学校とは 11
『――――め。―――めて』
…声がする。
優しいのにどこか険しい声が。
母?
ううん。違う。
もっと若い女の子の声。
何故かその声が酷く懐かしい。
徐々にその声は消えていく。
…どうして?貴方は誰?
『――ナ。ファナメリア。』
あぁ、まだ分からないのに。
別の声が私を呼ぶ。
「ファナメリア。おはよう。」
まだ重い瞼を持ち上げれば、ぱっと視界に光がさす。
そして、目の前には陽の光に反射するプラチナブロンドと金色の瞳。
うーん。眩しい…。
「…おはよう、お兄様…。」
人形の様な綺麗な顔で微笑む我が兄、ミカエルはいつもよりどこかテンションが高い。
まだ微睡みの中にいる私は目を擦りながらゆっくりとその体を起き上がらせた。
眠い。
支度が整った私は、テンションの高い兄に連れられて食事をする為にダイニングへと降りた。
そこにはいつもより少し不機嫌な顔をする母と、珍しく呆れたような顔をする父がいた。
いつも父は、執務室で食べていて私はよく母や兄と食べていたので父がいる事に驚きを隠せなかった。
というか、まだ仲直りしてないのかよ貴方ら。と言いたくなるが、とりあえずお腹が空いたので兄の横で食べ始めた。
そして、主食であるパンに手を伸ばしたその時だった。
いつもより兄のテンションが高い事に疑問を持った父が、兄に聞いた所、兄の答えが私にとって思いがけない事だったのは。
「楽しみなんです。今日の勉強会。」
「勉強会…。あぁ確かユリウス殿下も来ると言っていたな。」
なにぃ!?
ユリウス殿下!?
私は一気に覚醒し、そして思い出した。
今日は、数日前私がパーティーの時に国語が苦手『かもしれない』仲間の兄と一緒に勉強会をするという約束した。
そこまではいい。けれど何故かユリウス殿下が参加したいと言ってきたのだ。
……やだなぁ……。
兄はいいけど……。
なるべくエレンや兄を除いて、攻略対象とはお近づきになりたくない私は心がどんどん沈んでいき、思わず小さくため息をついてしまった。
「ファナ?どうしたの?」
すぐ横にいた兄には聞こえていたのか、不安気な顔で心配され、私はこの際だから本当の事を言ってしまおうか、という衝動にかられた。
けれど、兄は殿下と文通のやり取りをする位、仲が良好だ。
そんな兄に「殿下と会いたくない」などと言える訳も無く、私は結局、「なんでもない」と返した。
話さなきゃいいよね。
なんて、思った私を誰か殴ってくれ。
目の前には、キラキラと輝く綺麗なブロンド髪。
少し細められたどこまでも澄んだ海色。
髪の色に合わせ、白と青を基調としたラフな格好。
にこりと微笑む少年、ユリウス殿下は何故か私の隣にいる。
勉強会で使う席は一応余裕を持って、六つ用意してくれたらしいが、我が兄の横には兄の親友であるエレン。
彼もあの時参加していい?と首を傾げて聞いてきたので、私は是非と返した。
というかいてくれないと困る。
主に私の胃が。
私も兄の横にいこうかと思ったのだが、何故かユリウス殿下の横に案内された。
なんでだ。
案内した使用人は、私が視線で助けを求めると何故かふんわりと微笑み、小さくガッツポーズを向けてきた。
なんでだ。
思わずため息を吐きたくなったが、すぐ横には一国の王子。
不敬だと思われる可能性があるため、出来なかった。
こうなったら総無視しよう。
聞こえないフリでもすればいいよね。
とりあえず、母が出してくれた薬学の宿題を済ませてから、国語をやっていこう。




