ターン9
「まさか迷路になってるとは思わなかったわ」
「フェイドが道が分かるらしい」
「頼もしいわね」
匂いを辿って進む。
迷路でも最短ルートを知っていればそこばかりに集中する。
空気の流れというものが薄いところでは残りやすい。
「迷路を通って階段を下りて行くのね」
「間違いないみたいだな」
最下層に到着すると壁には扉があった。
居住空間だったことが分かる。
奥には豪華な扉があったが不自然な気もする。
だが一番匂いが途切れている場所でもあった。
「入るか」
「そうね」
「フェイド、何か出てきたら攻撃できるか?」
地道に匂いを辿るだけでストレスが溜まっていたのだろう。
即座に臨戦態勢に入った。
扉を開けるとすぐにゴーレムが飛んで来た。
嬉々として飛びかかり砕いた。
一撃で終わったことが不満なのだろう。
丁寧に砕いていく。
「また階段ね」
「下りるか」
行き止まりではあったが作られた行き止まりではなかった。
洞窟のような自然な感じがあった。
「これ、全部がマハラミヤの石よ」
「自分で砕く必要があるわけか」
岩盤すべてがマハラミヤの石なら好きなだけ持って帰れる。
だけど発掘するだけでも恐ろしいくらいに時間がかかる。
だから少量なのだ。
だから大所帯では進めないようにしているのだ。
「これは持って帰るの大変ね」
「フェイド、待て待て」
不満を壁にぶつけるフェイドはジェイクに止められる。
ケットシーは退屈で寝てしまっている。
「あら?ジェイク、フェンリル君を止める必要はないようね」
「どういうことだ?」
「ここ、ヒビが入っているわ」
「よし、フェイドよく聞け。ここはものすごく地下だから生き埋めになるとまず助からない。加減しながら砕くんだ」
せっかく暴れられると思ったところに加減しなければいけないということでヘソを曲げたフェンリルは不満を全面に出す。
「フェンリル、お願い。新しい剣が欲しいの」
アンヌのお願いを無碍にはできない。
魔導士がパートナーだけと関わることが多い中、アンヌはフェンリルにも平等に接している。
尻尾が下がったままだが加減をして壁を砕く。
持ち運びがしやすいように小さくもする。
「フェンリルありがとう」
一財産築けるくらいのマハラミヤの石を手にすると階段を上る。
扉を開けるとそこにはゾンビが犇めいていた。
急いで扉を閉めるが状況は変わらない。
ただの洞窟に逃げる方法は無いし、おそらくこの扉を正規の方法で開けていないから罠が発動したと見える。
「ゾンビって呪印の中で死んだ人がなるのよね」
「あの部屋の壁の古代文字が呪印だったんだろうな」
「つまりは今まで死んだ人がゾンビよね」
「水で流すのは途中で死ぬ人を少なくするためだな」
強制的に運べば餓死されることもない。
目的地までに分かれ道がないのも時間短縮のためだ。
反対側も迷路に迷えばあの部屋にたどり着くだろう。
「とにかく蹴散らすしかないわね」
「ここにいても死ぬだけだからな」
「フェイド、行けるか?」
手加減しないで暴れられる。
さらに相手は確実に息の根を止める必要がある。
あの通路の狭さなら多対一になるのは避けられない。
「準備は良いかしら?」
「あぁ」
「同じく」
「開けるわよ」
扉を叩いていたのだろう支えを失ってゾンビが倒れてきた。
ゾンビの倒し方は首と胴体を一部でも切り離すことだ。
それで止まる。
原理は不明だが人だったときの急所が残っているのだと推測されている。
起き上がって来る前に的確に首を狙う。
身の軽さを活かしてケットシーは爪で切り裂く。
列の後ろのゾンビを相手にする。
フェンリルは部屋に入ってくるゾンビを加えた短剣で襲う。
この二体の働きで魔導士として戦う必要はほんどない。
通路が狭いことが不利なのは向こうも同じだ。
「ストレスが溜まってたみたいね」
「そうだな」
「適度に魔物狩りを増やした方が良いな」
好戦的な二体だということを忘れていた。
ときどき零れてくるゾンビを相手にする。
ゾンビは死体が残らない。
それはどうしてか。
原理は不明だけど行動不能になると霧のように消える。
「通路がゾンビで溢れて通れないということはないのよね」
「迷路全部にゾンビがいることにならないよな」
「可能性はあるな」
「侵入者を生きて返すつもりないわよね」
いくら一撃で倒せるからといって多勢に無勢では力尽きる。
ここにたどり着くまでに迷路があった。
あの通路すべてがゾンビで埋め尽くされているのなら勝ち目はない。
「とにかく階段を登るぞ」
「彼らが開いた活路だものね」
「やつらは階段を登れないのか?」
「扉を開ける能力もないようだな」
支えを失って流れ込んできたことはあるが階段を下りることはしなかった。
階段という場所は安全地帯でもあった。
「迷路にはゾンビがいるのかしらね」
「・・・待て」
「どうしたの?」
「戦闘音がする」
「私たち以外に戦っているというの?」
階段を慎重に上がり様子を伺う。
視界に入る分にゾンビの姿は無いが確実に何かと戦っている音がする。
周りの匂いを探っていたフェンリルが気づいた。
入り組んだ迷路から現れたのはウィリーの姉と数人の護衛だった。
「あれって」
「姉一行だよな」
「生きてたのか」
「生きてるとはちょっと違うような気がするのだけど」
確実にこちらに近づいているのに姿を認識しないのだ。
さらに階段を下りられない。
「見えてないのか?」
「死んでゾンビになったのではなくて生きたままゾンビになったの?」
「ゾンビがほとんどいないなら脱出するべきだな」
「そうね。助けるにしても軽装備すぎるわ」
行きと同じようにフェンリルが先導する。
帰りは自分たちの匂いを辿れば良いから楽だ。
階段を登ってもゾンビが現れることなく遺跡の裏に出た。