36-1 ようこそ、世界樹の森へ
よろしくお願いします。
今年はなぜか5月なのにインフルが流行っているそうで。
わたしも昨日一昨日と体調を崩していたのはもしかして……
ジバンリン暦52年9月5日
竜の山から1週間ほどが経ち、私はようやく世界樹の森の外郭、別名エルフの森に来ていた。
本来、全力で飛び続けることが出来れば3日で辿り着けたはずなんだけど、飛行スキルで速度を上げると想像以上に魔力効率が悪かった為に、途中休み休み移動してたら結構かかってしまった。
「さてと。まずはハーフエルフの村を目指せば良いんだっけ」
そう呟きながら森の中へと踏み込む。
問題は上空から確認したら、この森はかなり広大だったから、上手く村が見つかれば良いんだけど。
獣道は……あ、あったあった。
これは狼とかの中型4足動物のものね。
まだ森に入ったばかりなのにこれだけ鮮明なのが見つかるのは、流石と言うべきかしら。
後は人の気配を探知出来ればいいのだけど……やっぱりだめかな。
まるで森全体に靄がかかっているように薄っすらと満遍なく魔力が満ちているせいで周囲の状況がまるで分からない。
更には方向感覚まで狂わされているような気がしてならない。
リン♪リン♪
少し不安を覚えた所で、そーくんが残していった精霊武器から鈴の音が届いた。
その音は心なしいつもより楽しそうに弾んで聞こえた。
そっか。この子は元々世界樹の枝から生み出されたものだってことだから、里帰りみたいなものなんだ。
それなら道筋も分かるかしら。
リン♪
精霊武器を取り出してみると、目に見えない小さな手に引かれたような手ごたえがあった。
うん、そっちね。
そうして引かれるままに森の中を歩き続けること2時間ほど。
……うん、おかしい。一向にハーフエルフ達の集落に辿り着かないんだけど。
レンさんの話だとこの森を少し入ったところに幾つか点在してるって事らしいんだけど、これもうかなり深く入り込んでるよね!?
あれ、もしかしてあなた、迷子になった訳じゃないでしょうね。
リリン♪リリン♪
疑いのまなざしを向けてみると、ちょっと慌てたような音を立てた。
うーん、慌ててはいるけど困ってはいない?
と、その時。ザワザワと周囲の草が風も無いのに音を立てて揺れ動いた。
まさか植物系の魔物!?
いつのまにかかなりの数に囲まれてる。
「くっ」
慌てて魔法を展開しようとする手を、慌てて止めた。
『世界樹の森で植物と敵対してはダメよ』
フレイ様もレンさんも口を揃えてそう言っていた。
ここで攻撃したら、森全体が敵になる危険があるらしい。
すると次にやってくるのは森の守護者達。学園ダンジョンで居た蜘蛛達をボス並みに強化した個体が何体も出てくるそうだ。そうなったら今の私では手も足も出ないだろう。
それじゃあ、この場合どうするのが正解かと言われると、逃げるのがお勧めらしい。
って、良く見たら木の上も何か居て完全に逃げ場は無くなっていた。
魔物たちの発する魔力は本物。1対1なら何とかなっても、この数相手に強行突破で逃げ切るのも厳しい。
万事休すか、と思ったところで周囲の植物が触腕を広げると、可愛らしい女の子の顔が出てきた。
『おどろいた?』
『おどろいた!!』
『成功かな??』
『大成功だよ♪』
リンリン♪
『『いえーい』』
きゃっきゃっと笑い出す植物型の魔物たち。
その姿からは少なくとも危険な感じはしない。
って。リンリン♪って、あなたもグルだったの?!
~~♪
ぐっ、鼻歌歌って逃げられた気がする。
はぁ。どうやら森の子供達にいたずらをされたみたいね。
よく言えば危険は無かったって事なんだけど、どうしてくれようかしら。
と考えた所で、子供達の頭にゲンコツ?が落ちてきた。
『こらっ、お客様にいたずらしないの』
『そうよ~。怒って燃やされても知らないんだからね』
いつの間にか子供達の後ろに一回り大きいお姉さん魔物が立っていた。
『ごめんなさいね。この森に外の人が来るのって滅多にないものだから』
『ほら、あなた達も謝りなさい』
『きゃーごめんなさ~い』
誤りながらピューっと森の奥へと走り去っていく子供達。
それをため息混じりに見送ったお姉さん達が改めてこちらを見た。
『はぁ、まったく仕方ないわね。っと、気を取り直して。ようこそ世界樹の森へ』
『我らが同胞が認めたあなたを、私たちは大切な客人として扱いましょう。どうぞこちらへ』
そう言って森の奥へと案内するお姉さん達。
うーん、今度こそ大丈夫なのよね?
世界樹の森とエルフの森は地続きになっている森ですが、その間には明確な境界があったりします。
エルフの森は誰でも自由に出入りできますが、世界樹の森に踏み込むには一定の条件があります。
リーンさんの場合、精霊武器を携行しているので1発OKですが。