兄弟とは 19
「お兄様…。」
兄は声のかかる方へと視線を寄越してきた。
と、同時に私の存在に気づくと、こちらへと歩いてきた。
途端に表情は変わり、先程姉へ向けた悲しい微笑みではなく、まるで「なにやってるのかな?」と顔に書いてあり、威圧感たっぷりな黒い笑みでした。うん。
映像で見た未来の彼の片鱗が見えたぞう!怖い!!
「…お兄様…ごめんなさい…。」
素直に謝ると、兄は腕を組み更に黒い笑みを深めた。
「ん?何に対してかな?もしかして人の反対も聞かず、一人で突撃したこと?それともそれによって自分の命の危険も省みず、魔力を暴発させたこと?」
めっちゃ怒ってるうううう!!!!
「………それはやり過ぎだと思うわ………。 」
姉からも戸惑いというかあり得ないという瞳でドン引かれた。
何でだろうな。悲しいな!!そして笑うなら笑ってしまえルディ!
はっ、まだいるじゃないか!執事さぁぁあん!!
ばっと紅茶を淹れてくれた執事の方を見れば、彼は苦笑しながら部屋の隅へと移動してしまうではないか。
唯一の助け(未定)がいなくなり、私は顔をひきつらせた。
兄はそんな私の顔を見て、大きくため息を吐いたかと思ったら、姉に振り返った。
「…はぁ、それから姉上。怪我の具合はどうなんですか?」
「あぁ、それはお父様が回復してくださったから、もうすっかり。」
そういえば、父って回復系の魔法が得意だっけ。
らしいと言えばらしい顔である。
ふむふむと一人で納得していると、またもや隣の部屋から「いい加減になさい!」と言う怒声が響いた。
今度は私と兄の母、メアリーの方で、彼女にしては本当に珍しく、私も兄も目を見開いて隣の部屋を凝視した。
………修羅場ってんなぁ……。
この国は一応、一夫一妻で、愛人とは非公式。
あれ、今思い出したけど…じゃあ、どうして姉は私と同じ姓なんだ?
愛人との子は本妻との子とは、同じ姓にはならない筈だけど……。
何かあの三人にはある。
だから、母はそれが分かっていて尚、姉にも姉の母にも手出しはしなかった。
したといえば、私と兄が二人に極力関わらないようにしたことだろうか。
自分から関わってましたけどね!てへっ!
つくづく優しい母なのだが、そんな相手に声を荒げさせるとはアイシャ様はどれだけ母が怒る言葉を言ったのだろう。
私は思考回路をフル回転させてみたが、何せ情報が少ない。
知っていると言えばアイシャ様が兄と姉に暴行を加えたことぐらいで、私はそれ以外何も知らない。
私は自分の無能さに思わずため息を吐いたが、何故かそれと同時に隣の部屋へと続く扉がぶっ飛んだ。
ぶっ飛んだ扉は、そのまま壁へと当たり粉砕された。
ええ………扉が…破壊??
私を含め、その部屋にいた者は、目を点にして扉があった場所を凝視した。
そして、隣の部屋からは一人の女性が入ってきた。
その女性はとても美しい顔立ちをして赤を基調としたドレスを身に纏っていた。
それなのに、何故か赤みがかった茶色の髪を振り乱しており、横から見たその表情は修羅の様だった。
完全に目が据わっており、むしろ虚無を感じさせた。
こちらへと視線を寄越し、私達の存在に気づくと手に持っていた扇子を握りしめ、鋭い目付きがこちらを睨む。
「…お母様っ…!」
お姉様は震えた声でそう呟いた。
この人がアイシャ様か。
憎悪を含んだその瞳は、今にも私達を射殺しそうだ。
うわぁ…………
兄と姉の顔からは血の気が引き、他人から見ても分かるぐらい肩が震えている。
二人に危害を加えたのは、確実にこの人であっているだろう。
沸々と沸いてくる怒りが彼女に向き、口を固く結び彼女を睨み付けた。
彼女は私の存在に気づき、睨まれていた事が更に腹を立たせたのか、私に近づいてきた。
「…何よ…何なのよ!その目付きといい、その顔は!!」
その言葉を聞いて、私の中で何かが弾けた。
私はソファーから降り、兄と姉の驚く顔を無視して彼女へと近づいた。
「だって二人に今まで酷いことしてきたではないですか!!これ以上二人に酷いことしないで!!」
言い切った後、彼女を精一杯睨み付けた。
私の態度が気にくわなかったのか、彼女は肩を震わせながら顔を真っ赤にさせた。
「…っ何も知らない癖に!!」
そうだよ。そうだけど…!
でもと口を開いた瞬間私は誰かに口を塞がれた。
それは先程私の頬を包んだ手で。見上げればそこには優しく頬笑む母がいた。
「子どもを傷つける人の事など、娘は知りたくないのですわ。アイシャ様。いえ、アイシャお義姉様。」




