8-3 フィールド実習を終えて
よろしくお願いします。
ダンジョンから外に出る。
時間にして1時間くらいしか中に居なかったから、時刻はまだ2講義目が始まったくらいだ。
今日はこのフィールド実習のみだから、この後どうしようかな。
まあまずは、帰還用魔道具を返してくるか。
「おう、またえらく早かったな。
どうだ。無事に魔物は倒せそうか。
取って来た魔石も預かるから出してみろ」
そう言って景気良く迎えてくれる受付所のおっちゃん。
なるほど。魔道具と一緒にここでダンジョン探索の成果を伝えるんだね。
「あ、いえ。魔物は倒してきませんでした。
なので魔石も取って来ていません」
「はぁ!?お前、ダンジョンに何しに行ったんだよ」
魔物を倒さなかったと言う僕に驚くおっちゃん。
あー、やっぱり普通は何体も倒してくるものなんだ。
「初日は様子見だって言われていたので、第1階層をぐるっと周って帰ってきました」
「は~~馬鹿なんだか余裕なんだか分からねえ奴だな。
確かに担当教官は初回は毎回そう言うがな。
それでもダンジョンの中をうろついていれば、魔物の方から来るだろう。
それはどうしたんだ?」
「あ、はい。1匹だけ、近づいてきましたね。
挨拶代わりに食べ物渡したら、お礼言ってどっか行っちゃいました」
「……すまん。言ってる意味が分からん。
そもそもダンジョンの魔物と意思の疎通が出来るなんて聞いたことがねえ」
そうだったんだ。
てっきり、調教スキルとかがあれば普通の魔物と同様に接することが出来るんだと思ってたよ。
じゃあ、今回のはかなりのレアケースだったんだね。
「ところで、今日は1日フィールド実習だと聞いていたんですけど。
もうダンジョンの1階は見るものも無さそうだったので、冒険者ギルドにクエストを受けに行っても良いのでしょうか」
「ああ、好きにすればいい。
実力があるなら、実習に参加せずに積極的に冒険者ギルドのクエストを達成してCランクになる方が、金は儲かるし実績は出来るしでいいこと尽くめだ」
「分かりました。ありがとうございます」
お礼を言って、受付所を後にした。
さて、講義が始まって以来だから久しぶりの冒険者ギルドだな。
冒険者ギルドは、朝も遅めなのもあって空いていた。
「こんにちは、ミューさん」
「あ、ソージュ様。お元気そうでなによりです」
「ミューさんも。今は何か急ぎの依頼とかはありますか?」
「そうですね。あっ、南西のトルテ村に向かう街道で、オーガが確認されています。
恐らく西の山から下りてきたのでしょう。
まだ被害は出ていないようですが、村に向かわれると危険ですので、討伐をお願いします、と言う依頼です。」
「分かりました。トルテ村までなら今日中に行って帰ってこれるので、ちょっと行って来ます」
「はい、よろしくお願いします。(……トルテ村って普通なら片道2日掛かるんですけどね)」
依頼書を受け取ってギルドを出てきた。
最後にミューさんが何か言ってたけど聞きそびれたな。まいっか。
街を出て街道を走ること2時間。
西の山の位置から考えて、この辺りから山に向けて走れば会える気がするけど、行き違いになったら面倒だな。
そう考えてたところで近くの草むらが揺れて何かが飛び出してきた。
「チチッ!」
角ウサギだ。石頭ウサギと違って額の石が尖っているので頭突きをされると痛い。
この子も温厚な感じだけど、今日はウサギと縁があるんだろうか。
「こんにちは。この辺りでオーガを見なかった?」
「チ?チチチッ!」
「あっち?分かった。ありがとう!」
ダメ元で声を掛けてみたら、通じたらしく、オーガが居るらしい方向を角で指し示してくれた。
やっぱり魔物とでも意思の疎通が出来る固体も居るよね。
僕はお礼を言いつつアイテム袋からブラッドベリーを1房プレゼントして教えてもらった方に走る。
っと、居た。
身長3メートル程の黒いオーガだ。
取り巻きも居ないし、はぐれかな。
「!? グガァァ!!」
殺意丸出しでこちらを見据えるオーガは、交渉の余地は無さそうだ。
仕方がないので、右腕の一撃を避けつつ、首筋に飛び蹴りを入れる。
ゴキッと骨の砕ける音がして、オーガは倒れた。
さて、他には居ないだろうか。
……よし、大丈夫そうだな。
なら今回はこれで報告を上げておこう。
街道まで戻ってくると既に角ウサギの姿は無かった。
きっと今頃ねぐらに戻ってるんだろうな。
後半、ウサギの恩返し的な内容を書こうと思ったらこうなりました。
ウサギの親分が出てきて~とかは流石にやりすぎかなと。
次回は別視点「クラスメイトの視線」「体術教師は見た」をお送りします。
わくわく展開は期待出来ませんが、物語の厚みを増やす為なのでお付き合いください。
(飛ばして頂いても支障はありません)
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1年7組のソージュを取り巻くクラスメイトから見た景色。
次回:クラスメイトの視線




