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ローマでも長安でも洛陽でもない、ある都の休日

作者: 盲管

「華」の国の都・新陽の片隅、八等司厩官の李典偉が、妻と二人の幼子とつましく暮らす家に、異変があった。ある朝、家の扉に矢が射ち込まれ、そこには青聘票と呼ばれる貴人からの召喚状が結わえつけられていた。

 発したのは、王の側室のひとり、有美人。有が姓、美人は官位ないし役職である。住まう宮の名をとって、玉瑶台さまとも呼ばれる。

 怪物と噂の高い女であった。年は若く、まだ子はないが、王の厚い寵をたのみに、目下権勢並ぶ者はない。暮らしは贅をきわめ、あまつさえ、諫言した忠臣三人の首を自らの手で刎ね、宴席を血に染めたなどという。その怪物美人が、己の目の愉しみのため、山海の珍品をかき集めて足らず、ついにこの男を酒席の興としてご所望の運びとなったらしい。

 それもそのはず、この男は人目を引く巨体もさることながら、どこにも類例のない不可思議な来歴の持ち主であった。


 まさしくそれは世にも不思議な物語。ありのままを語ってきたが、大半の者は、信じることはおろか内容を理解することさえ出来はしなかった。

 遡れば十年前、当時の彼は、日本人・大木ノリヒデといった。平成七年大阪市淀川区生まれ。平凡な人間だった。あだ名はウド、フランケン、馬やん。偏屈な祖父の手ひとつで育てられてたせいか、考え方も言葉つきも、昔風で年寄り臭い。愛読書は吉川三国志。特技は将棋でアマ二段。過去を知らぬ者なら「気はやさしくて力もち」と形容したくなる。

 だがその履歴には、短い学歴覧に比して長い賞罰欄がある。

 工業高校の卒業式のその日、不良グループから神崎川の川原に呼び出された。身に降る火の粉を払った結果が、相手は橋桁に頭を打ち、傷害致死の罪名がついた。つまらぬことから執行猶予も棒に振り、彼は二年の刑期を服役したのみならず、出所後は数千万の民事の負債を負った。

 闇の中の唯一の光明は、保護司を勤めた装蹄師の親方が、気性を見込んで弟子に取り、宇都宮の装蹄教育センターへもやってくれたこと。

「ノリ、負債のこと、自棄おこしたらあかんど。そのうちワシがうまいこと先方と話をしたるさかいな」

 この親方のもと、ツナギの作業着に身を固め、アルミ合金と競争馬を相手に精勤すること四年、ある日、賞与とともに一枚の封筒が手渡された。

「三国志赤壁三泊四日の旅」

 パンフレットに往復の航空券もセットになっていた。関空から武漢天河国際空港まで、彼にとってはじめての心弾む空の旅だったが、復路の券は、結果として使われることがなかった。

 断層のリープ(跳躍)は、旅先の湖北省某地において、あっけなくも唐突に訪れた。感覚としては断層も跳躍もない。禹王廟の片隅の無人の祠の中で霧に巻かれ、出てきたときは世界が一変していた。

 それが何千年の時間遡行だったと知るまでに、どういう段階を踏んだか、もうはっきり思い出せない。とにかく異変に慌てて手荷物を探り、二冊の書物が出てきた瞬間をよく覚えている。「ハンディ中日辞典 三修社」と、親方のおつかいものの豪華本「馬術大系馬具編 北京商務出版公司」。身につけていた着衣や財布携帯は、三日もたずして散逸したが、不思議にこの二冊の本だけは後年まで残ることとなった。


