11-5 精霊と空間転移
よろしくお願いします。
あれ、そういえばいつの間にかネガティブパートを通り過ぎて決戦パートに移行しているような……
僕達の前に現れた女の子。
肌も髪も若葉を連想させる瑞々しい緑色で、リンコの実のように赤い瞳はやさしい色を湛えている。
僕の契約している精霊ジル。
「こんにちは、ジル」
「こんにちはなの、マスター。
こうして直接会うのは契約を交わして以来かしら」
「そうだね。ごめんね、僕の魔力が足りないばかりに」
「ううん、謝らないでほしいの。
私はすべてを承知の上でマスターと契約したのよ」
そういって静かにお辞儀をしたジルは、振り返ってケイとミラを見た。
「こんにちは。マスターのご友人のケイとミラ。
私は『世界樹の杖』に宿る精霊ジルなの。
ふたりのことはマスターを通じて見ていたわ。
とても真っ直ぐで、でもちょっとお互いに依存し過ぎなところもあるみたいね。
まあ、今はそれが一番バランスが良さそうなので、私がとやかく言うべきではないの」
ジルに言われて、顔を見合わせるケイとミラは心当たりがあるのか、うっすら顔を赤くしていた。
僕から見ても2人はお互いに足りない部分を補い合ってる良い関係だと思う。
さて、時間もないし話を進めよう。
こう言っている間にもケイ達の魔力が消費されているはずだからね。
「ジル。今回2人の協力を得て君に出てきてもらった理由はわかっているよね」
「ええ、これまでの話も全部聞いていたの。
マスターの期待通り、空間転移は私でも出来るから安心してほしいの。
ただ圧倒的に魔力が足りないの」
「さすがに次元までは無理だけど」と言って肩をすくめる仕草をするが、表情は楽しげだ。
『早く成長してね』って事らしい。
ただケイ達にはそこまで伝わっていないので、魔力不足だと言われて若干不安そうだ。
「ソージュは先程、この大樹の力を借りると言っていたが可能なのか?」
「こちらの大樹にそれほどの魔力が備わっているのでしょうか」
「多分大丈夫なの。大地に根付いている分、内包する魔力は多いはず。
だから、ちょっとお願いしてみるの」
ジルはふわっと浮き上がるように移動して大樹に手を当てる。
「……」
チリンチリン♪
「ええ、そう。お願い出来る?」
チリンチリン♪
「分かったの。このお礼は後ほどマスターにしてもらうの」
僕達が見守る中、ジルと大樹の交渉は無事に纏まったみたいだ。
大樹から手を放してこちらに戻ってきた。
「おまたせなの、マスター。
彼女も以前色々あってそんなに余裕はないけど、1回くらいなら何とかなるらしいの」
大樹は見た目はどこも傷らしい傷は無いけど、25年前の大災厄の時に色々あったのだろう。
もしかしたら、見えない根の部分とかが治っていないのかもしれない。
「そっか。無理をさせるようで申し訳ないけど、よろしくお願いします」
チリン♪
僕もそっと大樹に手を当てて、お礼を言うと、小さな鈴の音で返事をしてくれた。
「じゃあ、ジル。
空間転移魔法の発動をお願い」
「分かったの。マスターは転移先にパスを繋ぐことに集中していて。
あ、その前に、その腕に付いている魔道具は外してほしいの」
そういえば両腕に負荷魔道具を付けっぱなしだった。
外してケイに預けておく。
「それじゃあ、今度こそ。
ケイ、ミラさん。行ってきます」
「ああ。気をつけてな」
「無事の帰還をお待ちしております」
僕はジルと両手を繋ぐ。
足元に魔法陣が形成されたのを確認して目を閉じる。
魔法陣を通して大樹から膨大な魔力が流れ、僕とジルを包んでいく。
すごい。これが世界樹の本来の魔力なのか。
っと、魔力に驚いている場合じゃないな。
僕が意識するのはパスが繋がったままのリーンさんの共鳴石だ。
どうか、リーンさんが無事でありますように。
祈るように意識を集中させていく。
「いくの」
ジルの短い一言の後。
一瞬の浮遊感と共に、僕は空間を跳んだ。
世界樹の杖の精霊ジルは8~10歳くらいの小さな女の子のイメージです。
出ては来ませんが、学園の世界樹の精霊は15歳前後のイメージ。樹齢60年足らずなので世界樹としてはまだまだ子供です。
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精霊の力を借りて空間転移を行ったソージュの見たものとは。
そしてリーンを救う事は出来るのか。
次回:Eランクの僕に出来ること




