10-A 図書館でのひととき
よろしくお願いします。
本日3話目。
今回は図書館の司書のフレイさんの視点です。
ジバンリン暦52年5月4日
Side フレイ
図書館。そこは知識と記憶の眠る場所。
蔵書数は100万冊とも言われているけど、実際にはどうかしら。
そしてここには幾つか秘密の仕掛けが存在する。
1つは世界各地に繋がる転移陣。
もう1つがここ。書斎 兼 休憩所 兼 避難所。
あの人が疲れたときによく来ていたっけ。
コンコンッ
ノックをしながら扉を抜ける。
「こんばんは」
「いらっしゃいませ。フレイ様。すぐお茶をお入れしますね」
「ええ。おねがい」
ライリと挨拶を交わして、私は執務机に座った。
引き出しから共鳴石を取り出して交信を行う。
「こんばんわ」
『あら。その声はフレイ様ですね。ご無沙汰しております』
共鳴石の向こうからは年老いた、しかし張りのある女性の声が聞こえてくる。
「今日、こちらにあなたのお孫さんが来たわ」
『まあ。フレイ様は今、学園にいらっしゃるのですよね。
ということは、グランのところのソージュ君ね。
どう?なかなかに面白い子でしょう』
「ええ。最初見たときは驚いたわ。
かなり強力な負荷魔法が掛かった状態で平気な顔をしているんですもの。
いくら彼の血を引いた子は高い能力を持っている場合が多いとは言え、あれは小さい時から相当厳しく鍛え上げたのね」
『みたいね。グランは「俺は他の誰も行きたがらない場所に行くんだ」って言って、Bランク冒険者でも立ち入らないような場所に行商に行っていたから。
それに付き合っていれば、子供ながらに相当な修羅場は見てるんじゃないかしら』
「なるほど。あ、もしかして奥さんともそうやって出会ったのかしら」
『そう聞いているわ』
「魔血族ね……まだ生き残りが居たとは驚きだわ。
とっくの昔に狩り尽くされてしまったんだと思ってた」
『ええ。今では魔血族を知る人もほとんど居ないから、狙われることもないって笑ってたわ』
「ほんと、肝が据わってるわね」
魔血族。
はるか昔、その種族は大地人を中心とした短命種の者たちに狙われ続けた。
曰く、その生血はあらゆる美酒を凌駕する。
曰く、その生血は万病を癒す万能薬である。
曰く、その生血は不老不死の霊薬である。
そして、その種族は身体能力は高いものの、魔法が使えないことでも有名だった。
故に、同じ様な効果があると云われる魔獣達よりも狩り易い獲物と見られ、高値で取引された。
そして結果として絶滅したと云われている。
きっと、今でもその噂が広がれば命を狙われるのだろう。
『それで、ソージュ君はその身体能力を活かして、学園で剣術Sランクにでもなってるのかしら』
「いいえ。残念ながら彼はEランク。剣術も魔術も最低ランクよ……って、変ね」
あの負荷魔法に耐えられるだけの身体能力があれば、棒きれを使っても、他の学生達を圧倒できるだけの活躍が出来るはずよね。
なぜEランクなのかしら。
その答えは共鳴石からではなく横から聞こえてきた。
「フレイ様。彼にはあのお方の眷属が契約を交わしているので、金属武器を持てないのだと思います」
「ライリ? あのお方ってあなたが呼ぶって事は……」
『なるほど。グランからあの子を受け継いだのね。
それなら剣が持てなくても仕方ないわ。あの子、金属嫌いだから』
そういえば今の学園の入試は金属の剣を使ってランクを決めるのよね。
剣より直接殴ったほうが強い、なんて人もいるんだけどね。
「あー。剣が持てないから問答無用で0点。剣しか評価しないって、ランク制度の欠点よね。
まあ幸い、彼はそんなの気にせず楽しくやってるみたいだけど。
あ、そうそう。楽しくといえば彼、今日は彼女と一緒だったのよ。なかなかやるわね」
『えっ、ちょっと何でそれを先に言わないのよ!
それで、どんな子だったの?かわいかった??』
「ふふーん、なんと1年先輩の『氷結の聖女』って呼ばれてる学園でもトップクラスの美少女よ」
ただ、あの子はあの子で問題を抱えているみたいなのよね。
ま、それくらい乗り越えてもらわないとね。
『わぁ、やるわね!!それでそれで、告白はどっちからしたのかしら』
「どうなのかしら。あの調子だと彼女からって気もするけどね」
『次会ったときに聞いておいてね。絶対よ』
そうしてその夜はガールズトークで盛り上がるのだった。
これからの展開の為に、小出しにしてた伏線も浮上させていきます。
キーヌが元気になってソージュに付いたのも、半分は魔血族の血の力です
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ソージュ達を取り巻く人達。
特にリーン様ファンクラブにとっては煮え湯を飲まされる毎日。
そして、会話の内容は日に日にエスカレートしていく。
次回:嫉妬と噂と
ここからダークサイドになります(なれるかな)