 突然湧いて出た謎の大男を、この時代の人々も、ひととおりは怪しんだ。

 都での役人による事情聴取は一年半に及んだが、その手続きを通じ、言葉は疎く、出自は不可解ながら、善良で質朴な性格は周知となり、やがて今の名と身分が与えられた。

 九等司厩官、李典偉。本人の希望と適性が汲まれ、職務は郊外の官営牧場における馬匹の運用と繁殖。馬具の作成および管理である。

 人間を相手にするより、動物や工具を扱う方がこの男には向いたようで、二十一世紀の日本の厩舎においてと同様、仕事の勘所をつかむのは早かった。

 問題は、課せられた特別な任務だった。

 そこには彼自身がこの都へ持ち込んだ例の馬術書が関わっていた。

 王や重臣にまで回覧されたその本は、そのつくりの精妙もさることながら、記載の内容も強い関心を呼びおこした。勅命により、翻訳事業が立ち上がると、彼の身は否応なくその中心に据えられた。

 容易な仕事ではなかった。翻訳する「先」の言語は、今暮らしている世界のことであるから、日に日に明るくなっていくが、「元」のほうは依然として霧の中にある。現代中国語を知らず、簡体字は読めず、そもそも言語表現自体、得意という男ではないのだ。

 それでも全ての情報は、彼というボトルネックを通して取り出すほかはなく、ハンディ中日辞書を頼りに、乏しい言語野をフル回転させる日々となる。そのサポートのため、事業主体の尚書部という官衙から、能書達筆の役人が派遣され、専属で厩舎に詰めることになったのも当然必須の成り行きと言えた。

 それから経ること五年。総項数850、語数60万、写真・見取り図2200、表グラフ500の大著も一通り訳し終えられ、いまや事業は推敲を残す段階に移っていた。彼自身も、すでに妻をめとり、都の一角に家を構え、ふたりの子をもうけた。厩舎では八等官として、十人の部下を束ねる役に昇格したばかり。不吉と禍の予兆がその扉を叩いたのはそんな頃であった。



2




 夜更けから積り始めた雪の明かりで遺書をしたためた。  

 明ければ晴天の下、一面の雪景色で、折りしも季の節目の休日のこと、まだ人影も荷車の轍もない。

「ほな行ってくる。心配要らん。噂は噂や。寒いから早よ、中、はいっとき」

 妻子にそう言い置いて扉を閉め、新雪の中に踏み出した。

 とつとつと足跡を刻みながら考える。

 強く望んだから、ここへ来られた。あの親方には悪いが、そう思っている。ここは自分が読み馴染んだより古い時代、三国どころか秦漢よりさらに前らしかったが、それは二の次、ともかく殺人の汚名と借金から逃れ、こうして家族も仕事も得ることができた。出来過ぎではないか。

「今度はヘマできんで」

 兵部省の四つ辻を抜けると、向かう玉瑶台の長い石塀に当たった。

 その厳粛な佇まいが、奈良市内の少年刑務所を思い起こさせる。

 門で、鎧兜の衛士に符を示して建物に入る。愛想のない女官のあとについて、長い廊下をめぐり、寒い控えの間で半刻も待たされて、ようやく謁見の間に招き入れられた

 酒席など影もなく、神妙な面持ちで女官が居並んでいた。

 一番奥の壇上、胸の高さの御簾を隔てて主人が座り、目下の客を威圧しつつ拝眉の栄を与えるという形である。

 一人いる男の役人に朗々と名を呼び上げられ、練習とおり、段の下へ進み。そこで両膝をつくと、頭を地につけた。

「李典偉にございます」

 傾国の妖姫と呼ばれるものが、すぐ目の前に鎮座していた

 この低い位置からは顔も窺えようが、むろんそれは法度である。どうにか見える手指といえば、美しく整えられ、色は今日の新雪にも紛う。これでダンビラぶんぶん、いうのはさすがに嘘やで。

