少女とは
エレン視点です
僕の目の前にいるのは綺麗なプラチナブロンドを持つ少年。
その手に握るのはもうまる1日、目を覚まさない彼の妹の手だ。
彼の妹ファナメリアは、昨日の昼ある騎士が駆け込んできてから、突然激しい頭痛に悩まされそのまま意識を失ってしまった。
彼女のその綺麗な金色の瞳からは大粒の涙を流し、長い睫毛が目を伏せられた時も輝いているようだった。
少し癖のある茶髪は枕に散らばり、白く透明な肌は今は青白くも見えてしまう。
元は父同士が学友だったから、僕はミカエルとも仲良くなれたが、ファナメリアはどちらかと言えば自分から関わっていかなければ彼女自身どこか誰からも一線を引いているようだった。
僕の気のせいかもしれないが。
だからこそ彼女が、前から好きな楽器であるピアノを弾いてほしいと言ってくれた時は結構嬉しかった。
その理由も至って簡単で、僕の家はどちらかと言えば楽器などの娯楽よりも戦う為に己を強くすると言った騎士の家系、だからこそ男の僕は楽器を触ることは疎まれている。
音楽を始めたのは数年前の事。
ミカエルと遊び始めて、ミカエルがよくフルートやピアノで色々な演奏をしてくれたのがきっかけ。
ミカエルも将来は騎士団に入り、妹を守るのだと息を巻いていた。
最初はミカエルの妹自慢が2人の間で交わされる会話で、僕ははっきり言って「こいつ馬鹿だろ」と呆れそうにもなったが、ファナメリアに会う前、僕は深窓の令嬢かと思ったけれど、彼女とあった瞬間そうではないと直感的にそう感じた。
話してみると表情は変わりやすいし、ピアノも所々間違えててミカエルによく注意されていて、至極普通の女の子にしか見えなかった。
少し癖のある茶髪が首元を隠すけれど日にあたり白く透明な肌をより際立たせ、横顔から見える彼女の兄と同じ金色の瞳は、日に反射して金色がより輝いている。
なのにどこか意志の強さも交えていたその瞳に、自分が映らないかと今も思う位だ。
だけど、今はその瞳が閉じられてしまっている。
ミカエルは彼女の手を自分の両手に握りしめ、彼女が起きるのをずっと待っている。
昨日倒れた時僕は急いでミカエルと共にファナメリアから引き離されミカエルの部屋で不安を募らせていた。
ミカエルの部屋にはルディも来ていたが、ルディも義姉のレミーナ様を救出するため調査員を派遣していた。
いつもは会話も妹以外なら大人しいミカエルも小さく埋まって、手を組み小さく震えていた。
僕も何が起きているのかと混乱して、ミカエルの背を撫でるしか出来なかった。
あの後、迎えが来て一度帰宅したがまた公爵家に来てみたものの、ファナメリアは目を覚ますことなくミカエルも母親から宥められたと聞いたがその表情は硬くきつく口を結んでいた。
「なぁ、エレン。」
「…?なんだ、ミカエル。」
「ファナメリアはあの時助けてって、僕に助けてって必死に服を掴みながら言ってくれたんだ。」
僅かにくぐもるその声は掠れていて、どうしようもなく居た堪れなくなってしまう。
「…うん。言ってた。」
「…僕は何が出来たんだろうな。ファナメリアが助けてって、言ってくれたのはまだ幼くても今回だけだったんだ。」
「…ミカエル。僕らはまだ子どもで無力なんだ。仕方ないんだよ。ファナメリアから助けてって言われる兄にこれからなればいいだろ。」
「……エレンの癖に生意気だ。」
なんだとこの野郎。
「ぶふっ…ミカエル様もエレン様も本当に仲良しですね。」
視線を動かせばそこには吹き出して腹を抱えているルディ。
その横にいたリリィが青筋を立て、彼の脇腹を肘で勢いよく小突くとルディは撃沈した。
「…失礼しました。…ですがミカエル様。エレン様が言っている事は尤もでございますよ。」
涼やかに微笑むリリィは、ファナメリアが寝ている方へ視線を寄越していたがそんな彼女の表情も青く、主であるファナメリアが本当に心配なのだと表していた。
「…うん。ごめん、エレン。前言言い直すよ。エレンの癖に小生意気だ。」
「え、変わってなくないか?」
「いや、退化したから。」
なんだとこの野郎。
嬉しいやら悲しいやらと、複雑になりため息をつくとそのため息と同時に鈴のような声がくぐもって短く発せられる。
「……う…うぅ…」
「ファナ!?」
固く閉じられていた瞳がゆっくり開かれていき、青白く見えた肌が温かみを戻していく。
「…お兄様…?………お兄様だぁ…。」
ミカエルを見た彼女は心底安心しきった顔で破顔していた。
この部屋にいた誰よりも彼女が不安だったのだと思い知らされた。
このあとミカエルはファナメリアを医師に見せるため、
ファナメリアから離れ僕の所へ来ると手で顔を覆い流石に疲れたのだろうと思ったら、「僕の妹可愛すぎるぅぅ…」とかなんとか呟いていたので「気色悪い」と言ってやった。