26-2 僕はだれ?あなたは……
よろしくお願いします。
うーむ、3章は難産になりそうです。
そうして男性に連れられた向かった先に待っていたのは、1台の馬車だった。
御者台に座っていた女性が僕らに気が付いてこちらに手を振っている。
「お帰りなさい、グラン。何か収穫はあった?」
「ただいま、メイラ。
今回の魔力反応は、この少年が飛ばされて来ただけみたいだ。
どうも彼、次元転移の影響で記憶喪失になっているみたいでね。
しばらく預かろうと思うんだけど、どうだろう」
そう言って男性、グランさんは僕の肩に手を置く。
ただ、僕はというと、その女性を見て何故か懐かしさを感じていた。
ぼーっとしていた僕を見て、変に思われてしまったようだ。
「あら?その子はどうしたのかしら。
私の顔に何かついてる?
あ、分かった。お姉さんに見惚れちゃったのね」
「あ、いえいえ。そんなことないです。おかあさ……ん?」
「へ?」
「え?」
あれ、僕は何を突然口走ろうとしたんだ?
違うよね、どう考えても。
なんで突然こんなことを言いそうになったんだろう。
「あっはっは、いやぁ君がそんなビックリする顔が見られるなんて新鮮だね」
「あ、そうよね。まったく、グランも人が悪いわ。その子と一緒になって私を驚かすなんて」
そうグランさんがフォローしてくれて、メイラさんも乗ってくれた。
「私はまだそんな大きな子供が居る歳じゃないし、もしその子の母親がわたしなら、父親は誰って話よね」
「えっと、お父さんは……」
ふと隣のグランさんを見る。
言われてみればグランさんも見たことがあるような……。
「はいストップ、そこまでよ!」
赤くなりながら慌てて止めに入ったメイラさん。
この様子だと、まだ恋人ではないんだろうね。
「それで、記憶喪失って話だけど、君の事は何て呼べば良いかしら」
「はい、名前の最初が『そ』なのまでは何となく思い出せたんですけど」
「そ。そー……うん、なら『そーちゃん』ね」
「またメイラは安直なネーミングを」
「あら、ダメかしら」
「いえ、僕はそれでも良いですよ」
なぜか違和感が無いし。
多分ここに来る前からそう呼ばれていたことがあったんじゃないかな。
「そうかい?なら私もそー君と呼ばせてもらおう」
「はい、よろしくお願いします」
「まあ、安心してくれ。君を元の世界に帰す方法に心当たりはあるから。
ただ、ちょっとここから遠い場所に行かないといけないから、しばらくは僕らと一緒に行動して欲しい」
「わかりました」
魔法の事はよく分からないけど、次元を渡るのって相当難しいと思うんだけど、それに心当たりがあるって、実はグランさんってかなり凄い人なのかもしれない。
メイラさんも背中に担いでいる大剣を見る限り、凄腕の冒険者なんだろう。
それにこの馬車。間違いでなければ、普通の冒険者が馬車を持っているって相当稼いでいるんじゃないだろうか。
「そういえば、グランさんたちは冒険者なんですか?」
「メイラはそうだね。僕はメインは旅商人かつポーターで、冒険者としてはBランクさ」
「ええ。私はAランク冒険者よ。
でも、こうして聞いていると、そーちゃんはかなりこの世界に近い環境から来たのかもしれないわね。
冒険者の事もそうだし、こうして言葉に不自由していないみたいだし」
「ふむ。確かにそうだね。ちなみに、そー君。
今はジバンリン歴35年7月10日で、ここはミスリニア王国の西にあるベルカの森と呼ばれる場所だよ。
何か思い当たることはあるかい?」
「……いえ、すみません」
「まあ、焦る必要はないさ。まずは今拠点にしている町に移動しよう」
「そうね。ご飯食べてぐっすり寝れば、何か思い出すわよ」
「はい、ありがとうございます」
そうして馬車に乗って移動を開始する。
なんだろう。この馬車の揺れもなんだか懐かしい。
やっぱりこの人たちは失われている記憶に関係のある人なのかもしれないな。
さて、このふたりは誰なんでしょうね~(遠い目)




