38-2 赤い町
引き続き不定期投稿の日々が続いておりますm(_ _)m
鬼の町から西に向かって歩いて見えてきた町。
当時は……あ、そっか。バンパイア騒ぎがあって町中には入らなかったんだった。
あの後ってどうなってたんだろう。
この辺りの噂って全然流れてこないんだよね。
あれ、なんで今まで来てなかったんだろう。
お兄ちゃんの痕跡を探そうと思ったら真っ先に来ても良いはずなのに。
その疑問も中に入れば分かるかな?
そう思って街門のところにやってきた。
そこにあった扉は半分外れていて、その代わり簾のように草が町の中と外を隔てていた。
……廃墟?喧騒も聞こえないし、人の気配もない。
町の中に踏み込めば、雑草が伸び放題の大通りが広がっていた。
建物は崩れているものもあるけど、石造りの建物は朽ちてはいないところを見ると、廃墟になってから10年くらいかな。
家の中をのぞくと、埃が積もっているけれど、特に荒れた様子はない。
ということは、特に争いが起きたとか、魔物に襲われたって訳じゃないのかな。
「あら。ニンゲンが来るなんて珍しいわね」
「え、だれ?」
突然背後からハスキーな声が聞こえてきた。
でも振り返ってもだれも居なかった。
「上よ、上」
視線を上げれば、そこには羽で飛ぶ小さな人が居た。
よく見れば、そのひとり以外にも少し離れたところに幾つも小さな影が飛んでいるのが見える。
あ、これ妖精族だ。
じゃあ、ここは妖精族の町になっているのかしら。
彼らは自分のテリトリーを凄く大事にする種族だって話だから、無断で入ってきた侵入者だって思われているかも。
「こんにちは。私はリーンです。
もしかして皆さんの土地に土足で踏み込んでしまったかしら」
そう挨拶をすると、その人は羽をパタパタさせてびっくりしていた。
「あら、あらあら。そう。あなたがリーンさんなのね。
みんな~~、噂のリーンさんが来たわよ~~~」
「えーなになにー」
「あ、ニンゲンさんだー。こんにちはー」
「へぇーあなたがリーンさんなんだー。いらっしゃーい」
あれ?なぜか歓迎されてる?
「あの、私のことを知ってるの?」
「名前だけね。
私たちが14、5年くらい前にここに移り住んできた時、呼んでくれた人が言ってたの。
いつかリーンって女性が来たら歓迎してあげて欲しいって」
それって、あの時通り過ぎた半年後くらいってことかな。
時期的に考えれば、私たち家族が安住出来るようになって、お兄ちゃんが元の次元に帰る為に出て行った後くらいかしら。
お兄ちゃんは南に向かって旅立って行ったはずなんだけど、こっちに寄って行ったってこと?
「あの、その呼んでくれた人って、もしかしてソージュって名前の男の子?」
「そうよ。ソージュ様のことを知ってるってことはやっぱり、噂通りのリーンさんってことね。
さあ、こっちに来て。見せたいものがあるの」
言いながらふわふわっと飛んで町の中心部に向けて飛んでいくので、それに付いて歩いていく。
途中、何人もの妖精族の人たちが私を見つけると挨拶をして飛んでいく。
その誰もが好意的で、妖精族が排他的だって噂は嘘だったんだろうか。
「ねぇ、これだけみんな好意的なら他の人たちも居てもおかしくなさそうだけど」
「あぁ、それはこの町には認識阻害の結界が張ってあるから。普通の人や魔物はここに近づこうとしないし、来てもすぐに出て行って忘れるようになってるのよ。さぁ、着いたわ」
なるほど。それで今まで来ることが無かったのね。
そして視線を下すと、辺り一面に広がる真っ赤な花畑が広がっていた。
「綺麗。でもこの花って……」
「ええ。ライフフラワーよ。ニンゲンは『血涙草』って呼ぶんだっけ」
『血涙草』
血のように真っ赤な花を咲かせるから、という意味もあるけれど、それとは別に大規模な戦場跡で群生することが多いことから墓標草とも呼ばれる草で、その花が鮮やかであればあるほど、多くの血を吸っているんじゃないかと言われている。
それがここまで鮮やかに咲き誇っているということは、ここにはどれほどの人が眠っているんだろうか。
「お察しの通り、ここには以前ここに住んでいた人たちが眠っているわ」
「一体何があったの?」
「そうね。15年前、この町がバンパイアに侵略されていたのは知っているかしら」
その言葉にうなずく。
あの時、私たちが通りかかった時にもグールやレッサーバンパイアの冒険者が何人も居たくらいだ。
もうほとんど壊滅状態だったとお兄ちゃんも判断していた。
「この町に訪れたソージュ様は、ひとりでこの町に巣くうバンパイアとその眷属を人知れず掃討していったそうです。
ただその時には既に手遅れで、グール化していない人達も死病に罹っていて救う手立てが無かったそうです。
結果、全ての方を苦しまないように眠らせ、その亡骸は全てここに埋めていったそうです。
そして鎮魂の為にライフフラワーを植え、私たちを呼んでこの地の浄化を依頼していったんです」
「なぜ、そーくん。彼は、この町に来たのかしら。本来なら、こっちに来る必要は無かったはずなんだけど」
「『いつかここに、りーんちゃんが訪れるかもしれないから。その時に危険だったらまずいからね』。
そう言ってたわ。だから私たちは、あなたがここを訪れるのを心待ちにしていたのよ」
そう、だったんだ。
確かに家を出た頃の私がここに来ていたら、そしてバンパイアが一大帝国を築き上げていたら、私は今生きていなかったかもしれない。
私って、こんなところでもそーくんに守られていたんだね。
あと3話くらいでソージュ視点に戻る予定です。
こんな感じで、りーんさんと別れてからもソージュは色々とやってます。




