ターン18
「あら?ドーラの歌声に耐えた魔導士がいたとは驚きだわ」
「魔導師ゾフィ様」
「シスターと呼ばれる方が好きだわ」
「シスター・ゾフィ」
「その恰好だと連合軍の方ね。残念ね、戦えなかったわ」
ゾフィは味方と敵の区別はする。
ただし敵だと認識されれば殺される。
「離れたところでしたので」
「離れていても気も失わずに歩いていることが驚きなのよ。あなた達、有望ね。どう?魔導師に推挙するわよ」
「わたくしどもでは力不足にございます」
「そう?あなた達には魔導士は役不足だと思うけれど?まぁいいわ。行きなさい」
「御前を失礼いたします、シスター・ゾフィ」
魔導師になるには魔導師に認められる必要がある。
素質というものを持っていれば誰でもなれるが無ければなれないという単純なものだ。
「魔導師にはなりたくないわ」
「聞こえるぞ」
「聞こえたところで遅いわ。すでにご存知よ」
「そうだな」
魔導師への推挙を断った時点で知られている。
ゾフィだったから生きているとも言える。
「もう少し自由に旅をしたいけど最後は訓練所の教師になりたいのよね」
「良いんじゃないか?」
「ジェイクもならない?良い先生になりそうよ?」
「そうだな。考えておく」
「ウィリーも一緒にどう?」
「俺は最後まで旅をするさ。教師になれば家のことが知られるからな」
ウィリーは家名と関わらずに過ごしたい。
だから本名のウィリアムを封印してウィリーと名乗っている。
「たまには顔見せなさいよね。旅仲間なんだから」
「あぁ分かっている」
「それにしてもすっかり光景が変わったわよね」
森だったはずだが焼け落ちて荒野が広がっている。
すべてが高温の火に包まれて灰となった。
「人は逞しいから大丈夫よ」
「そうだな」
「まずは南に向かう?」
「もうすぐカリュブの群生が押し寄せる時期だしな」
「なら決まりね」
※※※
これが僕の最大の出来事だ。
それがあったから僕は魔王様の側近として仕えているし、文字も書ける。
魔物の中には人の言葉を書ける者が少ないから僕は重宝されている。
文字を教えてくれたことはアイツに感謝してやってもいいかもしれない。
すごく癪だけど。
生まれたときには透明でほかのスライムから見つけてもらえなかった。
スライムは目が悪いというか目という器官を必要としないから発達させないやつも多い。
僕はウィリーのことが気になっていたから見えるようにした。
見えるようにして良かったと思う。
そのおかげで僕を見てくれる人もいたしウィリーと同じものを見ることができた。
あれから何年経ったか分からないけど僕のなかでは昨日のことのようだ。
忘れないようにと思ってウィリーとのことを本にしてみた。
仕事の合間に作ったから忙しかったけど楽しかった。
またウィリーと旅に出たいなと思った。
仕方ないからジェイクも入れてやろう。
アンヌはもちろんだ。
あれから僕の名前はウィリスになった。
魔王様がウィリーとスライムをかけあわせたものだと教えてくれた。
ライムはウィリーとだけの宝物にしろと言ってくれた。
あんなにも毎日食べたかったライムだけどウィリーがいなくなってからは食べなくなった。
美味しくてたくさん食べてたのに美味しくなかった。
ほかのスライムは僕のことを英雄だとか言うけど僕は英雄なんかじゃない。
誰にも気づかれなかった出来損ないのスライムだ。
ウィリーの家族のように言葉で言われたことはないけど、一度も気づいてくれなかった。
だから泣いているウィリーを見て仲間じゃないかと思った。
僕と違ってウィリーは強くて強くなろうとしていた。
一緒に強くなれるんじゃないかと思って付きまとった。
ウィリーはいつも泣いていたから分かりやすかった。
稽古が何か分からなかったけどウィリーがしてなくてほかの子供がしていることの違いは分かった。
どんどんウィリーは強くなった。
いつか僕はいらなくなるなと思っていた。
ウィリーが強くなるのに気づいた魔物たちがパートナーになりたいと集まっていた。
努力の天才のウィリーとパートナーになれば自慢できる。
たくさんの魔物がいるのにパートナーには僕を選んでくれた。
最弱のスライムを選んだら笑われちゃうのに。
ウィリーが笑われるのは腹が立つから僕は離れようとしてたのに。
邪魔しちゃいけないと思ってたのに。
僕は嬉しかった。
ウィリーと一緒にウィリーを馬鹿にしてたやつらをやっつけるのは楽しかった。
でも今は楽しくない。
ウィリーがいないと楽しくないんだ。
そうだ。
あれからスライムでもパートナーになれると噂になってスライムたちが魔導士のところに行ったけど返り討ちにあったよ。
それもそうだよ。
スライムはしゃべらないから何を言っているのか分からないもの。
ウィリーくらいだよ。
僕が言いたいことを全部分かるのは。
魔王様は魔力で会話をするから通じるけどね。
そう言えば、アンヌとジェイクも分かるようになってたね。
毎日見てたら分かるって言ってたけど凄いことだと思うよ。
アンヌとジェイクは訓練所の先生になってるよ。
どんな生徒も平等にしてるから良い先生だよね。
かなり年寄りだけど。
人は年寄りになるから仕方ないよね。
フェンリルはジェイクの孫をパートナーにするって言ってたね。
泣き虫でよく転ぶから危なっかしくて傍にいるんだって張り切ってた。
ケットシーはアンヌ以外にパートナーはいらないわって言って今もいるね。
死んだら訓練所で適当に過ごすって決めたらしい。
ベラニア遺跡の罠が解除されてからは地下の発掘現場から石が大量に持ち出された。
価格も大暴落して安価な石になった。
何も考えずに発掘した結果は崩落となり、二度と石を手にすることができなくなり反対に高価な石になった。