35-1 廃村
よろしくお願いします。
すみません、バンパイアルートに入った為、ちょっと暗い話が続きます。
りーんちゃんのご両親に合流したら復帰しますので、少々お待ちください。
真夜中の森を僕はりーんちゃんを抱えたまま、西へ西へと走り続ける。
途中、魔物や獣の姿も多く見かけるが、全て無視。今は速度重視だ。
「お兄ちゃん、私も走れるよ」
「うん、でもちょっとね。次の村まで出来るだけ早く行きたいから、このまま行ける所まで行こう」
「何か急ぐ理由があるの?さっきの人たちが原因?」
「そうだね。僕の思いすごしだと良いんだけど」
最初、あの冒険者達に会ったとき、彼らは東へと馬車を走らせていた。
それはもちろん、先ほどの町から出てきたからっていうのもあるだろう。
なら、その前は?
バンパイアは魔物に分類されるから、突然あの町に現れた、という可能性もゼロでは無いけれど、考えにくい。
であれば、先に近くの村で力を蓄えた上で、町にやって来たのではないだろうか。
その場合の村は、少なくとも町の東側ではないだろう。
なら単純に考えて街道の繋がっている西ということになる。
(北は確認していないけど、南側はただの荒地だった)
そして極めつけは、りーんちゃんのご両親の居る方向を指し示すコンパスは西よりやや北を示している。
このコンパスの性能がどこまでかは分からないから、生きていることだけは確かなんだけど、五体満足かどうかであったり、バンパイア化していても分からない可能性がある。
それに、もう1つ心配事がある。
そっちが当たってしまっても、ご両親の危機に変わりない。
だから急がないと。
そうして、まる一日走り続けた明け方、小さな村を見つけた。
「りーんちゃん、ちょっと寄ってみようか」
「うん。あれ、でも……」
りーんちゃんが村の様子を見て何かを考えている。
いや、うん。大体予想は付くんだけどね。
「お兄ちゃん。人の姿が見当たらないよ。誰も居ないのかな」
「うん、そうだね。この時間なら朝の支度をしている人や畑に出ている人も居るはずだよね。
家の煙突から煙も出ていないし、家畜の姿も無い。
道の雑草の伸び具合を見るに1ヶ月くらいは放置されているんじゃないかな」
夏場のこの季節。放置しておけば伸びる雑草は1メートルに達するものもある。
それが道を大きく侵食している事から、人の往来も無かったことを示している。
「何かが潜んでいる可能性はあるから、警戒は緩めないでね」
「はい。あ、お兄ちゃん。あそこの家、火事があったのかな。あれ、あっちも!?」
りーんちゃんが指差した先には全焼して崩れた建物跡があった。
それも1つ2つではなく、見える範囲で6軒もある。
どれもパッと見、燃えてからの時間に大きな違いは無さそうだ。
「多分、何か理由があって燃やしたんだろうね」
「何かって?」
「そうだね。例えばその家の住人がグールになってしまったとかだね。
グールに感染するには爪や牙で傷付けられないといけないんだけど、村人だとそういうの分からないだろうし。
きっと家ごと病魔を焼き尽くそうとしたんだろうね」
「じゃあ、この村もバンパイアに襲われていたって事?」
「その可能性が高いね」
問題は残りの住人はどうしたんだってことだ。
バンパイアにとってグールは下僕もしくは、血を吸いすぎて誤って死なせてグール化させてしまったものだろう。
少なくともその血は食料にはなりえない。
だから問題が明るみにならないように注意しつつ、人間のままで魅了して確保しておく必要がある。
東の町の状況から察するに、バンパイアは今あっちに居る可能性が高い。
この村で力を蓄えたバンパイアが自分の事を知っている村人達をどうしたのか。
東の町へ一緒に移住した?いや、魅了されていることが露見する危険を冒してまでするメリットはない。
それなら……まさか。
僕は周囲の建物を見回す。
あの、他より一回り大きい建物。恐らくは村長宅か何かだろう。
そこから暗い瘴気が漂っている。やはりそうか。
あれは、りーんちゃんを近づける訳にはいかないな。
だから努めて明るい声でりーんちゃんに話しかける。
「よし、りーんちゃん、先を急ごうか」
「え、もういいの?」
「うん、これ以上調べても大した物は無さそうだからね。それよりもりーんちゃんのご両親に合流することを急ごう」
そうして僕達は急ぎその廃村を後にした。
バンパイア視点は後ほど閑話で……書かないかも。どう考えても明るい話にはならないし。
基本的に気軽に読める作品を目指していますので、多少話の幅を広げるための鬱展開とかはあっても一瞬で吹き飛ばしていきます。
なので、あと2,3話でりーんちゃんの両親と無事に合流出来るはず。




