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Eランクの僕とSランクの彼女  作者: たてみん
第3章:だから僕と彼女はここにいる
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37-4 ソージュの痕跡

まだまだ不定期な日々が続きます。

よろしくお願いします。

「は~、つまりあんた。居なくなった男の痕跡を探しに旅をしてるってのかい?」

「ちょっと意味合いが違うけど概ねそんな感じ、ですね」


シェンナさんの家でお茶を頂きつつ、ここに至った経緯を説明したら、呆れたような感心したようなため息をつかれてしまった。


「……あの、そんなにおかしいですか?」

「ああ、気を悪くしたなら謝るよ。

あんたにとってその男は後を追う価値があるほど良い男ってことなんだろ」

「ええ、間違いなく」

「はっはっは。そうかい、そうかい。なら気が済むまで追いかければいいさ」


断言する私を見て笑うシェンナさん。

その姿は鬼族らしい豪放磊落を絵に描いたようで、話しているだけで不思議と身体から活力が湧いてくる気がする。


「しかし、ソージュって言ったかい?

残念だけどここ数年、人族の少年がここを訪れたって話は聞かないねぇ」

「あ、そーくん……彼がここに来たとしたら15年ほど前ですから」

「そんなに前なのかい?それじゃあ、痕跡なんて見つけてもほとんど意味無いんじゃないのかね」

「いえ、探しているのは、当時と今を繋ぐものなんです。

より多くそういうのがある方が戻って来やすいって聞いたことがあるんです」


以前、私が学園に通う前。

お兄ちゃんに繋がるものを見つけようと色々と調べていた時に聞いた話なんだけど、転移魔法は転移先が明確であるほど転移しやすいって聞いたことがある。

まぁ、そもそも転移魔法の使い方はさっぱり分からなかったんだけど。

とにかく、もしそーくんが今、15年前のここに転移しているのだとしたら、その時のものを見つけることでこっちから手を伸ばすことが出来る、かもしれない。


「それで、何か心当たりはありませんか?」

「15年前か。当時から残っているもの、ね。

この町が他から『鬼門の町』なんて呼ばれているのは知ってるかい?

まったく縁起でもないって話なんだけどさ。

その名前の由来になったのが町の北にあった次元の亀裂、それを封じ込めた祠さ。

それを作ったのが、当時巫女見習いだったあたいを含めた数人の巫女と、そのソージュって言う少年だ」

「『あった』?」

「ああ。消えちまったのさ。2週間くらい前にね。

原因は不明。その時、守をしてた巫女も特に異変はなかったって言うから、ほんと忽然と消えちまったらしい。

今はもう、空っぽの祠だけが残っている状態だよ」


2週間前っていうと、例の魔物の襲撃があった頃よね。

何か関連性があったりするのかしら。後でフレイ様に報告を上げておいたほうが良さそうね。


「でも、それじゃあもう、彼に関わりのある物って残ってないかしら」

「あいつに関わりのある"者"って言ったら俺だろ」


私の言葉に答えながら、マルスさんが帰ってきた。


「あら、おかえり」

「おう。大猪の良いところを融通してもらったから客人に振舞ってやろうや」

「へぇ。あんたにしては気が利くじゃないかい。

分かったよ。ならあたいは料理してくるから、話し相手は任せたよ」


そう言ってシェルマさんは台所へ行き、代わりにマルスさんが椅子に座った。

そしてマルスさんは何かを懐かしむように手の甲を擦りながら話し始めた。


「しかし、ソージュか。てっきり14年前に死んだとばかり思っていたんだがな」

「死んだ!?それも14年前ってどういうことですか!!」

「おっと、落ち着けって」


突然の話に驚いて、椅子から立ち上がって詰め寄ってしまった。


「安心しろ。別に死んだ所を見たとかそういう話じゃない。

えっと、何から話せば……あ。あんたなら知ってるはずだな。

15年前、俺がソージュに俺の火を預けたのを」

「火を預ける?」


どういうことかしら。

確かにあの別れ際、預けるような物言いをしていたような気がするけど。


「俺の二つ名『不知火』ってのはな、俺が火に特化した赤鬼なのに自分の火を持っていないことに由来するんだ。

なにせあの時ソージュに預けたんだからな。確かあの時、あいつは右腕で受け取ったはずだ」

「あ、そういえば、右手首に火傷みたいな跡がずっと残ってたっけ」

「あれはな、俺に宿っていた火の精霊なんだ。

俺と火の精霊は魂で繋がっているからな。どんなに離れていてもどこに居るかは分かる。

だからそれを頼りに大人になったら再戦を申し込みに行こうと思ってたんだけどな」

「それが、14年前に消えたってことですか?」

「そうだ。通常ならあいつが死んだ時点で俺の元に戻ってくるはずなんだが、そうならずに突然消えたからな。

だから存在そのものが消滅するようなものに巻き込まれて、この世からいなくなったと考えた訳だ」

「なるほど」


お兄ちゃんはずっと元の世界に戻る方法を探していた。

だから、14年前に居なくなったというのは、1年で次元を渡る方法を見つけて、元の世界に戻ろうとしたんじゃないかな。

そう考えれば色々と辻褄が合う。でも、お兄ちゃん、そーくんの性格なら借りたものは返していきそうなものだけど。

って、そうか。


「そういえば、あの火傷がそんな火の精霊なんだって気付いてなかったのかも。

だって、魔力を感じる火傷跡、くらいにしか思ってなかったみたいだし」

「はぁ!?俺は確かに『預けた』って言ったはずだよな」

「それきっと『勝負は預けた』って捉えてましたよ。精霊云々の説明って、あの時はされなかったから」

「ん?あー、言われてみればそうか」

「はい。だから今もきっと気付かずに手首につけたまま、どこかの次元を彷徨ってるんだと思います」

「そうか。なら、戻ってくる可能性はあるって事だな。

へへっ、ならその時までにもっと鍛えておかないとな」


そう言って嬉しそうに笑うマルスさん。

そこからシェルマさんが調理してきた大猪のレバーステーキを中心とした夕食になり、1晩泊まらせてもらってから、私は次の目的地へと向かうことにした。



新たな種を仕込みつつ、種明かしをしつつ。

リーンさんが15年前の足跡を辿るのも、それなりに意味のあるものなんです。きっと。


次回はちょっと閑話を挟む予定です。

誰かというと、置き去りにされたエルさんです。

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