兄弟とは 16
『―――ファナメリア、ファナメリア』
聞きなれない優しい声が私の名前を呼び、それが頭に響く。
母とは違う低いけれど優しい声。
とても心地よくて懐かしい、でもこの声を聞いたのはいつだっけ。
………誰だっけ。
聞いたことがないはずの声に懐かしさを感じることはない。
だとしたらこの人は、誰?
「ファナメリア」
重い瞼が少しずつ上がり、薄目でも目の前にいる誰かが見えた。
そこにいたのは栗色の髪が襟足より長く、私と同じ金色の瞳をもつ男の人。
何度か兄や母の後ろ越しに見たことがある、この人物は。
「…おと、さま?」
ドフスキー・ベルリア・ミーシャ
私の父のはずだ。
その人の顔面が何故かドアップで私の目の前に広がる。
整えられたその顔は未来の映像で見た兄のミカエルの面影があり、それだからか見知らぬ人ではないとすぐに安心できた。
だけれど私の認識、まぁ父は忙しくほぼ家にはいなくて母に教えてもらったのが私の父像だが、寡黙なのはあってる。
でも、子どもというより家族に対して冷たい印象があると聞いていだが、今の父を見る限りそんなことは全然無いように思えた。
「魔力の暴発を起こして意識をなくしたのは覚えているか。」
「…え、あ、…はい。」
威厳はあるが、怒っているわけではないと意外なその声に驚き、しどろもどろになりながら返答をしてしまったが、何とか声を絞り出せた。
自分凄い、頑張った!
でも……どういうこと??
つい視線を彷徨いさせてしまい自分の浮いている足、そう、足……
ふぁっ!!??
目の前に自分の足がある。
普通なら地面にあるはずなのに、なぜ。
辺りを見回すと私はどうやら抱き抱えられているようで、地面が遠く膝の裏と多分背中の裏にも手が回っている感触があるので、横抱き、つまりお姫様だっこをされているという訳で。
ぎょえええええ!!!!無理!!はずか死ぬ!!
一応私、精神年齢成人してるんだよ!?純粋に恥ずかしいわぁぁあ!!!!
「…ファナメリア、今回の事。お前にも聞きたいのだが、なぜレミーナはアイシャに閉じ込められていた…?」
…………アイシャって誰だっけ。
必死に記憶を手繰り寄せてみるが、そんな人の名前は聞いたことがない。
でも、姉を閉じ込めたというのは姉の母だから、多分姉の母の名前だよね。
「…あの、お父様。一度下ろしては頂けませんか?」
「…分かった。こちらに座りなさい。」
と、降ろされたそこは赤茶色のソファー。
ほっと息をついて、何故か隣に座った父に振り返った。
それによって私の体に謎の緊張が走り始めたのは言うまでもない。
「…アイシャ様とはお姉様のお母様ですよね…?」
「そうだ。」
おお、よかった。合ってた。
いや、逆に合ってなかったら大問題である。
「…アイシャ様は…。」
真実を伝えようと私が覚悟を決めたとき、扉が勢いよく開く。
人の決死の覚悟を返せ。
扉から入ってきたのは、後ろにルディを控えた私の実母で、現公爵夫人である、メアリー・ベルリア・ミーシャだった。
いつも綺麗に纏められている髪は走ってきたのかグシャグシャになり、肩から艶のあるプラチナブロンドが流れ落ちる。
その10代とも思える若々しく愛らしい顔は二児の母とは思えない程だ。
ちなみに今アラサーである。
彼女の空色の瞳には涙がいっぱいに広がり、今にも溢れそうになっていた。
「ファナメリア!」
こちらへヒールを鳴らし、私の目の前に来て止まったかと思えば、私の頬をその手で包んだ。
母よ、どうした。そこは思い切りひっぱたくとかそんな感じではないのか。
そうか、そんなオチは無いんだね。
「お、かあさま?」
「魔力を暴発したと、ルディに、聞いて…痛いところは?気持ち悪くはない?」
走ってきて、息が途切れ途切れで言葉を紡ぐのに精一杯なようで、その額にはじっとりと汗が滲んでいた。
私の目線に合わせるためその場にしゃがみこんでしまったが、逆に母の方が低くくなってしまった。
「大丈夫、です…。ごめんなさい…。」
「本当に?違ったら明日からお母様と一緒よ?」
母と一緒に過ごすというのは、トイレ以外その室内から出ることなく、お茶会のマナーだったり絵本を朗読したりと…
つまりはほぼ軟禁ですね。はい。すみません。
常々思うが母は時々愛が重い。
この前、といっても3歳の時だが。
庭を走って転んだら呆然とする私を回収し、そのまま一日部屋から出さなかった時がある。
いつか聞いた話で兄曰く、本当は5歳になるまで外にも出したくないとかなんとか……。
それだけはやめてくれ、母よ。
っていうかこの家、過保護すぎませんか?
新キャラ続出してますね




