6-3 午後は身体を動かす時間
よろしくお願いします。
前の話とのギャップが酷い。
今日の午後からの講義は基礎体術と魔術だ。
全員が動きやすい服装に着替えてグラウンドに集まっている。
指導教師は入試の基礎体力試験の時にお世話になった人だ。
「いいか。基礎体術という名前の講義だが、最初の2ヶ月は体力づくりのみだと覚悟して欲しい。
文官志望の者、研究職の者も、体力と健康な肉体は切っても切り離せないものだ。
特に騎士や冒険者になろうとする者は、戦いの場において剣の技量以上に最後にものをいうのが体力だ。
決して侮ることなく励んで欲しい。
まず手始めに、このグラウンドを自分のペースで構わないので10周してもらう。
身体強化が出来るものは使ってもかまわない。
目標は10分で走りきれるようになることだ。
では各自、軽くストレッチしてから始めてくれ。
終わったものから次のメニューを伝えるから俺のところに来るように。
ああ、それとソージュ君はこっちに来てくれ」
「?はい」
教師の話を聞いて各々ストレッチに取り掛かる中、僕だけ呼ばれた。
何かあっただろうか。
「先生。何か問題でもありましたか」
「あ、いや。君の場合、ただ走っても訓練にならないだろう。
そう思ってな。魔道具研究課からこれを借りてきた」
そう言って渡されたのは黒い手甲だった。
真ん中に温泉マーク(?)と10という数字がついている。
「あの、これは?」
「簡単に言うと入試の時に持ってもらった錘の代わりだ。
見た目は普通の手甲に見えるが魔道具になっていてな。
装着者の行動に負荷を掛けることが出来る逸品だ。
これは初心者用の10kgの負荷が掛かるものだ。
付けて、そのマークの場所に少しで良いので魔力を流してみてくれ」
「はい」
試しに左腕に付けてみる。
流す魔力は僕のなけなしのものでも大丈夫だろうか。
ズズ……ン!
うっ!確かにこれはすごい負荷だ。
まるで巨大な岩を抱えたかのようなプレッシャーが全身に掛かる。
ただ、下を見ても地面はなんとも無いことから、僕自身にだけおきている現象なのだろう。
「どうだ。これで楽すぎるなら、更に数段階、負荷の強いものもあるから言ってくれ」
「いえ。これで、結構きついです」
「む、そうか。それくらいなら余裕かと思っていたがな。
まあいい。当分貸し出すので、この講義の間は常に着けておくように。
よし、じゃあグラウンド10周行って来い」
「はい、ありがとうございます」
先生にお礼を言って歩き出す。
っとと。慣れない内はバランスを崩しそうだ。
そうしてクラスメイトの人たちに続いてグラウンドを走り始める。
ただ、効果音で表すなら「ギギギギッ」とでも言えば伝わるかな。
自分の身体がアダマンタイト・ゴーレムにでもなってしまったかのようだ。
頑張っても、一番ゆっくりと走っていた生徒よりも遅い。
なるほど、確かにこれは良い訓練にはなりそうだ。ただ。
「うわぁEランクは走るのも遅いんだな」
「とろいすぎ、Eランク」
「邪魔だからもっと端を走っとけ、Eランク」
「だっさ」
他の生徒に抜かれる度に、野次が飛んでくる。
ま。実害は無いからどうって事は無いかな。
結局10周する頃には講義も終わりに近い時間だった。
続いて基礎魔術および応用魔術の講義の時間なんだけど。
ここで魔術の一切使えない種族の人はどうするか、というと、図書館で自習か体術の自習となる。
もしくは、他のクラスに混じって剣術の講義に参加できる。
当然剣術の講義に出るのも剣術Dランク以上の者になるが、試験の際、剣を持って的を攻撃できればDランクにはなる。
つまりこの時間、僕は自習しかやることがない。
仕方が無いから、僕はさっきの体術の講義の続きに当たる作業をする事にした。
何をするかというと、よく言えば開墾。具体的な行動で言えば穴掘りだ。
学園の農地予定区画に向かい、スコップで土を掘り返していく。
ありがたいのは木製のスコップがあって、魔力的に補強されているから金属のスコップと遜色が無いことだな。
これで金属のスコップしかなかったらお手上げだった。
そうして深さにして2m程の穴を掘り、続いて前後左右に掘り進めながら前の穴を埋めていく。
岩があったら殴って砕き、時々現れる地中の魔物に挨拶をしていけば、あっという間に講義の時間は過ぎていった。
この調子でいけば、何とか今月中には畑として使えるようになるだろう。
普通の生徒は穴掘りと言っても専用の穴掘り区画で行います。
=やわらかく掘り返されています。
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無事に午後の授業を終えたソージュ。
そして講義初日は終わっていく。
次回:1日目の終わり




