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ダメな子ちゃん
「アハハ」
コーヒーカップを挟んで目の前の母と談笑しながら、頭の中では角田光代の『対岸の彼女』を一人で読みたい衝動に刈られていた。自分だけの本の世界に鍵をかけ、今目の前にいる人達、景色から遠く離れたい気分だった。
私はいつも一人だと落ち着く。いつもそうだった。
美容院はもちろん、家の中だってそうだ。朝方のまだ皆が眠っている、自分が電気をつけて明るくしたリビングが好きだし、皆が寝静まった後で電気スタンドの明かりだけがノートや紙を照らす、机の木目のやわらかな小さな世界が好きだ。ドストエフスキーの真似事では無く、気質が病的なのかしらと不安になるほどに。