兄の苦悩とは 2
「…それにしてもあついな…。」
先程から日差しが強いのか、腕まくりして訓練していても尋常なく暑い。
そこで僕はふと思い出したである。
最近にもこんな暑い日があり、妹が「こんな暑い日は、ねっちゅうしょーになりやすいだろうなー」と独り言を呟いていたのを。
ねっちゅうしょーとは何かと好奇心が駆り立てられ、妹に聞くと「体が暑くなり、意識が朦朧としたり、最悪の場合死に至る」と説明してくれた。
キメ顔をしながら、教えてくれたのは可愛かったが説明の最後が怖かった。
妹は聡明だ。可愛くて聡明だ。
だから時々、本当にこの子は5歳なんだろうかと不安になってしまうが、母が英才教育をしているので、結局妙に納得してしまうのだ。
僕自身も母から傷を作ったら〜など、生命線である魔法にできるだけ頼らず、傷口を治せる様にする技術を教えては貰っているが、いまいち分からないところもある。
そんな時妹にこっそり聞いてみると、満面の笑みで持っていた本の中でそれに当てはまる絵を見せながら教えてくれるのだ。
まぁ、それが最近の密かな楽しみなのは、バレた時恥ずかしいので内緒だ。
小さく笑みを漏らしていたのを気づいたのか、ルディがタオルと水を寄越しながら「まーたファナメリア様の事考えてたんですか?ニヤニヤして〜。」と、自身もニヤニヤしながら言ってきた。
――――――――うるさい。
よく冷えた水を煽りながら天を見ると、雲一つない晴天だ。
――――ん?
口に含んだ水に少し違和感を持ち、まさか毒かと思ったがルディがそんなもの寄越す訳が無いだろうし、ともう一度空になった口の中にそれを流し込んだ。
「……なんかこの水甘い様な…。」
今度は気のせいではなく、ルディに何を入れたと問い詰めると、
「あぁ、それファナメリア様が作ったんですよ。最近暑いから〜って。使用人分も作って。」
「えっ。作った…?」
「料理長に頼んで、リモの実を砂糖漬けにして、少しの塩と水で割るようにしたみたいです。」
リモの実。
時々サラダと一緒に出てくるが、それ自体をそのまま食べると口がしばらく酸っぱいとしか感じられなくなり、あまり好まれたものではなかった。
「お嬢様のおかげで常に暑い場所にいる料理長も、いつもより仕事がやりやすくなったらしいですよ。それを飲んだ他の使用人も同じでしたね。」
「そうだったのか…」
「…あと、頑張っているミカエル様にファナメリア様から贈り物ですよ。」
――――――贈り物?
空になったコップを片付けると、彼は自身の得意魔法のひとつである「収納ボックス」を発動した。
それは何度見ても不思議だが、空中に異空間が生まれそこに色々入るらしい。中身が気になって覗き込んだこともあったがその度に「うわ、ミカエル様スケベ!」とか言って直ぐにそれを閉じてしまうのだ。
彼はそこへ徐ろに手を入れると何かを取り出した。
「何それ。」
「ファナメリア様が砂糖漬けにしたリモの実を凍らせて、その後砕いて作ったものらしいです。見た目程酸っぱくないらしいですよ。」
透明なグラスだろうか、その中に黄色のリモの実が少し崩れている。
「料理長が言うには、砕くと言ってもまだファナメリア様の力ではここまでが限界だったと。」
―――妹よ、危ない事はしない様に。でも可愛いから今回は聞いてないフリで。
ニヤけそうになる口元を必死に隠しながら、グラスに入ったそれを口に含むと、口の中は冷え僕はこの後も稽古に頑張れると思えた。
リモの実はレモンです
ファナメリア「ポ○リが欲しい!!!」
って事で母親に頼み込んで自ら作り出しました。




