31-3 鬼の子供達
よろしくお願いします。
いつもながらソージュ達が自由に活動してくれるので、なかなか話が真っ直ぐ進みませんね。
話し合っているバールさん達を眺めていると、その背中に飛んでくる小さな影があった。
『おやじ。なにやら面白い話になってるみたいだな』
『父上と呼べ。まったく。
でもまぁ、そうだな。色々と面白いぞ』
どうやら、バールさんの息子らしい。
あ、小さいといってもバールさんが大きいだけで普通に僕と同じ位の背丈はある。
ひとっ飛びにバールさんの肩に飛び乗る跳躍力といい、身体能力は高そうだ。
そしてその子を筆頭に各部族の子供達も集まってきた。
『お、ニンゲンだ』
『ほんとだ。こっちでは初めて見たわ』
『子供も居る。つえーのかな』
『あら、少なくとも、あなたよりは強いんじゃない?』
『んなわけあるか!』
わいわいわらわら、途端に賑やかになった。
こうしてみると、子供達はそれほど険悪な訳では無いのかな?
仲良しグループはあるみたいだけど、特別部族で分かれている訳ではないみたいだ。
僕のその疑問に気が付いたのか、雷鬼の女性が説明してくれた。
『子供達は纏めて女達で面倒を見ているのよ。
普段から一緒にいれば普通に仲良くなるわ。
ただ、それでも父親の影響は大きいからね。少しずつ派閥みたいなのは出来てしまうのよ』
『まったくね。喧嘩する暇があるなら山トカゲの1頭でも狩って来て欲しいわよね』
山トカゲ……きっと亜竜のことかな。
まるでウサギを狩ってくるくらいの気軽さで言ってるけど。
「それなら早めに父親達を仲良くさせた方が良いですね」
『そうね。だからさっきの君の案も良いけど、もう一声欲しいところね』
『うんうん。馬鹿だからやっぱ自分自身で納得させないといけないだろうしね』
「そうですか。馬鹿な男が腹を割って話して仲良くなる……。
なら、こういうのはどうですか?」
僕は子供のころに本で読んだ物語を元に、いくつか案を出して女性達と話し合った。
問題はこの世界の人間の僕達と、別世界から来た鬼の彼ら彼女らが同じ感覚かだけど、ありがたいことに意外と似た部分は多いようだ。
よし、そういうことなら。
「グランさん、ちょっと相談があるんですけど」
「ん?なにかな」
「お酒って大量に用意できたりしませんか?
あと、お風呂って作れないでしょうか。出来れば大人達全員が入れるくらい大きいのを」
「ふむ、なるほど。それは良さそうな話だな。
酒の用意は母に頼めば何とかなるだろう。
風呂は、突貫工事であれば2,3日で出来るか。幸いこのあたりは粘土質の土のようだから、上手く焼き固めれば風呂桶の代わりになるだろう。
ま。本気でまともな設備を作るとなると人手も必要だし、1ヶ月は欲しい所だが、そこは鬼達に手伝ってもらえば何とかなるか。
まあこれで上手く行くかは、彼らが単純であってくれるかどうかだな」
そうやってグランさんと打ち合わせをしていると、さっきのバールの息子が僕の所にやってきた。
『おい、ニンゲン。
お前が言ってたスモウだっけか。面白そうだな。
早速俺と勝負しようぜ!!』
にぃっと笑って拳を差し出してきた。
ビクッ。バールさんが僕を鋭い視線で見ている。
それはまるで『言いだしたお前が逃げたりしないだろうな』って言っているようだ。
えっと、あぁ、そうか。
つまり、力を示せ。その上で他の大人達も納得させてみせろって事なんだね。
僕も右の拳を握って合わせる。
「うん、分かった。僕はソージュ。君は?」
『マルスだ』
「よし、マルス。勝っても負けても恨みっこなしだ。それと殺し合いじゃないからな」
『はははっ、殺し合いじゃないって、ソージュは軟弱だな』
「違うよ。殺してしまったら、折角勝ったのにそいつに自慢できないし、そいつはリベンジしてこれないんだよ。
それともマルスは勝ち逃げがしたいのかい?」
『ばっ、逃げるわけ無いだろ!
よし、分かった。俺が勝つから何度でも挑んで来いよな』
そうして僕達は周りの大人が見守る中、土俵?の上へと移動した。
ふと後ろを振り返るとりーんちゃんが不安そうな顔で僕を見ていたので、笑顔で手を振っておく。
さ、りーんちゃんの見てる中、無様な姿を曝すわけにはいかないな。
バールの息子だから「バル○」かなっていう考えが一瞬過ぎりましたが、何とか回避。
そして次回からは異世界相撲大会です。