ターン4
『お前は役立たずだ』
『わが魔導士の一家の恥だ』
『こんなのが弟など恥ずかしいですわ』
『ごめんなさいね、母様が生んだから悪いのね』
『大丈夫ですわ、お母様、次は立派な子が生まれますわ』
『お兄様がいろいろ教えてやるぞ』
『伯父様が連れていらっしゃる魔物を譲ってくれるそうよ』
『良かったわね、あの子とは大違いね』
※※※
『あいつだぜ』
『あぁあの一家の穀潰しだろ』
『情けねぇよな』
『母さんがあの子とは一緒にいたらダメだって』
『魔物がいなくなるからって』
※※※
『えっっく、ひっく』
『・・・・・・』
『っく、ひぃっく、えっぐ』
『・・・・・・』
『すらいむ』
『・・・・・・』
『ぼく、やくたたずなんだよ』
『・・・・・・・・・』
『強くないんだよ』
『・・・・・・』
『すらいむ』
『・・・・・・・・・』
『ぼくとけいこしてくれるの?』
『・・・・・・・・・』
『でも痛いよ』
『・・・・・・・・・』
『痛くないの?』
『・・・・・・』
『避けるの?』
『・・・・・・』
『すごいね』
※※※
『てやっ』
『・・・』
『まだまだ』
『・・・』
『どぉ』
『・・・』
『せいっ』
『・・・』
※※※
『あいつスライム相手に戦ってるぜ』
『ばかじゃねぇの?』
『弱いから仕方ないって』
『弟の方がすごいって聞いたぜ』
『弟に負けてんの?』
『妹にも負けたって聞いたぜ』
『かわいそうに、なぁ』
『スライムに勝てないから仕方ないって』
※※※
「はっ!」
「大丈夫か?」
「だいっ」
「はい、水よ」
水を一気に飲み干して溜め息を吐いた。
いつもなら起きないスライムもウィリーの上に乗ってぷるぷると震えている。
「起こして悪かったな」
「いいわよ」
「話くらいなら聞くぜ」
「そうだな」
※※※
「俺は魔導士一家の・・・家の六人兄弟姉妹の四番目だ」
「すけぇエリート一家だな」
「だけど俺は落ちこぼれだ。ほかの兄弟姉妹が生まれてすぐくらいに魔物とパートナーを結んでいたのに俺だけいつまで経ってもパートナーがいなかった」
「遅い早いはあるだろうよ」
「それでも親は生まれてすぐにいないことは体裁が悪いとして蔑んでいた」
「まじか」
「役立たず、穀潰し、とさんざん言われていた。家では使用人も同じ感じだったから居場所がなかった」
「そうか」
「訓練所に入れる年齢になったら厄介払いのように入れられた。そこには兄と姉がいつもの調子で貶してくるから友達もできないし俺といれば魔物が近づかないのがうつると言われて独りだった」
「最低だな」
「稽古もできないし教師も何もしなかった。いつも泣いていたな」
「泣いてたのか」
「俺だって子どものときに泣くくらいはするぞ。まぁ毎日泣いてたけどな。どこで泣いててもいつ泣いてもライムが俺のところに来て一緒にいてくれた」
「スライムの違いとか分かるのか?」
「あぁ今と違って透明だったからな」
「透明!?いや、はい、あとにしよう」
「ライムというかスライムは痛みを感じないし衝撃も吸収するから遠慮というものをしなくて良かった。それに当たらないしな」
「当たらないのか?」
「すばしっこいから当たらない。周りからはスライムにも負ける弱い奴だと思われていた」
「おれでもおもうわ」
「ずっと一緒にいたからな。パートナー同伴の授業が受けられるようになって卒業の単位を集めることができるようになった」
「いいとこの家だもんな。辞めるなんてことはさせてくれねぇな」
「あぁそれで最後の卒業試験のときになった」
「それは私から話させて、もうすっごかったんだから。ウィリーとスライム君の連携とか本当にね」
「いや、ウィリーから聞けばよくねぇ?」
「良いから聞きなさい」
「はい」
「あれは・・・」
※※※
「おい、出来損ないが卒業試験を受けるらしいぜ」
「しかもパートナーがスライムだろ?」
「しっ、来たぜ」
ウィリーのことを悪く言うやつらが多かったわ。
でも、それを気にすることなく廊下の真ん中を颯爽と進むウィリー。
その後ろには従者のように付き従うスライム君。
二人は固い絆で結ばれたパートナーよ。
「こりゃ落ちたな」
「試験する前に結果は分かってるな」
好き勝手に言う生徒に堂々たる風格を持つウィリー。
結果は見えている。
そう見えているのよ。
いきなり後ろを振り返ったウィリーは遥か後方の廊下を這って進んでいたスライム君のもとに走った。
思い切り掴んだと思うと大きく振り被って投げたぁ。
「飛んで来いっつっただろうが」
廊下の突き当りまで約五十メートル。
剛速球の玉となったスライム君は壁に当たって張り付いた。
重力に従って落ちる様はまるでホラー映画のワンシーンよ。
ちなみにスライム君は赤色だったのよ。
壁に張り付くスライム君を見た生徒は叫んだ。
そう殺戮があったとしか思えない壁。
鬼の形相のウィリー。
えっ?
なぜ赤色だったか?
簡単じゃない。
トマトを食べてたからよ。
話を戻していいかしら?
「ちんたらしてんじゃねぇ」
スライム君は必死に何かを訴えるの。
「あっ?緊張?負けたらどうする?勝てばいいだけだろうが行くぞ」
気弱になるスライム君を励まし、そして試験会場へと向かう。
その背中は戦場へ向かう戦士そのもの。