37-3 鬼の村へ
ご無沙汰しております。
うーむ、土日だからと言って時間があるとは限りませんね。
鬼の後をついて移動すること、約1時間。
森を抜けると遠くに村……いや規模でいえば町ね、が見えてきた。
「あれが俺達の町だ。
迷惑かけちまったからな。俺の客人って事で歓迎させてくれ」
「ええ。ありがとう。
そういえばまだ名乗って無かったわ。
私はリーン。リーン・バルディスよ」
「リーン?ん~前にどこかで聞いた気もするが。まぁいいか。
俺はマルスだ村では不知火のマルスで通ってる」
マルスって確かあの時の少年かしら。
それなら、そーくんの事も覚えているだろうか。
「あの、マルスさん。お聞きしたい事があるんですけど」
「おう、なんだ改まって」
「15年前。まだ町が小さな集落くらいの頃に訪れた冒険者の一行を覚えていますか?」
「15年前っつうと、彼らだな。
ああ。よく覚えてるよ。彼らが居てくれたお陰で今、俺達は平和に暮らせてるんだからな。
……ん?ってか、なんでその事をしってるんだ?」
「それはもちろん、私もその場に居たからよ。
その冒険者の中に女の子がひとり居たのを覚えてないかしら。
あれが当時の私よ」
「……あぁ、いたな、そう言えば。
別れ際に思いっきり睨まれたっけ。
そうか、あのちっこいのがこんなにでかくなったのか。
っと、着いたぜ」
あ、話をしてる間に町の門のところまで来てたのね。
門のところには黄色い肌の鬼と緑色の肌の鬼の人が立っていてこちらに手を振っている。
「おかえりなさい。マルスの旦那。ガンジ達は先に戻ってきてますよ」
「あいつらが持っていたのより更に一回りデカイ獲物ですね」
「おう。といっても、この獲物をやったのは俺じゃねえがな」
そう言って視線を私に向けるマルスさん。
それを見て門番の2人も私に視線を向けた。
ちなみに鬼族は全般的に背が高い。マルスさんを含め3人とも身長は2メートルくらいあるから、基本的に見下ろされる形になるんだけど。
あれ?門番さんが恐ろしいものを見たような顔になったんだけど。私の顔って別に怖くはない、よね。
鬼族特有の何かがあったりするのかな。
「お、おい」
「ああ。まさか、マルスさんの愛人でs、グハッ」
言い終えるまえにマルスさんの拳で吹き飛ぶ緑鬼さん。
「馬鹿野郎。恐ろしい事いってんじゃねぇ。間違いでもあいつの耳に入ったら殺されるだろうが」
「あ、あはは。ですよねー。あっ、おれは何も言ってないんで!!」
「ったく。いいか。この人はな、この町を救った英雄のご友人だ」
「え?」
あれ、なんか凄い紹介をされちゃったんですけど……マルスさん?
さっきは普通にマルスさんの客人って話だったよね。
「それじゃあ、その子があの伝統競技スモウを伝承していった方なんですか!?
いやぁ、まさかそんな凄い人だとは露知らず。あの、サインを、あいや、記念の一発を頂いても良いですか!!」
「おいこら。それを言ったら俺だってあいつのライバルなんだぞ。
今まで俺にはそんな態度取ったことなかったじゃねえか」
「それはまぁ、旦那ですし?」
「よし分かった。彼女の代わりに俺が1発入れてやるよ」
そう言って腕を振り上げてジリジリと迫っていくマルスさん。
そのマルスさんの頭にゲンコツが落ちてきた。
うわっ、ゴンって凄い音がしたんだけど。
「まったく、馬鹿やってお客様を待たせてんじゃないよ」
「って~~。って、かあちゃん」
「そっちのあんたも済まなかったね。ひとまずうちにおいで。
何も無い家だけど、茶ぐらいは出すよ」
「ありがとう」
「あたいはシェンナって言うんだ。今はこいつを旦那にしてやってるのさ。
ほら、あんたはさっさとその肉を置いてきな」
そう言って豪快に歩く女性。
あ、そういえば、前に来た時も男より女の方がしっかりしていたっけ。
そんな事を考えながらシェンナさんの家へと招かれるのだった。
いつの世も女は強く、母親はもっと強いんです。