30-1 少女と朝のひととき
よろしくお願いします。
ジバンリン暦35年7月13日
朝、日の出前の夜露に濡れたブラッドベリーを採取していく。
ついでにちょこちょこつまみ食いをする。
うん、酸味が強めだけどいい味だ。
それと、こうして食べていると幾つか思い出したこともある。
まだきっと全部じゃないけれど、大分過去の記憶も戻って来た。
「んぅ、あ、お兄ちゃん、おはよう」
朝日が出てきたところでりーんちゃんも起きてきたようだ。
「おはよう。あっ、そうだ。良いものあげるから、口を開けて」
「うん、あーん」
素直に口を開けるりーんちゃんに採ったばかりのブラッドベリーを入れる。
「あむ。ふわぁ、美味しいね、これ」
「ブラッドベリーって言うんだよ」
「ぶらっどべりぃ。すっぱいのと一緒にお兄ちゃんの味がするね」
にははって笑うりーんちゃん。
僕の味って。そう言えば、昨日も僕の血をごくごく飲んでたよね。
これってもしかして。
「りーんちゃんは吸血族なの?」
「ん?なにそのきゅーけつぞくって」
「あ、つまり簡単に言うと、動物の血がご馳走になる人の事、かな」
「うん、それならそうだと思う。お家に居た時は良く、お水の代わりに飲んでたよ」
「そっか。それで僕の血が美味しかったんだね」
「うん♪とっても美味しかったの。
あ、でもお母さんから特別な時以外は人の血は飲んじゃダメって言われてたんだった」
「じゃあ、昨日は特別な時だったから大丈夫だね」
一瞬悪いことをしたように俯いてしまったりーんちゃんに、笑いかけてあげると釣られて笑ってくれた。
うんうん、子供は笑顔が良いよね。
と、そこに朝食を捕りに行っていたカイさんが帰って来た。
「この森は豊かだな。フクフク鳥の卵と飛びウサギが数羽手に入ったぞ」
「お、それは良いですね。っと、流石にここで火を使うのは良くないですね」
「うむ。安心しろ。近くに川も見つけてある」
僕らはカイさんの案内で川辺まで移動してから朝食の支度をする。
こういう時、カイさんが火の魔法を使えるのでありがたい。
「しかし少年のアイテム袋には何が入れてあるんだ」
「あはは、なぜか調理道具全般が入ってて良かったですね。あとは薬草関係と食べ物がメインです。
っと、出来ましたよ」
カイさんに卵焼きとウサギ肉のソテーをお皿に乗せて渡す。
「そしてりーんちゃんには僕特製のオムレツをどうぞ」
「わーい、ありがとうお兄ちゃん。じゃあ、頂きます」
ちなみにりーんちゃんに作ってあげたオムレツには、ウサギの内臓の内、美味しく食べられる部分と、あと隠し味で僕の血を混ぜておいた。
りーんちゃんはそれを美味しい美味しいって食べてくれるから、やっぱりこの味付けで当たりみたいだな。
そうして一通り食べ終えて、後片付けをした後でカイさんが僕に問いかけた。
「少年。これからどうする?」
「はい、予定通り次元の亀裂に向います」
「良いのか?グラン殿が君を置いて行くくらいには危険が待っているはずだが」
カイさんの視線はりーんちゃんに向けられている。
彼女を危険な場所に連れて行くのかってことだよね。うん。
りーんちゃん自身もそれが分かって僕にぎゅっとしがみついてくる。
「例えば町に連れて行ったとして、完全に安全なんてことは無いと思うんです。
先日のバッカスギの件もありますし。
それだったら一緒に行って自分で守った方が良いかなと思いまして。
この通り、彼女も僕から離れたくないようですから」
うんうんって頷くりーんちゃん。
それを見てカイさんも一つため息をつきつつ納得してくれたようだ。
「分かった。ならば少年が責任を持って守れよ」
「はい、必ず」
「では行くか。早ければ明日には次元の亀裂の近くまで行けるはずだ」
そして僕は昨日と同様にりーんちゃんをおんぶして、カイさんと一緒に森を走る。
その速さは昨日までの1.5倍近い。りーんちゃんの乗り心地を考慮して静かに走っているのにも関わらず、だ。
自分でもまだまだ余裕があることに驚く。
そう言えば、昨日よりもまた一段と体調が回復している気がする。
いや、それ以上に体が魔力で満たされているような、体内が綺麗になったような、そんな充足感まであるな。
もしかして、りーんちゃんに血を吸われたから?
まさかね。でも、実はそうなのかも。それだったら今夜にでもりーんちゃんにお願いして試してみようかな。
そうして昼過ぎに森を抜けて街道に出て、日暮れ前に見知った気配を感知出来た。
よし、どうやら無事にグランさん達に追いつけたみたいだ。
くっ、前に創っていたフラグの回収が大変ですね。
そして漸くグランさん達に合流できそうです。