「馬」

 いきなり嘲りを投げられると 予期せぬではない玩弄がそこからはじまった。

 貴婦人は壇上から扇子を三度床に投げ、彼はそれを三度拾い奉じた。

 三度目に寄ったとき、女の手には、例の簡体字の馬術書の原本があった。細い指先が項を繰ったと思うと、意外な質問が頭上から降った。

「この文を書いたのは誰か」

 挟まった紙片、注釈の添えられた栞をひらひらさせる。

「尚書部の役人でございます」

「名は何という」

「失念いたしました」

 嘘である。覚えていた。のみならず、その若い役人には特別な友情を感じていたので、万一にもこの席から禍を及ぼすことは避けたかった。

「偽るか、痴れ者」

 即座に扇子で頬骨を打たれた。さらにその先端で額をこじられる。

「それが通ると思うか」

 忍辱と諦念の感覚が、また体を浸す。それはいつ以来自分の中に積み重ねられてきたのだろう。受刑以来、事件以来、親をなくして以来?  無駄にデカいから、貧乏だから、前科者の根無し草だから?

 そのとき相手の体がくの字になった。何かと思うと、声を殺し笑い崩れているらしい。

 そしてやおら背を伸ばし、腕を一振り、頭上から御簾を払った。

「忘れたなんて、すげないこと言うのね」

 錆含みの渋声が、銀鈴を振る華やかさに一変している。見上げればそこでは、まさしく明眸皓歯の麗人が、満面の笑顔を向けていた。 

「あ、あんたかいな」


3



 

 最初の出会いは、四年前、都大路、朱雀大橋の事故現場だった。 

 荷馬車同士が正面衝突した。馬が橋を踏み抜き、手綱は絡み合って立往生。馭者は殴り合い、散乱した積荷の蜜と豆めがけて黒い網のように蟻がたかり、野次馬もアヒルも豚も犬も集まっての阿鼻叫喚。

 馬の鎮静・誘導役に呼ばれた自分も、他の者同様、遠巻きに手をつかねていると、若い略装の役人が、向こう岸から、細い欄干をひょいひょい踏んできた。

 その若者は擬宝珠の上にすっくと立つと、一同の注視を促し、即席の点呼を取った。帳面と筆を手に、そのまま流れるように、四人の当事者から事情聴取し、四の役所に仕事を割り振ってみせた。 

「あんたのお裁きで助かりました。どこのお役所のひとですか」

 そう褒めると、

「何言ってるんだ、尚書部に決まってるだろ。今日からのキミの相棒さ。小騎尉って呼ばれてるよ」

 小柄な若者を、彼はまじまじと見た。顔が小さい。手足がすんなり長い。イデタチといい、えらいシャキッとしたシュッとしたイケメンやのう。

 

 これが馬術、言語センス両面からも、優秀な人材であることはすぐにわかった。

 ついでにこの若者が、実は若い娘であることにも、さすがに三日目には気づいた。何か相当な子細があるらしい。

「いっぺんだけ、わけ聞かしてくれへんか」

「いいよ。答えよう」

 三年前、彼女の故郷・鳴条が華に服属した際、名産の駿馬二十頭を朝貢献上するにあたり、輸送隊長を務めたのが、領主の姫、まだ十八の彼女だった。上京してそのまま宮廷の尚書郎に任ぜられたのは、人質の意味合いである。

 人質には世継ぎの男子を要求されたが、鳴条の世継ぎは男子でない。そこで記録が調整され、彼女自身はその記録の影として生きることとなった。呼名の騎尉というのはかつての父の形式的役職という。

「なんや複雑やねんのう」

「キミに言われるとは思わなかったわ。ふふ」

 これには眩暈がした。言葉のジェンダー位相が変じている。そもそもこの国の語尾に男女の別はない。あくまで彼の脳内に生じる現象である。うわ、なんか急に女の子になりよんねん。その機微を知るか知らぬか、この後も彼女の言葉は、時によって赤へ青へと色を変え、彼を戸惑わせ続けた。

 

