26-1 ここはどこ?
よろしくお願いします。
ここから飛ばされたソージュの話になります。
悲報:当分リーンさん達は出てきません。
Side ソージュ
気が付くと、僕は深い森のなかに居た。
辺りは深い霧が立ち込め、3メートル先も見通せない。
……ここはどこだろう。
僕はどうしてこんなところで寝ていたんだ?
まるで頭の中にも深い霧が立ち込めたかのように何も思い出せない。
ゾクッ
ちょっ。これは殺気!!
突然の殺気に、慌てて横に跳ぶ。
「ガアッ!!」
ズガッ
一瞬前まで居たところに巨大な斧が振り下ろされた。
その斧の主は……オーガ?
褐色の肌に身長2メートル半の巨漢。それだけならオーガなんだけど、額に角?
もしかしたら変異種なのか。
そんな僕の思考をよそに、今度は横薙ぎに振るわれた斧をしゃがんで避ける。
幸い力任せの大振りが多いから良いけど、後ろの木が何の抵抗も無く切り裂かれた事から威力は推して知るべしってことかな。
僕は一歩踏み込んでオーガ(仮)の膝を蹴る。
ガンッ!!
「いった」
まるで鉄の柱を蹴ったみたいだ。
更に左フックを鳩尾に突き入れる。ぐっ、こっちもまさに壁だ。
奴の顔を見ればニヤニヤと僕を見てる。
これはダメだな。この場は一度逃げる方がいいだろう。
そう思ってバックステップで距離を空けてから左斜め後ろに向けて走る。
よしっ、奴は追ってこないな。
でも何だか身体が思いような……って、新手!?
逃げた先から、さっきのと同じ様な姿の魔物が2体、こちらに近づいてきていた。
もしかしてここは彼らの庭なのか。
僕はそいつらの射程に入る前に進路を更に左に変更して走りながら周囲の気配を探る。
ここまでの3体の他にも2体、合計5体が僕を追ってきているようだ。
この霧の中、向こうも僕の位置を把握出来ている様で、3方向から包囲網を敷きながらこちらに近づいてくる。
僕は空いた1方向に走る。
って、これって拙くないかな。あいつらに知能があると考えると、わざとこっちに誘導している可能性が高い。
こっちに罠を仕掛けてあるのか、奴らのねぐらがあるのか。
その考えを肯定するように、まもなくして目の前に壁が現れた。
「この壁は、登れないか」
そうしている間にも魔物たちの包囲は狭まってくる。
どうする。一か八か奴らの間を走り抜けてみるか。結局は抜けた先が安全かどうかは未知数だけど。
一番近い魔物で10メートル。行くなら今しかないか。
「グォ」ズシィン。
「えっ?」
右手にいた魔物から断末魔と思われる声と倒れた音が聞こえる。
新手?敵の敵は、敵か見方か。敵なら勝ち目は無いだろう。
そんな僕の悩みを吹き飛ばすような緊張感の無い声が僕の耳に届いた。
「そこの人。言葉は通じるかな?通じるならこっちに来てくれ。悪いようにはしない」
「はい、ありがとうございます!」
この感じ、きっと悪い人ではないだろう。
そう思い、右手から聞こえたその声に、すぐに応えて走る。
そうして向かった先に居たのは、20歳前後の男性だった。
僕の姿を見たその人はほんの一瞬考える仕草をした後、付いて来るように合図を出して走り出した。
速い。でも、僕が追いついて来れるように加減してくれてるみたいだ。
そうして10分くらい走っただろうか。
無事に霧が晴れ、森の外まで出ることが出来た。
あの魔物たちも追っては来ていない。
「あの、ありがとうございました。お陰で助かりました」
「いやなに。たまたま近くを通りかかっただけさ。
それにしても、どうしてあんな所に居たんだい?と、言うのは違うか。
君はどこから来たんだい?」
「どこから……」
「ああ。たまたま、とは言ったけど、もちろん異変を感じたからあの場に行ったんだ。多分、あの鬼達もね。
私の感じた魔力反応からして、新たな次元の裂け目が出来たんじゃないかと思って心配していたんだけど、実際には君が居ただけだった。
だから君は別の場所から転移してきたんじゃないかって見てるんだけど、違うかな」
そう朗らかに言う男性。何だろう、この感じ。凄く懐かしい感じがする。
ただ、それよりも困ったことに。
「あの、すみません。それが分からないんです」
「分からない?」
「はい。全然思い出せないんです」
「じゃあ、自分の名前も?」
「名前、なまえ……確か『そー』何とかって呼ばれていたような気がしますけど、やっぱり分からないです」
「ふむ、次元を超えた影響で一時的な記憶喪失かな」
「どうでしょう」
「まあ、焦る必要はないさ。とりあえずは私の仲間の所に来るといい。時間が経てば自然と思い出すさ」
「はい、ありがとうございます」
そうして僕はその人に付いて行くことにした。
知らない所に飛ばされたソージュの前に現れた男性はいったい何者なのか。
そして記憶喪失になったソージュは元の世界に戻れるのか!?