32-3 鬼対決 決着
よろしくお願いします。
落雷によって巻き起こった土煙が晴れる。
そこに立っていたのは審判役のバールさんと、グランさんだけだ。
地面を見れば、身体の右半身が黒く焦げてプスプスと煙を出している風神のハルクと、全身を切り刻まれて血塗れになっている雷神のカンテラの姿があった。
ハルクは恐らく今の雷撃の直撃を受けたんだと思う。
カンテラは……カマイタチで切り刻まれたんじゃないかな。
一応2人ともピクピク動いていることから、生きていることが伺える。
『勝負あり。勝者グラン』
勝者の宣言をするバールさん。
それと同時に周囲を見回す。
『治癒士は無事か!急ぎ2人の治療を行え』
「治療なら私がやろう」
グランさんが名乗り出て、すぐさまアイテム袋から回復薬を取り出すと2人にぶちまける。
さらにより重症と思われるハルクの右半身に手を当てると、魔法を唱え始める。
するとグランさんの右手から発せられた光がハルクを包み込んで行き、3分後、光が消えた後には黒こげになった表皮がバリバリと剥がれ落ち、ほぼ元通りの姿になっていた。
「……父さんなら元通り完治させられるんだが。私もまだまだだな」
そう呟いたグランさんは同様にカンテラにも治癒魔法を掛けていく。
『……ぐ、うぅ』
『うっ、これは……』
目を覚ました2人は自分の状態と周囲を確認して、今どうなっているのかを理解したようだ。
『どうやら、俺達は負けたようだな』
『ああ。しかも治療までされているようだ。
しかし、一体何が起きたんだ?
俺の一撃は確かにお前に直撃していたはずだ』
「カンテラが雷を纏って落ちてくる瞬間、誘電体を作ってハルクの上に落ちるように仕向けたんだ。
上から狙われているのは分かっていたからな。タイミングさえ分かれば特に難しくは無かったな。
同時にハルクの纏っていた風の衣を弄ってカマイタチを上空に展開させてカンテラの通り道に配置しておいたのさ。
結果としてカンテラはカマイタチに切り刻まれながらハルクに突っ込み、ハルクも風の衣を攻撃に使わされた分、無防備に雷撃を受ける事になったんだ。
それでどうなったかは、見ての通りさ」
まるで何てこと無いように説明するグランさんだけど、聞いた周りの鬼達は唖然としている。
だってそれってつまり、2人の得意分野を手玉に取ってしまったって事なんだから。
「まぁ、過程よりも大事なのは結果だ。俺が勝ったって事は、そー君の案を受け入れるって事で良いな」
『ああ、そうだな』
『男に二言は無い』
「よし。その上で聞くが、お前達は子供達に今みたいな殺し合いをさせたい訳じゃないだろう」
『それは、そうだな』
「だからしっかりとルールを決めることだ。
例えば、今みたいに直接相手を傷付ける魔法やスキルは禁止する、といったものだな」
『なるほど。その辺りの話し合いは今後の課題だな。
ぐっ、それにしても風の一撃でこれほどまでのダメージを受けるとはな』
『俺も、雷がここまでのものだとは思ってなかった』
『『やるじゃないか!!』』
言いながらニカッと笑って握手をするカンテラとハルク。
なるほど、今まで2人はいがみ合ってばかりで直接戦っていたわけでは無かったんだね。
それでお互いの強さを認め合って、友情がって……単純だなぁ。
そんなんだったら、最初からいがみ合ったりしなければいいのに。
そうして場が落ち着いた所で、子供達が集まってきた。
『おっちゃん、すげぇな!』
『ピカって光ったと思ったら風神様と雷神様が倒れてるし、そうかと思ったらすぐに治療しちゃうし』
『もしかしてニンゲンの神様だったりするのか?』
『ねぇねぇ、他にも色々できるの?』
「おおっと、待て待て。そんなに一度に来られても困るぞ。
それと、お兄さんは神様ではないぞ。父さんは限りなくそれに近かったかも知れないけどな」
『うおぉ、すげぇ』
『おっちゃん、もっと他にも出来るのか!?』
わーわーきゃーきゃーと質問攻めにあるグランさん。
やっぱり鬼達にとって強さ=格好良いって事になるんだろうな。
すっかり、みんなの人気者になってしまった。
見かねたマルスの姉さんが手を叩いてみんなに呼びかける。
『はいはい、あなた達。グランさんは忙しいんだから、あっちでスモウ大会でもしてなさい』
『スモウ!!』『スモウだ!!』『行くぞ』
『ちゃんと大人の人に審判をお願いするのよ』
『『『はーい』』』
そうして手馴れた感じで子供達を誘導していく。
しっかりもののお姉さんだね。
やっとのことで開放されたグランさんは、残っている大人たちと共に話し合いをするようだ。
集落のひと際大きい建物に入っていく。
残った僕とメイラさん、カイさんは一足先に事の発端になった次元の亀裂を確認することにした。
毎度の事ながら戦いがあっさり終わっていく……。
ひとまず鬼とのゴタゴタはあと1話で一段落です。