37-2 特訓終了
よろしくお願いします。
ジバンリン暦52年9月14日
世界樹の地下の洞窟に送られてから10日近くが経過した。
私とジルが何をしているかというと、相変わらずひたすらに回避と防御だ。
変化があるとすれば、それは洞窟内が完全に闇に覆われていて、周囲から飛んでくる糸の早さや頻度が倍増したことかな。
ジル曰く、現在のこれがレベル6で、最大10まであるらしい。
さすがにそこまで良くと人間辞めてるレベルなんじゃないかな。
っと、団体のお出ましかしら。
前8、後ろ15、左右が20で本命は上からの163ね。
「って、多すぎ!!」
空間把握に引っかかった魔物の多さについつい声が出てしまう。
私のそんな抗議を無視して、前後左右の魔物たちから次々と糸が飛んでくる。
「本来なら最初に飛んできたので視線を誘導されたりするんでしょうけどね」
意図的に見える攻撃をしてから死角からの攻撃がセオリーなんだろうし、この状態でも見えているらしい魔物たちはそれを考慮して攻撃してきている節がある。
でもあいにく真っ暗闇だし前も後ろも関係ない。
ここ数日の特訓のお陰で空間把握も全方位に満遍なくできるようになった。
だから、相手の意図を逆手に取れば優位に立てる。
「それに、本来頭上は絶対の死角なんだろうけど、飛行スキルを自在に使えるならそれだって無効になるのよ!」
ばく宙から横回転ひねりを加えて、更に木の根を蹴って三角飛びの要領で直角に移動方向を変えつつ一気に急上昇する。
魔物たちが隠れるすぐ横を通り過ぎて天井に足を付けつつ、下を見れば(暗くて見えないけど)魔物たちが慌ててこっちを見上げようとしてる気配が伝わってくる。
さて、わざわざ見つかってあげる必要もないよね。
彼らの意識がこちらを捉える前に、天井を蹴ってジルが居るであろう場所に移動する。
「ジル、そっちは無事?」
「何とかね」
多少疲れは見えるけど、まだまだ行けるって感じかな。
「それにしてもあなた、レベル5を過ぎたあたりから随分動きが良くなったわね」
「ええ。実を言うと、色々と限界だったから、自分に付けていた拘束魔法を全部解除したの」
「あーなるほどね。マスターも大概だったけど、あなたもそれに感化されてやってたっけ」
「そういうこと。
それよりも、そろそろ一度地上に戻りたいのだけど、どうすればいいのかな」
「簡単よ。お母様に戻りたいって念話を送れば良いだけだから」
もうすぐ9月14日も終わる。
ケイ君たちから聞いていたのは15日だから明日だ。
この竜の山からこっち、濃すぎる日々を送ってきたせいで随分長かった気がするけど、これでようやくそーくんに会える。
今から戻れば一休みして日中に身支度する時間くらいはあるだろう。
「じゃあ、お母様に伝えるわよ」
「ええ、お願い」
応えたすぐ後に、来た時と同様にあっという間に地上へと戻ってきていた。
目を開けて辺りを見回せば、時刻は深夜。世界樹の泉を月明かりが静かに照らしている。
その幻想的な光景に目を奪われながら、ふと隣に立っているジルに質問を投げる。
「そういえば、私たちって今日はどこで寝ればいいのかしら。
世界樹の根元で夜営っていうのも素敵な気もしなくもないけど」
「また一気に現実に戻ってきたわね。こっちよ。離れがあるの。
外から来た人は大概そこに寝泊りすることになってるから、今回もそこでいいはず」
若干呆れられてしまったけど、明日に備えてしっかり休まないといけないしね。
景色を楽しむのはそーくんを助けてから一緒に見るほうがいいだろうし。
翌朝。
無事に離れで一泊できた私はジルの杖を持って神社へと向かった。
ジルは人の姿で居続けるのは若干エネルギーを使うらしく昨夜離れに案内すると同時に「あとよろしく~」って杖の中に閉じこもってしまった。
単にめんどくさがりなだけかもしれないけど。
神社につくとルゥさんが朝食の準備をしていた。
「おはようございます、ルゥさん」
「お帰りなさい。ずいぶん遅かったのね」
「遅かった?」
「ええ。てっきり昨夜のうちに次元を繋げると思ってたから。
どうやら、例の魔物を引き込む決意をしたのね」
「えっ?」
あれ、おかしい。話が若干ずれてる気がする。
私はもともと15日の夜を予定していたんだけど。
そう伝えると、ルゥさんはどこか納得したように頷いた。
「それ。きっと昨夜のことよ」
「え、でも今日が15日ですよね」
「そうよ。だから、15日の午前0時は過ぎたわよってこと」
「あっ」
15日の夜っててっきり23時とかそういう意味だと思ってたのに、実は0時の方だったみたい。
今はもう太陽が昇っているから手遅れだろう。
「……今夜だとまずいですか?」
「まずくは無いわ。ただ迎撃の準備と避難誘導はしておきましょう」
「すみません、よろしくお願いします」
「リーンさんは夜に向けて英気を養っていてください」
「はい」
そうして私はルゥさんの用意してくれた朝食を食べるために居間に向かった。
次回でようやくソージュが帰ってきます。きっと。




