42-1 前哨戦
いつもありがとうございます。
そのまま戦いを始めようかとも思いましたが、
ソージュ視点に戻します。
僕達が町に着いた翌日の日暮れ前。
予想通り町の物見櫓からギリギリ見える位置に軍影が現れた。
僕達が見守る中、そこから数人が抜け出してこちらへと歩いてくる。
「俺は神聖バルス教国第3師団副団長のビリーマスだ。
教皇様の命により、この町を接収する。
大人しく我らの軍門に下れ。そうすればこれ以上の無益な殺生は起きぬであろう」
自信に満ちた男性の声が響く。
それを聞いて町長と僕達が門から町の外に出て彼らと相対する。
お互いの距離は10メートルと言ったところか。
「昨日、突然この町を襲撃していった賊も神聖バルス教国だと名乗っていた。
奴らはあなた方の仲間なのであろう。
あのような行いをする者達の言葉を信じることはできん」
「確かに本軍の一部の者が暴走したと報告を受けている。
だがあれは我々の本意ではない。我々の目的は破壊ではないからだ」
「あなた個人としてはそうなのかもしれん。
だが軍全体、国全体と考えた時、あのような暴徒が居ることは間違いなく、またあなた方ではそれを止められないということなのだろう。
あなた方の軍門に下るということは、その暴挙に対し抵抗できなくなるということだ。
我々はそれを受け入れることはできん」
「こちらには万の軍が居る。明日には血の雨が降ることになるぞ」
「そちらこそ、山の神が怒っていることに気付かぬか。このままでは万の雨を捧げて鎮めることになる」
お互いに一切さがる姿勢を見せない言葉の応酬。
ビリビリと緊張が走る。
「我々は明日、日の出と共に攻め上がることになるだろう。
もしその時、町がもぬけの殻だとしても、調査はしない予定だ」
逃げるなら追わないぞという、向こうからすれば最大限の譲歩なのだろう。
だけど、こちらも既に逃げないと決めている。だから。
「あなた方が今すぐ国へ帰るなら、山の神も心を静めるであろう」
引き下がるなら、昨日の件に目を瞑る。
それがこちらから出来る最大限の譲歩だ。
「残念だが手ぶらで帰ることは許されていない」
「そうか。ならば贖罪を持って帰ることになるな」
最後にもう一度殺気を飛ばしてくる将軍。
その視線が、町長から外れ僕らへと向けられた。
「その少年達は何者だ。なぜこの場に立ち会っている」
もっともだ。
この大切な場に子供が居るのは余りにも場違いとしか言いようが無い。
僕らとしては町長からお願いされたから護衛も兼ねてきたんだけど。
その疑問にも町長は胸を張って答えた。
「彼らは山の神の遣いであり、救命士だ。
彼らが来てくれたことこそ、山が我らを見捨てていない証拠」
この山の神っていうのは、土着信仰みたいなもので、町の人たちは自分達を癒してくれる温泉が湧き、火を噴く山の力強さを見て、神が宿っていると信じられているようだ。
僕らがその遣いだっていうのは出任せもいい所だけど。
「なら、その子らが万が一、俺達に負けることがあれば、大人しく降伏するのか?」
その言葉を受けて剣に手をかける将軍の部下達。
うーん、剣に触れたってことは、もう舌戦は終了ってことでいいよね。
リーンさんに視線を向けると、コクンと頷いて静かに魔法を発動させた。
リーンさんの足元から魔力が流れるのを横目に僕が将軍の問いかけに答える。
「後ろに控えているのは将軍の側近でしょうか。
もし彼らが剣を抜いてこちらまで来られるのであれば、相手をしますよ」
「何?どういうことだ」
僕の挑発に訝しげに後ろを振り返る将軍。
その視線の先には困惑の表情を浮かべる部下達がいた。
「な、なんだ。剣が抜けない」
「おいっ、足元を見ろ」
「冷たっ。足首まで凍ってやがる。いつの間に!?」
リーンさんの魔力で部分的に凍りつく将軍の部下達。
将軍はきっちりレジストしていたけど(気付いてないところを見ると防具のお陰?)、
どうやら部下達はそれほど魔力に精通している訳ではなかったみたいだ。
こっそりと放たれたそれに気付くことなく、あっさりと無力化されてしまった。
その情けない姿に将軍がため息をつく。
「ったく、お前達。子供と思って油断しすぎだ」
「なら次は将軍が来ますか?」
僕の誘いに首をふる将軍。
「……いや、止めておこう。俺ひとりなら戦ってみたいが、あいにく今は軍を背負ってるんでな」
「そうですか。これで戦いが終わってくれたら楽だったんですけど」
「全くだな。残念だ。
おら、お前達。さっさと戻るぞ」
踵を返した将軍を見て、リーンさんも魔法を解除すると、部下達は慌てて将軍を追って陣に戻っていった。
ちなみに、ビリーマスはブラッドさんより弱いので、ソージュと1:1で戦ったら高確率で負けます。
また教国の軍隊は第1師団が教皇直属部隊(近衛除く)、第2師団が国の正規軍(大人たち)、第3師団~が新米や非正規軍の集まりになっています。




