兄弟とは 9
リリィが外にいた人を連れてくる。
その人は我が家の騎士の制服を着ていたが、血や泥でボロボロになっていた。
その人の顔に少し見覚えがあったので、名を聞くと確か姉に付いていた騎士だった。
息も耐え耐えで話すのは姉の事だった。
「レミーナ様が…お叱りを受けて…」
なんでも騎士が話すには、私が姉に訪問した後すぐ姉が兄に暴行をした姉の母に、これ以上兄と私に危害を加えるようなら父に進言すると言ったという。
勿論姉の母は、それに反発し姉を離れへと軟禁したという。
姉も姉でそこから脱出を図ろうと、今回騎士に助けを呼ぶよう言ったのだ。
騎士に父への証拠の文を届けてほしいのと、私と兄に部屋から出るなという警告をして欲しいと、頼んだのだが騎士も1人でここまで来るのには苦労したのか、攻撃をしてくる追っ手を撒くのに精一杯だったらしい。
そして今に至る。
「…軟禁された離れはどこですか…?」
無意識だったかもしれない。
何せ頭が真っ白になったかと思うと、ぐるぐるとして気持ち悪いのだ。
エレンの事を考えていた時と同じ、これ以上考えるなと本能が言っているが、今回ばかりは姉の生命も関わってくる。
「…レミーナ様のお部屋の奥に…隠し扉があり、そこに…。」
「隠し扉……。…っ痛い…。」
「隠し扉」と聞いて何故か頭の痛みが酷くなり、立っていられなくて地面に膝が落ちてしまった。
身を縮めながら頭を押さえつけても、まるで金槌で頭を何回も殴られているようで痛みに、体が耐えきれないのか視界が歪み次第に冷たい何かが流れ始めた。
きつく目を閉じると砂嵐の様な音がなり、その中で何かの映像が途切れ途切れに流れた。
頬を伝うそれは止まることなく、頭痛もより酷くなる。
「…うぁ……痛い、痛いよぉ…っ!」
「ファナ!?どうしたの?頭痛いの?」
微かに目を開ければ、そこには私の顔をのぞき込む兄がいて、無意識に兄の服の裾を掴んだ。
リリィの医師を呼ぶ声が聞こえる、エレンの戸惑いの声が聞こえる。
ルディが騎士を手当し姉を救出するという声が聞こえる。
でも砂嵐の様な音は、その声達も次第にかき消して、尚も私を苦しめる。
「痛い!痛いよぉ…!お兄様助けて…痛い!痛い…!」
自分の悲鳴も聞こえなくなりそうで、必死に目を開けて兄を見据え叫び続けた。
兄は必死に何かをもがく私を察したのか、裾を掴んでいた手を離し自分の手の中で握りしめてくれた。
彼の表情は涙で掠れて全然見ることはできなかったけれど、辛うじて見えた口元は、大きく何かを叫んでいるようで動いているのが見えた。
それでも痛みに体が負けたのか、私は意識を飛ばしてしまった。