27-A ギルド嬢の内情
よろしくお願いします。
またバトルが始まる前に一服です。
※
すみません、前後の話の時間軸がずれてしまったので、27-1話の喫茶店の一幕の内容を微修正してます。
話の流れに変化はありません。
ジバンリン暦35年7月11日
Side 冒険者ギルドのハンナ
こんにちは、ハンナです。
ベルカの町の冒険者ギルドの受付嬢をしている24歳、独身の可愛い女の子です。
大事なことなのでもう一度言いましょう。独身です。可愛い女の子です。異論は認めません。
1年間の職業訓練を終えて、ようやく先々月から1人前として受付を担当させて頂ける事になりました。
冒険者ギルドの職員になるには、担当にもよりますが、ある程度の能力が求められます。
まず最初に求められるのは冒険者ランクがD以上であること。
冒険者を相手にする仕事ですから。仕事の内容を実地で理解していないと難しいという事ですね。
例外は解体部門と査定部門で、こちらはそれぞれの専門スキルがあるかないかで判断されます。
そしてまずは仮採用という形で、就職することになります。
業務の内容は主に裏方と呼ばれる書類仕事。受付など、直接冒険者と接する仕事は任せてもらえません。
これは、事故防止のためだそうです。
以前、受付と冒険者が口論となり、結果として受付職員が怪我をしたり、最悪夜道で襲われて無残な姿になるなどの事件が起きたためだと言われています。
ですので、この期間の間は仕事と平行して鍛錬を行います。
目標はオーガを素手で殴り飛ばせて、暗殺スキルと対魔スキルを中級までマスターすることだって聞いた時には笑ってしまいました。
それが出来るならBランク冒険者にだってなれるからです。
実際冗談でも何でもなかったんですけどね。
ふふふっ、あの1年間の記憶は心の奥底に封印しておきましょう。
そんな艱難辛苦を乗り越えて、晴れて受付窓口を担当出来るのです。
なぜそこまでして受付担当になりたかったかというと、ずばり安全と出会いの為です。
安全というのは、自分で冒険者をしなくて済むっていう意味ですね。
冒険者は常に危険と隣り合わせの仕事ですから。特に魔物よりも同業者が危険っていう説もありますし。
そしてそんな殺伐とした状況では出会いも恋愛も無いんです。
基本的にパーティー内は同性同士の場合が多く、他パーティーと組んで依頼に取り掛かるというのも滅多にありません。
さらには成功している冒険者にはなぜかいい感じの女性が居るんですよね。
ならば多くの冒険者と話が出来て、新人冒険者にも真っ先に顔を売れる受付なら素敵な出会いが待っているだろう、ということなんです。
ま、実際には冒険者の男の8割はむさいおじ様だったり、性格の腐った人で私好みの美少年はなかなか居ないんですよね。
そんな折、グラン様が不思議な少年を連れてギルドにやってきました。
私基準で「美」を付けようか悩んでしまう所ですが、ギリギリ合格でしょう。
さらにグラン様はお連れのメイラ様ともどもギルド長に呼ばれて奥に行きました。
ナイスです、ギルド長。
さぁ、お姉さんがやさしく手ほどきしてあげますからね。
……え?Bランクの冒険者カード?造りは正式なものなのにデータが無い?こんなこと初めてです。
でも本人も最初から期待していなかったから、何か訳ありだったんですね。
よし、ならさっきのは忘れて初心者のEランクからスタートしましょう。
大丈夫、お姉さんに任せておきなさいね。って!?
「(オイ、ゴラッ。邪魔すんじゃねえよ、クソ共が)」
おっと、いけないいけない。
横から話に割り込もうとしてきたチームバッカスギに、思わず心の声が漏れる所だったわ。
あなた達が最近、新人いびりをしているのは知っているのよ。
ちょうど良い機会だし、潰しておこうかしら。
それにしても、この子も彼らの横槍を完全に無視して話を進めるあたり、胆の据わりようが将来大物になるわね。
って、今のは挑発スキル?
いくら馬鹿だと言っても、こんなにあっさり挑発に乗ってギルド内で武器を抜くなんて。
でもお陰で潰す口実が出来たわ。
どうかしら、わたしのメイスは。……よし、好印象ね。
って、ここでグラン様達が戻ってきてしまった。
ギルド長め、もう少しでいい所だったのに。
それで、え?グラン様が次元の亀裂の対応に向かって下さるのは助かるのですが、この子も一緒に行くんですか?
ですがこの子はEランクで。はぁ、道中鍛えるですか。まぁお2人の鍛錬について来れるなら大丈夫でしょうけど。
そして対応が終わったら、そのまま西に向かって、当分戻ってこない?
そ、そうですか。
畏まりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ。
はぁ。
どこかに素敵な出会いは無いかしら。
出来れば美少年で背が高くて優しくてお金いっぱい持っている子が良いんだけど。
……居ないわよねぇ。
本人は知らないことですが、彼女の二つ名は『撲殺乙女』です。
いくつになっても夢見がちな思考を持ちつつ、バトルメイスが唸りを上げる姿はまさに鬼とか。




