41-A その頃、人族の軍隊は
いつもありがとうございます。
今回は襲ってきた大地人(人間)側の視点です。
Side 人族連合軍野営地
「隊長。先行していた騎馬隊が戻ってきました」
「そうか。では向こうの状況を聞いてみるとしよう」
テントを出て広場に行くと、そこでは騎馬隊の面々が酒盛りをしていた。
「君達。今は作戦行動中だ。酒は控えたまえ」
「だはははっ。だぁいじょうぶですって、将軍~。
奴らなんてただの雑魚ですよぉ」
赤ら顔で答えたのは騎馬隊の隊長を務める、ピリキン公爵の嫡男。
今年で確か23歳だったか。
取り巻きたちと一緒に完全に出来上がっているようだ。
「そおそお。あいつらなんて、ちょっと人の言葉が話せるだけの、ただの獣じゃないですか。
俺達のこの魔法の杖でちょぉっと本気を出せば、一瞬で壊滅できますって」
「今朝だって挨拶代わりに数発プレゼントしてやったら、派手に吹き飛んでましたしね~」
「あのまま俺達だけで攻め込んでも十分勝てたかもしれないよな」
「弱い者いじめって感じだったわよね~」
「これなら、兵士連れてくるまでもなかったかもね」
その時の光景が面白かったのか、げらげらと笑う青年達。
ってちょっとまて。
「……お前達、まさか勧告もなく攻撃を仕掛けたのか」
「いえいえ。ちゃぁんと話はしましたよぉ。
いっても、獣の癖に俺達に服従する気はなかったんで、身の程ってやつを教えて来ましたがね」
「ちょっと魔法を町に撃ち込んできただけですよ」
「あいつらの血で汚れるのは嫌だったから接触とかはしてないですし~」
「くっ、なんてこった」
それではただの蛮族と同じではないか。
一応国際法というほど明確に定められている訳ではないが、国もしくは独立都市に対して戦を仕掛ける場合、その前日には宣戦布告をするのが通例となっている。
これは逃げる猶予を与えることで、お互いに無駄な損害を出さない為に行われている。
相手に防衛準備をさせる時間を与えてしまうじゃないか、という意見もあるが、そもそもそんな防衛に力を入れている都市であれば、軍隊が近づいているのを事前に把握しているものだ。
それにこれをするかしないかで、戦後処理の大変さに雲泥の差が出来る。
だというのに。
「……くそっ。だがやってしまったものは仕方が無い。
本隊は、明日の夕刻、改めて勧告を行い、明後日の朝に攻め込むことになるだろう。
君達には……君達にはそれに合わせて、明後日の昼ごろ、町の北側に回って挟撃をお願いしたい。
要望どおり一番手柄が取れる配置だ」
「つまり背後から無防備な奴らを殲滅しろってことですね」
「いや、無力化するだけだ。
町の施設の維持に彼らの力が必要だからな(これ以上被害を増やすな)」
「また生温いことを。あ~はいはい。極力努力はしてみますよ、努力は」
その明らかに努力すらする気が無い姿にため息がでる。
本来なら国へ叩き返してやりたい所だが、彼らの実家から彼らに戦果を上げさせるようにと依頼を受けている。
またこの軍の最高指令官は彼ということになっている。基本こちらに任せきりだが。
貴族様は面子とやらが大切らしい。
そんなもので大切な部下を死なせたくは無いものだ。
俺は引き続き酒盛りを続ける彼らを無視して主テントに戻った。
「隊長、此度の戦、どうされますか」
「どうするも、攻めること自体は上の意向だ。俺達がどうこう言ってもそれは変わらん。
それよりもだ副長。俺達は万が一を考えて行動すべきだ」
「……つまり、負ける可能性も考慮しろ、ということですね」
「ああ。どうも嫌な予感がする。もしかしたら奥の手があるのかもしれん」
「隊長の予感は良くあたりますからね。
分かりました。小隊長たちにはそれとなく通達しておきます」
「頼んだ。あ、貴族のボンボンたちには言うなよ。話が拗れるだけだ」
「分かってますって」
今回の部隊約1万の内、貴族とその取り巻きの部隊が9割を占める。
さっきの公爵の所からは騎馬を含め5000人が参加してきている。
元々傭兵部隊として活動していた俺達は700とちょっと。
傭兵としては最大規模を誇っていた俺達だが、昨今の景気の悪さ(平和ともいう)が元で資金繰りに行き詰った。
そんな折、神聖バルス教国とかいう、いかにも怪しい団体から声が掛かった。
金払いはいいから雇われてみたが、やる事といえば僻地の集落を襲うことがほとんどだ。
傭兵ってのは綺麗事だけでは生きていけないのは確かだが、罪の無い人々を一方的に襲うっていうのはな。
これまでは何とか村長に掛け合って上納金を出させて、上には無事に潰してきたと報告するようにしてきた。
上もいい加減なもので、その後の調査とかもしてないみたいだし何とかなった。
そして今回はガキ共のお守と言うわけだ。
まさか、許可無く攻撃をしかけるとは思わなかったが、これで交渉する余地はないだろう。
事前情報としては温厚な獣人が暮らす温泉宿が集まって町になったような所らしい。
だから碌な戦力が無いのは間違いないと思う。
だが何だ。
さっきからまるで世界樹の森のような絶対不可侵の土地に挑む時に似た警鐘が頭から離れない。
一体この先に何が待っているんだ。
世界観が若干分かりにくいかもですが、一応お貴族様を抱える国家も存在します。
そういうところに限って大地人が多いという状態です。
マリアッジ学園都市は、それ単体で独立しているため、どこの国家にも所属していません。