 二年間のお役目を通じて、ともに何をしたか。

 ひとつの杯で酒を飲んだ 一度は一枚の茣蓙で背中を合わせて寝た。向かい合って槌を取り、ひとつの金床に青銅の馬具を打った。

 してあげたこと。

 落馬してくる小柄な身を抱き留めた。足を痛めたとき、包帯を巻いたうえ、一里を背負って歩いた。炊事が得意だったので多く担当し、彼女の好きな食材を得る努力をした。

 してもらったこと。

 お役目とは言え、とにかくよく話を聞いてくれた。自分の思考に寄り添って、簡単に妥協せず、いつも表現したい最適のことばを探してくれた。

 話題は馬具にとどまらず、身の回りのことから天下国家、ついには前世界の事象におよんだ。その中で将棋という遊戯に関心が向いたらしい。自分が手すさびに削った駒を弄るうち、ルールを覚え、対局を重ねるまでになった。

 それだけ密に接した相棒だったが、三年目のある日唐突に厩舎から姿を消し、いつもの位置には後任者が座っていた。彼は落胆し、その不人情を呪ったが、将棋の盤と駒が持ち去られていることに、一縷のよすがと慰めを見出した。


4




「可愛いらし顔してるとは思てたけど、おんな氏なくして玉の輿に乗る、っちゅう… いや、氏はあったんか」

 食事の席に酒が出て、重い口が軽くなっている。

「後で厨に案内するわ。ご家族のお土産、沢山もっていって。ひとりで背負えるくらいなら、公私混同にもならないと思う」

「いや、その公私混同ですねんけど、あんた、自分の評判、知ってますか」

 促す相手の目は笑んでいる。

「まるで妲己みたいに言われてますで」

「知らないわ、誰?」

「封神演義のラスボスやがな。殷の最後の王さまのごっつい悪いお后」

「具体的にはどんな感じ?」

「高価な絹を粗末にしてどないやら、酒池肉林がこないやら」

 目はまだ笑っている。

「忠臣の首をはねたやらいうのは?」

「忠臣、ではなかったけどね」

 声が低くなる。

「ホンマやったんですか」

「わざと惨たらしくしたわ。食卓の布が染まるように」

 そのとき流れたという血が、時空をこえていま彼の視野をも赤く染める。ここにあるテーブルクロスの白が、神崎川原の芝に積もる薄雪に重なり、パトランプの光がオーバーラップする。意識が彼方へとさまよいだし、抜け殻になって体の動きが止まる。 

