39-2 狂乱するドラゴン
GW中最後の投稿です。
ひとしきり笑った後、サラバラさんはパッと立ち上がった。
うーん、やっぱりそれほどダメージにはなってなかったのか。
急所は外したとしても全力の一撃ではあったんだけどね。
そんなことを考えていたら、いつの間にかサラバラさんが私の事を上から下まで見回して何か納得するように頷いている。
……なに?
「リーンって言ったよな」
「え、ええ」
「お前、いい女だな」
「…………は?」
え、どういうこと?
どこか据わった目をしていて、冗談って感じでもないけど。
「人間ながらに強いし、見た目も俺好みだ。
だから、俺の女にならねえか?」
「えええぇ!?」
「いや、驚くほどの事じゃねえだろ。強いつがいを求めるのはむしろ当然の事だ。
言っとくけど、俺の実力はこんなもんじゃねえ。本気出せば圧倒できるんだからな。
それに俺の女になれば何不自由ない生活をさせてやるぞ」
うわぁ。まさか本当に求婚されてるのね。
確かにこの人の実力は疑う必要はないけど、それとこれとは別だ。
「申し訳ないですけど、私はもう心に決めた相手が居ますのでお断りします」
「……そいつは俺より強いのか?」
「うーん、流石にドラゴンに勝てる程では無いかもしれないですね」
「そうだろ。やっぱりおまえを守れる男は俺だ。
それにそいつは今どこに居る?自分の女をこんな危険な場所に送り出しておいて、安全な場所でのうのうとしているのか?」
「いえ、今は遠くに行っていて……」
「女の危機を救えもしねえ男に価値なんか無い。そうだろ!」
いや、そうだろって何勝手に盛り上がってるのかしら。
あ、あれ?もしかしなくても正気を失ってるんじゃない?
もうすでに私の話とか聞いてないみたいだし。
「よし、決めたぞ。お前の事は俺が守ってやる。そんな野郎の事は忘れてしまえ」
「いや、だからお断りしますと」
「っと、そうか。お前にはまだ本気を見せて無かったな。それじゃあ確かに頷きづらいよな。
よぉし、いいか。今すぐ俺の本気をその身で体感させてやる。そうすりゃそんな男の事なんて忘れるだろ。なっ!」
「ちょっ」
そう言ったサラバラの魔力が急激に膨れ上がっていく。
嘘でしょ。何なの一体。自己完結したと思ったら、今度は急に襲って来る気なの!?
「おら、いくぜ」
「くっ」
最初の戦いの時の比ではない猛スピードでの突撃を、氷の膜を作って滑らせることで直撃は回避できた。
でもその余波だけで吹き飛ばされてしまう。
「そらよ!」
「きゃああぁ」
ズシンッ
体勢が崩れた所にボディブローを受け、10メートル近く吹き飛ばされて大木に衝突した。
「うっ、ごほっ、がはっ」
たった1撃。それだけで満足に動くことも出来ない程のダメージを受けてしまった。
これが本気のドラゴンの力なのね。まさにけた違いだわ。
幸い意識がハッキリしている事だけは救いね。
そうして倒れて動けなくなった私の所にサラバラが近づいてきた。
「な。これで分かっただろ。
今日からお前は俺の女だ。これから帰ってたっぷり可愛がってやるからな」
サラバラは何を思ったのか私を担ぎ上げて山の方へと歩き出した。
って嘘っ、もしかしてこのままこいつに襲われるの!?
それだけは嫌。絶対に嫌。私の全てはそーくんのもの、なんだから。
そう思っても体は指先くらいしか言う事を聞いてくれない。
生半可な魔法じゃレジストされて終わりだわ。なら……!!
覚悟を決めたところで突然、上空から女の子の声が降って来た。
「あら。お母さまの匂いがしたと思って来てみれば、サラバラ。
あなたは一体何をしているのかしら」
その声には強い威厳と、少しの怒りが込められていた。
呼び止められたサラバラからも、動揺したような気配が伝わってくる。
これはチャンス、今の内、ね。
「こ、これは姫様。今日もお美しい」
「そんな事はどうでもいいわ。質問に答えなさい。
いつからあなたは人間を襲う蛮族になりはてたのかしら」
「い、いえ。これは違うのです」
『……ス』
「へぇ。何が違うのかしら」
「これはそう。決闘。決闘をしていたのです。勝者は敗者を自由に出来ると決めていたので、こうして勝利した私がこうしてこの女を手に入れた訳でして」
「ふぅん、そう。……ふふふっ。
ならあなたに一つだけ良い事を教えておいてあげましょう」
「あ、なんでしょう」
「女を甘く見ると痛い目を見るわよ」
「は?それは……」
『……ン』
ふたりが会話している間に紡いだ魔法が発動する。
それは私の持っている全魔力と、さっきまでの戦いで周囲にばら撒き続けていた冷気を瞬間的に自分の元へと集めることで、自分を中心とした半径3メートル内の全てのものを氷結させていく呪い。
これには私自身もだけど、私を担いでいるサラバラの体も例外なく凍っていく。
いつかそーくんなら、凍った私を見つけて、この呪いを解いて起こしてくれるかな。
少しずつ感覚の無くなっていく体を見送りながらそんな事を考えてみる。
「なっ、嘘だろ。これじゃあ、自殺じゃねえか」
「そうね。彼女はあなたに襲われるくらいなら、あなたを巻き添えに凍り付いた方がマシだって判断したみたいね。
どうするの?私の見立てでは、あなた。人の姿のままではその呪いからは逃げられないわよ。
それとも、人としての敗北を認めて、ドラゴンの姿になって離脱するのかしら」
遠のく意識の向こう側で、息をのむ音が聞こえた気がする。
「はぁぁ。分かったよ。俺の負けだ」
「そう、良かったわね。これで敗北を認めないようなら、私の手であなたを葬り去る所だったわ。
さてと。なら呪いは解除してしまいましょう。えいっ」
そんな軽い掛け声と共に私の発動した氷結の呪いは解除され、今度こそ私の意識は闇の中へと落ちて行くのだった。
時代が時代なら、こういう求婚もあったのかもしれないですが、個人的には無しの方向です。
リーンさんの決断がちょっっと早すぎる気もしますが、即断即決、生死を分けるのは一瞬の決断です。




