ロッテとマイア。
「で、このアルカ様になっているのはどなたなのです?」
バトラはボクの顔覗き込むようにそういう。
「ほらこの様に私が覗き込むだけで真っ赤になっているアルカ様など、あり得ませんし」
だってしょうがないじゃない。バトラのバリトンが耳元に響くと心臓がばくばくしてドキドキして顔が火照ってきちゃうんだもの。
……ウブな少女だな。まるで。
うー。
「えっと、ごめんなさい。ボク、ロイドと言います」
《勇者に攻撃された時にな、このロイドが庇ってくれたんだよ。で、咄嗟にインナースペースに取り込んで転移するはずがこのこも同時に同じことをしようとしたらしく。結果、融合してしまったらしい》
「そうでしたか。で、アルカ様は表面に出られない、と?」
《ああ。魔法も使えん》
「それは困りましたね。来月のノースサイド歓待会では各国の代表による魔王トーナメントの前哨戦も執り行われますのに」
《実力も無いのに魔王位についているとか嘯く輩に目にもの見せてやるチャンスだったのだが……》
「気にしすぎですよアルカ様。魔王は強いだけではないのです。皆が慕う貴い精神こそ魔王に必要な資質ですから」
《それはあたしが弱いっていいたいのか? バトラ》
「アルカ様はお転婆が過ぎますけれど決してお強いわけでは無いでしょう? 私にも勝てない様ではトーナメントで結果を残すのも難しいですよ?」
《うぐ……》
「まあしょうがないですね。ところでロイドさん? あなたは空間転移が使えるのですよね? という事は魔法にも長けてらっしゃる?」
「あ、いえ、魔法はまだ使ったことがないです……」
《この子はまだほんの子供なのだ。あまり無理は……》
「では、鍛えがいがありそうですね。大人よりも子供の方が魔法の才能を開花させやすいといいます。それに、この物腰であれば少し練習すれば淑女として恥ずかしくないよう身のこなしも身につくでしょうし。案外アルカ様より良いかもですね」
《ああ。レディー教育ならこの子にしてやってくれ。あたしはまっぴらだしな》
え? え? どういう事?
……歓待会では我が国はホスト国となる事に決まっている。女王として気品のある物腰でとか煩かったのだ、こやつ。まあロイドならこなせそうで安心だ。
えー? 無理です無理です!
……無理だと? あたしに恥をかかせるつもりか?
そんな……。
チリン
バトラが呼び鈴を鳴らすと侍女服を纏った女性が二人部屋に入ってきた。
片方の人はひっつめ髪にメガネ。背も高いしちょっと厳しそう。
もう一人は……、猫耳? 猫系獣人っぽい。黒とシルバーのまだらの髪がおかっぱに切りそろえられて、可愛い。
「ロッテにマイア。アルカ様はご病気で体調が優れない。身の回りの事も一人では出来ずに困っているのでしっかりお世話をする様に」
「はい。バトラ様。それでは授業の方は中断で御座いますか?」
と、ロッテ。
「いや、それはおいおい進める様に。時間があまり無い。淑女教育はロッテに任せる」
「かしこまりました」
「寝汗、かいてらっしゃいますね、アルカ様。身体をおふきしましょうか」
「ああ任せたマイア。若干微熱がある様だ。よろしく頼む」
そう言い残すとバトラは部屋を出て行った。
うう、どうなるの? これから。