36-1 一方、元の世界では
すみません。思いっきり間が空いてしまいましたorz
そして今月はまだまだ安定投稿出来なさそうです。
今回からは現代に戻ってリーンさん視点です。
ジバンリン歴52年7月10日
Side リーン
光の柱が立ち上る。
あれは恐らく転移系の光。
距離と方角から考えてこの階層の最奥部と見て間違いない。
ということは、あれはそーくんが管理室へ入った光だろうか。
その証拠に、さっきまで邪魔臭いくらいいっぱいいた蜘蛛たちが姿を消したし、ケイ君たちの戦闘音も聞こえなくなった。
「あれ?でも……そー、くん?」
おかしいな。
管理室はこの階にあるって話だよね。
それなのに、そーくんの気配が全く感じられなくなってしまった。
これじゃあまるで、この階層どころかダンジョンからも居なくなっているんじゃないかしら。
と、その時。フェンリルの相手をしていたケイ君たちが駆け寄って来た。
「リーン先輩」
「良かった。リーン様はご無事だったようですね」
「ええ。ケイ君とミラちゃんも。
その様子だと無事にフェンリルを撃退出来たみたいだね」
「いえ。先ほどのあの光の柱。あれが見えた所でフェンリルは霞のように消えてしまいました」
「そっか。こっちもさっきまで大量にいた蜘蛛の魔物が居なくなったわ。
それに、周囲の魔素密度が極端に下がっている気がするの。
もしかしたら、そのせいでダンジョン固有の魔物たちが存在出来なくなったのかもしれないわ」
この世界は空気や水や大地、あらゆるものに魔素と呼ばれる魔力の素となるものが含まれている。
ダンジョンは特に魔素のたまり場であり、その魔素を元に魔物も創られていると言われている。
逆に言えば、魔素が無ければ魔物は存在出来なんだ。
じゃあ、さっきまで溢れる程大量にいた魔物を生み出せるくらい魔素が充満していたのに、それが枯渇した原因は、って、考えるまでもないわね。
「兎に角、さっきの光の柱が見えた場所に行ってみましょう」
「はい」
逸る気持ちを抑えて森の奥へと走る。
途中一切の魔物を見かけないのは異常としか言いようがない。
そもそも私達は暴走しそうなこのダンジョンを止める為に来たんじゃなかっただろうか。
そう思ったところで、私達の前には巨大な1本の木が現れた。
「これが、恐らくは世界樹のレプリカね」
「ふむ。大きいとは聞いていたがこれ程とはな。本物はもっと大きいのだろう」
「ですが、今は眠っているのか、一切の生命力を感じませんね」
そう。流石に枯れたりはしていないけど、大きく広がった根も枝も、ただそこに在るだけでまるで血の通ってないマネキンや造花のようだ。
「もっと近付いてみましょう」
「ああ。幹の所まで行けばなにかあるかも知れないしな」
「管理室についても気になりますし」
「うん。って、あそこ!!」
世界樹の根元、そこに一点だけ強力な魔力を宿したものがあるのが見えたので私は急いで駆け寄った。
そこにあったのは、世界樹の根に刺さる木の棒。いや、そーくんが使ってた精霊武器だ。
名前は確か……『ジル』?
(リン♪)
私の問いかけに、小さな鈴の音が帰ってきた。
やっぱり。でも、ならどうしてここにあるんだろう?
精霊武器って、どんなに遠く離れても、契約を交わした相手の所に飛んで戻っていくって聞いた事があるんだけど。
こうしつ少し力を入れただけで簡単に抜けたってことは、動けなかった訳ではないはず。
「ねぇ、そーくんはどこに居るの?」
(……)
と聞いても今度は返事は返ってこなかった。
この様子だと精霊もそーくんを見失っているんだね。
「なら一緒にそーくんを探しに行こうか」
(リンリン♪)
さっきよりも心なし元気な音が返ってきた。
よし、そうと決まれば手掛かりになるものを探さないとね!
そう思ったところで、ここには居ないはずの人から呼ばれた。
「リーンさん」
「え、あ。フレイ様」
普段、学園の図書館から出ないフレイ様が、いつの間にか私達のすぐそばに立っていた。
その視線が私の持っている杖に止まる。
「……そう。やっぱりさっきのは、ソージュ君が転移させられた事による魔力振動だったのね」
「あの、フレイ様。そーくんがどうなったのか御存知なのですか?」
「残念ながら、詳しくは分からないわ。ちょっとその杖を貸して貰えるかしら」
「はい」
フレイ様は私からジルの杖を受け取ると、そっと目を閉じた。
きっと杖の精霊と話をしているのね。
3分ほど経ったところで目を開けて、杖を私に返してくれた。
「ひとまず当時の状況は分かったわ。
どうやらここの防衛システムが暴走して、ソージュ君を次元の彼方へ転移させようとしたみたい。本来はダンジョンの外に飛ばすだけなんだけどね。
それを防ごうと、その杖の精霊が頑張って、何とか安定した次元に行けるように調整したみたいね」
「安定した次元にって。それじゃあ、そーくんは今、この世界には居ないって事ですか!?」
「そうなるわね。残念ながら、それがどこかは私には分からないわ」
あの人なら探しに行けるんでしょうけどね。
そう呟くフレイ様。
でも私には一つだけ、そーくんの行き先に心当たりがある。
もしあれがこれなのであれば、そーくんは帰ってくるはずだ。
正確には帰ったところは知らないけど、少なくとも帰ってくる手段はあるって言ってた。
ならきっと、待っていれば戻ってくるのかもしれない。
でも、それじゃあダメだよね。
リーンさんは待ってるだけのお姫様ではないので、積極的に行動を取っていきます。