 気がつくと下から顔を覗き込まれていた。

「平気?」

「ああ、うん」

「私が怖くなった?」

「い、いや」

 目を合わさぬまま口先で応じるのが精一杯だった。

「景色のいい楼上でお茶にしましょう」


 ひとり先に楼上にでれば、全都全周の雪景色が望めた。風はなく日差しは暖かい。市中をめぐる水路の面は青空を映し、そこを雲が音もなく渡ってゆく。街の人出も疎らである。

 東の五丁先に、二百坪ばかりの桃林が見えた。

「ここからやったら、すぐ近いねんな」

 四年前の春の休日、満開のその枝が花弁を散らす中で、果実酒を傾けながら、二人で将棋を指した記憶がある。

 彼女はその日、二段の猛者である自分を平手で破った。ルールを覚えてわずか二月。未見の振り飛車さえ指しこなす才気に呆れて、つい軽口した。

「あんた、そのうち、盤の外で、ひと旗上げたらどないや。豪族の跡取りなんやしな」

 相手は頬を染めて笑った。

「そのときは、キミを一番の家来にしてあげる」

「それは光栄やな。楽しみに待ってるで」 

 それはなんと何気なく他愛もない受け答え。そして今となって、それはなんと軽はずみで身の程を知らぬ答えだったろう。

 見上げれば、鳶が一羽、空に輪を描いていた。 


5



 上がって来た彼女は、『三国無双』の孫夫人のような動きやすい軽装に、厚手の上着を羽織っていた。

 炭の燃える炉をはさんで、熱い茶碗を手に取った。寒暖のコントラストが心地いい。

 彼は切り出した。

「ひとつだけ聞いてええですか」

「うん」

「前の世界で、人を殺してしもて、二年牢屋に入りました」

 美しい双眸が見開かれる。

「なんぼ考えても、悪いのは死んだそいつですねん。でも、あいつにかて人生があって、親が、未来の子孫がて、そう考えよったら」

 両手首をそろえて目の前に掲げた。

「考えよったら、こうして手が震えるんです」

 それは苦い記憶が残る罪人の仕草。

「あんたは、そういうこと、ありませんか」

 問われて、彼女は口を開かなかった。しばらく目の前の両手をじっと眺め、目を閉じて何か考えていると思うと、やがて双の白い手が伸べられた。柔らかく男の両手を包むと、ひとまとまりになった四つの手は、そのまま数瞬、澄んだ空気の中に象嵌されたように静止した。

 彼は嘆息した。

「肝がすわってはんな。さすがや」

 そっと左右の支えを払えば、武骨な両手はまた不似合いに震え出す。

「こっちはこのザマですわ 笑うでしょ。この名、この体で、普段は偉そうなこと言うてるのに。せやけどこんな男でも、家に帰れば四人家族の大黒柱ですんや。職場でも…」

「その家はどれ」

 珍しく言葉を遮られた。 

 彼女は椅子に脚を組んだまま、風に目を細めて下界を眺めている。彼は手すりから身を乗り出すように、北西の一角指さした。

「あの池の南。同じ瓦の色、三軒並びの真ん中です」

 それから聞かれるままに、家族について語った。

 身寄りを流行病で無くした妻のこと。生まれた男女の双子のこと。家族が増えるたび、一本ずつ庭に植え足してきたスモモの木のこと。

 彼女の面持ちは昔のまま、ただ自分の言葉だけが三年分流暢になっていた。

 

 終わりの気配は、白い指による女官への合図だった。

 それを承け、ひとかかえの風呂敷が運ばれてきて卓上に載った。

「長いこと借りてたね」

「ええんです。かえって嬉しかった」

 将棋は本来、自分の唯一の特技だったが、彼女には頭の体操以上の何でもない。

「風が出てきたわ。もう降りようか」

 髪を直しながら席を立った。

「キミのことも、そろそろ大事なご家族へお返ししなくては」

 いささか皮肉に響くのは、いたしかたない。耐える。ここさえ凌げば、本日の会見、意外につつがなく終了する見込み。あとはお土産を頂戴するばかり。子供たちの好きな乾燥無花果と、調理に使う菜種油。できれば何か調味料、胡椒、丁字、八角、エトセトラ、

「騎尉くん!  美人さん!」

 椅子を蹴倒して立ち上がる。自分でも思いがけず大きな声が出ていた。

「ん?」

「罵しってくれへんのですか。へたれ、腰抜け、軟弱者、て」

 強い視線がぶつかる。

「それがキミの望み?」

 深く頷く。

 だがそれに対しては、微かな笑いが漏れた。

「もういい。こうなるのが分かっていたから、意地悪は、最初に済ませておいたわ」

 再び階下へと足を向けながら、彼女は確かにこちらへウインクを投げた。


6




 帰り道、風呂敷包みを背に、人の行き交う朱雀橋を渡りながら一度だけ振り仰いだ。

 楼上、もはや人影はない。

 おそらくもう、会うことはない。

 はるか未来から呼ばれながら、乱世に覇を唱えず名も挙げず、自分はこのままこの時代の市井に埋没して一生を終える。それでいい。それ以外の幸福などない。

 千里の道のりを越え、幾千年の歳月を跳んで、手と手を重ねてもなお、なんと自分たちの世界は遠い。

 目の前にかざせば、見慣れた大きな手は、まだ心細げに震えていた。


※参考文献 ウィキペディア ●夏(三代) ●末喜


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― 新着の感想 ―
[一言] 素敵なお話でしたが、バッドエンドが待っているとなると、後味が……。李典韋が齎した知識が救いになれば良いのですが。
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