17-4 幼馴染と即席パートナー
よろしくお願いします。
さてと、ひとまず自己紹介も終わったところで、次の行動に移ろうかな。
「えっと、エリュースさん」
「エルでいいわ」
「え?」
「エル。親しい友人からはそう呼ばれてるの。
先程助けて頂いたお礼に、そう呼ぶことを許してあげるわ」
「あ、はい。ありがとうございます」
胸を張ってそう告げるエリュースさん改めエルさん。
髪をかき上げるしぐさとかは、まさにお嬢様って感じだ。
ただ、このやりとり、どこかでした事がある気がするんだよな。
まあ、その内思い出すか。
「気を取り直して、エルさん。
僕はこれから25階に進むところなんですけど、良かったら一緒に……
あ、いや。もし他に用事が無ければゲートの所まで行くのを手伝っては頂けませんか?」
多分普通に一緒に行こうって言ったら断られそうだから、下手に出た表現にしてみたけど、どうかな。
そっとエルさんの表情を伺うと満更でもなさそうだ。良かった。
「ええ、よろしくってよ。仕方ないから付き合ってあげるわ」
「ははぁ。ありがとうございます。ではお嬢様。お手を」
「ええ」
そうして手を繋ぐ。
……って、そうだ。このやりとりって、小さいころに旅先の女の子とした遊びだ。
という事は。
「もしかして、えりゅたま?」
「っ!? ど、どど、どうしてその呼び名を??」
舌足らずな呼び名に真っ赤になる、エルさん。
「やっぱり。子供の頃、何度か遊んだの覚えてませんか?」
「え、も、もしかして、そーちゃん?」
「はい。懐かしいですね。
っと。ダンジョンの中でゆっくり邂逅を分かち合う場合ではないですね」
「……そうみたいね。全く無粋ですこと」
周りを見れば、ヘドロゴーレムがゆっくりと集まって来ていた。
僕は武器を構えようとするエルさんの手を引いて走り出す。
「さあ、エルさん。こいつらに構ってないで先に行きましょう」
「え?倒さなくてよろしいんですの?」
「ゴーレムは足が遅いですし、それに、不利な属性の魔物と無理に戦う必要はないと思いますよ」
「不利な属性って」
「雷撃。ヘドロゴーレムにはほとんど効かないですから」
「そんなことくらいは知っていますわ」
「ちなみに、エルさんって、雷撃系以外の攻撃魔法って使えますか?」
「しょ、初級なら」
言いながら目を反らすエルさん。
やっぱりそうだったか。
「うーん、初級だと使い方次第で何とかならなくもないですが、厳しいです。
それであの時、雷撃魔法を使ってたんですね」
そう、僕が駆けつける切っ掛けになった雷撃の光。
ほとんど効かないと分かっていても使わざるを得ないという事は、それだけピンチだって思ったんだよね。
「そんな訳で、特に拘りが無ければ、駆け抜けてしまいましょう」
「ええ。分かったわ。分かったから、もう少し、速度を、緩めませんこと!?」
「へ?」
後ろを見ると息も切れ切れのエルさんが居た。
おかしいな、大分ゆっくりめに走ってたんだけど。
「もしかして、エルさん。余り体力無い方ですか?」
「あ、あなたが、化け物並みに、体力があるだけですわ。
全く、昔からそうなんですから」
「すみません。
でも、そうすると、戦わずに走り抜けるのは厳しいかな」
下層に繋がるゲートの方にも何体かゴーレムの姿が見える。
あれを避けながらだと大回りになって面倒だし。
仕方ない。ここは倒しながら進むか。
「エルさん。僕が前衛でヘドロゴーレムを倒していくので、奴らが投げてくるヘドロに注意して付いてきてください」
「え、ええ。って、待ちなさい。
私はただ守られるだけのお姫様ではないのよ。
『サンダーエンチャント』」
エルさんが魔法を放つと僕の全身が光を纏う。
「さあ、これで全身の反応速度が数倍になっているはずよ。
それであんな木偶の坊、蹴散らしてしまいなさい」
「あはは、はい。じゃあ、僕が道を切り開くのでエルさんはそのまま真っすぐ下層に向ってください」
「ええ、では参りましょう」
さて、サンダーエンチャントか。
どれくらい変わるんだろう。
試しに正面に近づいてきたゴーレムに向けて駆け出してみ、いっ!?
10メートル近くあった距離が一瞬でゼロになった。
慌てて回り込むように動く。それも一瞬で相手の後ろ側に移動してしまった。
な、なるほど。これは慣れないと厳しいな。
ま、折角背中側に回り込んだし、このまま核を破壊させて貰うか。
「よっ」
バシッ!!
うわっ。ただの突きのはずなのに雷撃の矢が飛び出したよ。
これは攻撃の間合いも考慮しないといけなさそうだな。
まあ幸い、魔物は動きも遅くて殺傷性も低いヘドロゴーレムだ。
兎に角、今は実践しながら慣れるしかないな。
そうして僕は近づくゴーレムを倒しつつ、エルさんと共に25階層へと降りて行った。
ソージュは両親に連れられて世界中を行商の旅をしていたので、その途中で会っていたようです。
その辺りの話はサイドストーリーにて。
エルさんはお嬢様というかお姫様なんですけどね。




