっていた。
「……言えない。だけどこれだけは答えて! 私のこと好きなの?」
「…………」
頭の中がパンク状態の俺には何のことやらサッパリ。だけど答えることはできる。勿論イエスた。俺は自分でも分かるぐらい優しい声で言った。
「好きだよ、うん」
「……なんだろ、こんなこと言われるのなれてないなぁ」
照れている綾香。なんだか悲しくなってくる、俺。理由も知らない俺の前から消えてゆく彼女の姿。なんでだ、なんでだ?
「目をつぶって」
綾香は俺に言った。
「こう?」
「あなたに会えてよかった。また、会えるよね……あけて」
十秒程だろうか。俺は目をつぶった。次の瞬間、俺が目を開けたら綾香はいなかった。最後に聞いた彼女の声は優しかった。ほんの数分のことだ、彼女といたのは……。しかし、俺の腕時計の針は少しも動いていなかった。
一秒も……。俺が目を開けたらその針は再び動き出した。
その後、俺は実家の家に戻りかったるい話を四時間程、聞かされた。最近の世界情勢のことから有名芸能人の人物評や、ショージキ、どうでもいい話ばかり……。ずっと正座をしていたので足が痺れてくる。
「なぁ、女の子に告白された……どうすればいい?」
帰り道、俺と智美は無駄話を繰り広げていた。
「はぁ? ユウくん女の子に告白されたのぉ! いつ?」
「さっき、いつもの場所に行ったら綾香がいてそこで綾香にさ」
俺は思った。告白されても、もう会えないのだ。そんなこと言っても無駄だろうと……だけど、言いたかった。自慢ではなくて。
「……綾香姉ちゃんは一週間前に死んだよ。なんでかは知らないけど……お母さんから聞いたんだ」
俺は唖然とした。口は閉じられずに突っ立っていた。綾香が死んだ? だったら今日の彼女はなんだ? 双子か? いや、違う!
「もしかして、綾香姉ちゃんに会ったの? ねぇ、ユウくん!」
「会ったよ……」
それ以上、俺は口を開きはしなかった。開けなかったのだ。まだ綾香の死に心の整理が追いついていなかったんだ。きっと……。
俺と智美は少し時間を貰い綾香の住んでいた家に行くことにした。
確かここらへんだったと思う。なんとなくだが……こんな狭い村、綾香の家を探すのは苦労しなかった。かなりボロい家だ。今にも崩れそうなその家からは人の住んでいる気配がしなかった。
「あの〜この家の人たちはどうしたのですか?」
俺は通りがかりの見た目七十代の老人に聞いた。
「この家の家族は一週間前に一家無理心中をしたべ。そりゃぁ〜東京から来たテレビカメラや警察の人らまでいっぱい来たべぇ」
そういえば、最近ニュースでそのような事件があったと報道されていた。あまりニュースに興味のない俺は軽くスルーしたが……まさか。
「……ねぇ、綾香姉ちゃんどんなんだった?」
「ん〜最初は暗かったけど段々といつもの感じになってた」
「よかった」
「それだけ?」
「それだけよ。ユウくん、よかったね」
そう言うと智美は綾香の家に背を向け歩いていった。
「…………やっぱわかんねぇや」
少し考えた。綾香が最後に会おうと思った奴がなんで俺だったのかという事を……。まぁわかった事は一つだけ……。
綾香は前にあった時より可愛くなっていた事だ。次に会うときはどうだろうか? わかんねぇや。
あえて、今日は綾香にさよならとは言わなかった。
「短編は難しいッ!」と痛感いたしました………。