第一話
初めて書いた小説です。お見苦しい点も多々あるとおもいますが、読んでいただけたら幸いです。
「俺は今、五年前死んでしまったはずの彼女と再会した。」
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就職活動真っ最中の大学生、太田新は非常に困っていた。
「なあ、智也。お前を含めて俺の周りは続々と内定が決まっているってのに、なんで俺だけ内定がとれねえんだよ。」
「それは、新の人間性が面接でばれちまってんだよ。ほんと、会社の人事ってのはすごいよなー。」
「智也は他人事でいいよなー。小学校からの仲じゃねえか!」
「俺は内定とったから他人事でいいんだよ。この時期に一社も無いのはまずいぞ。死ぬ気で今日の面接は頑張って来いよ。なんてったって今日の会社は瞳ちゃんがずっとやりたっかった仕事なんだろ?」
「そうだな。今日こそ受かるように頑張ってくる」
新がそう言うと、智也は新の分の代金も払って二人馴染みの喫茶店を後にし、新も飲みかけのコーヒーを一気に飲み干して店を後にした。
桐谷瞳は新と智也の小学校からの幼馴染だ。女子にしては非常にやんちゃな部類だったが、そんな瞳に新は恋心を抱き、瞳もまた新に恋心を抱いていた。そんな二人を智也がからかう。三人は家の近くの同じ高校に進学し、これが十二年間三人のいつもの日常だった。
しかし、瞳は高校二年生のある日、突然消えた。瞳が悩んでいる様子をいままで一度たりとも見たことのなかった二人はとても驚いたが、ただの家出で携帯も財布もいにあるからすぐに帰ってくるだろうと思っていた。しかし、警察が捜索しても結局彼女は見つからなかった。
瞳は大学を出て入りたい会社があるのだとよく二人に話していた。そんな瞳をふたりはからかいながらもいつも応援していた。しかし瞳はその夢をかなえる前に居なくなってしまった。
新は『もしかしたら瞳がいるかもしれない』というかすかな希望を抱きながら面接を受けに行こうとしていた。
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「今日で6社目か。私立文系は本当に厳しいんだなぁ。今日の会社こそ受かりますようにっと。」
新はそんなことを呟きながら、電車を待っていると、茶色がかった長髪の同い年くらいの女が声をかけてきた。
「あのー、すいません。ここの会社に面接を受けに来たんですけど、どの電車に乗ればいいのかわからなくって…」
なんだか瞳に雰囲気が似ている人だなと思っていると、その女は一枚の紙を見せてきた。
「ああ、この会社なら僕も今から面接受けに行くんですよ。一緒に行きましょうか。」
「ありがとうございます!本当に助かりました!あっ、私、五十嵐カナっていいます!面接、頑張りましょうね!」
「僕は太田新っていいます。お互い頑張りましょう。」
新はそういうとカナの額に傷があるのを見つけた。
「やっぱり、この傷目立ちますよね…」
「いっいや、そんなことは…」
「事故で負った傷なんです。あんまり気にしないでください!」
彼女はそう言うと傷を隠すように前髪を流した。
そこから、新とカナは会社に着いてからも面接を受けるまで会話をしつつお互い緊張を紛らわしていた。
先にカナの面接が終わり、しばらくして新も面接が終わった。
面接が終わりラーメンでも食べて帰ろうかと思っていると、先に面接が終わって帰ったはずのカナが会社の前で立っていた。
「あっ!太田さん!道を教えて頂いた代わりにご飯ごちそうさせてもらえませんか?」
「道を教えただけなのにご飯をごちそうになるなんて申し訳ないですよ。全然気にしなうてもいいですよ。」
「そんな!私本当に太田さんがいて助かったんです。太田さんがいなかったら面接を受けることすらできなかったんですよ?ぜひお礼させてください!」
「そこまで言うなら…」
新がカナの押しに負け、そう言うとカナは目を輝かせながら
「この近くに私のよくいく居酒屋があるんです。そこでもいいですか?」
「奢ってもらうのに文句は言えません。」
新がそう言うとカナは来た道と反対方向に歩き出した。
「この子についてって本当に大丈夫かなあ。」
新は不安になりながらもカナについていくことにした。
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そこは新が想像していた居酒屋よりもはるかに小汚い、サラリーマンのおっさんたちがよく行くような居酒屋だった。
「太田さん、どうですか?ここの雰囲気すっごく好きなんですよ。」
「昔ながらって感じでいいですよね。僕はこういう雰囲気好きですよ。」
「気に入ってもらえてうれしいです。」
そういうと、新とカナはお通しとビールに手を付ける。
カナとの会話は新にとってなんだか非常に懐かしく感じた。
「実はわたし太田さんと初めて会った気がしないんですよ。」
ふと、カナがそう口にした。
「僕もですよ。昔どこかで会いましたかね。」
新がそう言うとカナは少し俯いて、
「実は私、昔の記憶がないんです。」
新は驚いたがそのまま話を聞くことにした。
「実は私、五年前事故にあって事故より前の記憶がないんです。しかも、そのときに顔にひどい傷を負ってしまって、緊急手術をしたんです。それで顔も変わってしまって、さらに財布も携帯も何も持ってなくて自分が誰かもわからずに施設に入れられて、怖くて。だけど、所長さんが名前もない私に五十嵐カナっていう名前を付けてくれて。今に至るって感じですかね。」
「本当に何も覚えていないんですか?」
「実は少しだけ記憶は残っているんです。ずっと仲の良かった幼馴染がいたこと。そして、その名前が新と、智也。ってことくらいです。そういえば太田さんの下の名前も新さんですよね。もしかしたら私の幼馴染だったりして。」
カナは冗談ですという顔をするとビールに手を付けた。
「瞳…なのか…」
新は思わず口にした。
「もう!太田さんったら!冗談ですってば!本気にしないでくださいよ!」
カナはジョッキ片手に新を笑った。
しかし、新は確信した。カナは確実に瞳なんだ、と。言われてみれば顔の雰囲気も瞳そっくりだし、仮にカナの記憶が正しいとすれば幼馴染の名前も合致する。
新は決意した。かならずカナが瞳だと証明してみせると。そして、あの時伝えることができなかった恋心を記憶の戻った瞳に伝えるんだと。
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これは、たまたま知り合った女が五年ぶりに再会した記憶喪失の初恋の女の子かもしれない。という物語である。
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